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挿話 今際の際に見る夢~デュオル~ 1



――夢を見た。まだ若いころの夢。


そうだ、これは俺があの運命の魔石と出会った日の思い出だ……。





・・・・・・





「おーい! デュオル」


集会所から出ようとしたとき、幼馴染のリムシュに呼び掛けられた。


「なんだ?」


俺が振り返ると、リムシュがその温和な顔に笑みを浮かべながら言った。


「禁断の森に行くんだろ? 俺も一緒に行くよ!!」


「お前……なんでそのことを知ってるんだ?」


俺が驚いて聞き返す。そのことは、まだ俺と代表者会議のメンバーしか知らないはずだ。


「元々、俺が村長に伝えたんだよ。禁断の森に入れるようになったかもしれないって」


「爺様に?」


現在の村長である自分の祖父の顔を思い浮かべる――。




「禁断の森に、最近動物が入っていく様子が見られているようだ」


その話を爺様に聞かされたのは昨日のことだった。


禁断の森とは、足を踏み入れた生物があっという間に死んでしまう、という恐ろしい現象が起きる森で、この村に生まれた者は子供の頃から決して近づいてはならぬと言い聞かせられてきた場所であった。


過去にうっかり足を踏み入れて死んでしまった動物たちの躯が入り口付近に散乱しているので、例え知らないで森の近くに来てしまったとしても、通常の感覚なら入ろうとはとても思えない場所だった。


その死の森に最近動物が出入りするようになった。これは俺達の村では重要な出来事だった。


あの森に入ることができるなら、この痩せた土地しかない貧しい村の生活が大きく変わる可能性があるのだ。森に入ることが出来たら、木の実やキノコと言った森の食材や、薪、腐葉土、その他様々なものが手に入るようになるだろう。


冬の餓死者も減るかもしれない……。


非常に危険だが、本当に森に入れるようになったのか、村の為に誰かが確認しに行くべき

だ――。


そういう訳で指名されたのが村長の孫である俺だった。俺もそのことについては異論は無かった。村の為に命を懸けるのは、村長の家に生まれた者であれば当然の責務だ。


しかし、リムシュはそんな危険に敢えて突っ込んでいく必要はないのではないか? そう思った俺はリムシュを思い留まらせようと、説得することにした。


「……リムシュ。下手したら死ぬかもしれないんだぜ。無駄に二人で死ぬ必要ないだろ? まずは俺が行ってみて、大丈夫そうであれば次にお前も連れて行くよ」


俺の言葉を聞いて、リムシュが温和な顔を更ににこやかにしてサラッと恐ろしいことを言った。


「ああ、それなら大丈夫だよ。実は俺、村長に報告する前に禁断の森に一回入ってみたんだよね。……御覧の通り全然ピンピンしてるだろ? もう死ぬことは無さそうだぜ」


「お、おまっ!!」


俺は驚きで言葉が出ない。そのまま、リムシュは話し続ける。


「たださー、森にでっかいクマが入っていくのを見ちゃったんだよね。だから、一人で行くのはちょっと危ないなーっと思ってさ。デュオルに一緒に来てもらった方が良いなって思ったワケ」


……こいつは、命が惜しくないのか惜しいのかよく分からん。


ま、元々リムシュはよく分からん変な奴だからな。頭がいいんだけど、人と違うことに興味を持ったり、気になることをしつこいくらい徹底的に調べたり。


禁断の森についても小さなころから興味津々だったから、きっと大人に内緒で見に行ってたりしてたんだろう……と容易に想像がつく。


「はぁ……その話も爺様にしたのか?」


「する訳ないじゃん。勝手に森に入ったなんて言ったらむしろあの爺さんにぶっ殺されちゃうよ」


――よくご存じで。


リムシュは全て計算ずくで、俺が森に行くように仕向けたのかもしれないなあ……なんて、幼馴染の顔をマジマジと見る。


「なに? 俺の顔に何か付いてる?」


リムシュがキョトンとしながら俺を見る。


「……いや、お前ってやっぱり頭いいのかもなぁって思っただけ」


「は? 今の話からなんでそうなる訳?」


リムシュは訳が分からないという顔をして、肩を竦めた。


「ま、そんな感じなら別に二人で行ってもいいか……。すぐに出発するけど大丈夫か?」


「もちろん!」


こうしてあの日、俺達は禁断の森へと出発したのだった。




森に入ってから、数時間ほど経った頃だろうか。下草を踏み分けながら道なき道を進んでいるときに、ふいに開けた場所に出た。



――そこには森の主とも言えるような古い大木が聳え立っていた。



「おい、見ろよ! あの木……光ってるぞ?」


俺はその木の一部がぼんやり光っていることに気が付いた。


「いや、木が光っているんじゃないないな……。あれは、石か……? いや、光ってるってことは魔石じゃないか?」


リムシュが光る物体の方をじーっと見ながら、俺に話し掛ける。


「……魔石って不思議な力を持つっていう石の事か? そんなモン実在するのか?」


俺はリムシュに聞く。けど、魔石なんて物語とかでしか聞いたことないし、実在するなんてとても信じられない。


「……ああ。俺は実際に見たことはないけど、前に村に立ち寄った旅の人が遠くの地域で見つかった魔石を見たって言ってた……石なのに光ってたって」


リムシュは目を輝かせて、光る石に見入っている。


「……うーん。魔石かどうかはわからんが、とりあえず珍しい石だし、村に持って帰るか」


俺は、森に入った戦利品としてこの綺麗な石を村に持ち帰ることをリムシュに提案した。


「ああ。これが本当に魔石だったら大手柄だぜ」


リムシュも異議なし、と言うことでさっそくこの石をGETすることにした――。










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