挿話 今際の際に見る夢~デュオル~ 2
――俺は、恐る恐る『光る石』に近づく……。
どうやらこの石は木の成長とともに幹の間に挟まれて、そのまま木に埋め込まれてしまうような形になってしまったようだ。つまり、今見えている部分はこの石のほんの一部であるということだ。
木に近寄ってみて埋め込まれた部分がかなり大きいことに気が付く。
「おい! 信じらんねー。これとんでもない大きさだぞ?」
驚いて俺がリムシュに叫ぶと、急に石がピカッ…と若干強く光ったかと思うと、スゥ……と光が消えてしまった。
「あれ? 光が消えちまった……ま、とりあえず取り出すぞ」
俺はそう言いながら、石に手を伸ばした。
ふと、『触った瞬間に砕けたりしたらどうしよう……』というちょっとした不安が頭を過ぎった。
俺はできるだけ優しく石に触れて、感触を確かめてみた。……なぜだろう? その時なぜか石に吸い寄せられるような気がして掌が熱くなった。そして、そのまま石を撫でてみる。
……うん。かなりスベスベしているけど、まあ普通に硬そうな石だ。特筆すべきはその美しさ、か。
「黒い透明な石……? こんなの初めて見た……」
俺は思わず口に出して呟いてしまった。それくらい、この石の美しさは際立っていた。
俺はそのまま力任せに石を引っ張ってみたがびくともしない。――どうやら完全に木と一体化しているらしい。
俺は手持ちの槍で石を傷つけないよう気を付けながら、石の周りの木の幹を剥ぎ取っていった。
「すごい。なんて綺麗な石なんだ……」
木の幹を剥がされて大部分が露出した石を見てリムシュがキラキラと目を輝かせて呟いた。
「本当だな。こんな石初めて見た」
俺も感嘆のため息をつきながら、石を見つめる。こんな石がこの森に眠っていたなんて……。
俺は感慨に浸りながらも、早速石を抱えて持ち上げようとした……が、メチャクチャ重い。
「おい! ちょっと手伝ってくれないか。すっごい重いんだけど、この石……」
思わず、ぼーっと突っ立っているリムシュに声を掛ける。リムシュは非力だが、居ないよりはマシだ。
二人掛かりでようやく石を木の間から取り出して、地面に置く。
「どうやって持っていこうか」
「抱えていくしかないだろう……」
「……だな」
こうして俺達はアダマントを見つけ、村へ運び込んだのだった――。
・・・・・・・・・
今思えば、あの時俺達の運命が大きく変わったのだろう。
アダマントに出会うことが無ければ、俺達はその年の冬に餓死をしててもおかしくない状況だったのだから。
しかしアダマントのお陰で村は大きく発展し、街になり、遂には国になった。俺なんてそのまま国王になったんだぜ。まるで夢を見ていたようだ――。
『そうだね……君は魔石と縁を強く結び過ぎた。それは人間の本来の運命を狂わすものだ』
――誰だ? 聞いたことの無い憂いを帯びた様な声がした。
『定められた因果を乱されるのは困るんだ。本当はこうして私が関与するのも避けたかったが、そうも言っていられないようだ』
「――何を言っている? お前は誰だ?」
俺は声の主に訊ねる。
『デュオル君って言ったけ? 君の質問には答えられないけど、君に生じてしまった因果律の破れはここで修復しておいてあげるよ』
「――俺とアダマントの出会いを無かったことにするということか?」
『ああ……まあ、それに近いかな』
「――なぜ、そんなことをする?」
俺が質問を重ねると、声の主が『ふーん』と呟き、言葉を続けた。
『さすが人間の王をやっていただけあって冷静だね。理由はさっきも言った通り、乱れてしまった因果の流れを整えるためだ。まったくあの魔石は一体何だろうね……このままにはしておけないかもな』
「――なんだと?」
俺が気色ばむと、声の主は優しく言った。
『おっと。君のこの人生はもう終わるのだから、気にしなくていいよ。生まれ変わったら、今度は正しい因果で生きてくれればいいからね。さあ、まずはゆっくり休むといい……』
突然、俺の意識の周りを暖かい光が包み込む。
……なんだ、これは? 穏やかな光で段々と意識が溶かされていくような気がした。
ダメだ……このまま溶かされてはいけない……! 俺の中で激しい警鐘が鳴り響く。
――アダマント!!!
俺が最後の力で呼びかけた時、フワッと風の精霊シフが突然目の前に現れた。
『ま、こっちはこっちで何とかやっていくから、デュオルは安心して天国にでも行ってろよな』
初めて聞いた……けれども確信を持って感じる。今のは、アダマントの声だ!
――頼む。この記憶をアダマントに届けてくれ……!
俺は溶かされていく意識の中で、最後に残った自分の魂を小さな風の精霊に渡した……。




