26話 光陰矢の如し
王国歴二十年――。
初代アダマント国王デュオルが崩御した。
『勇猛王』『勝利王』と呼ばれて国民に愛された王は、天寿を全うしその二十年の治世に幕を閉じた。
そして二代目国王にはデュオルの生前から指名されていたシャルが選ばれ、デュオルの服喪期間が終わるとすぐにシャルの戴冠式が行われた。
その間、忙しすぎて俺もシャルもデュオルの死を悲しむ暇も無かった……。いや、悲しまないで済むように、あえて忙しくしていたのかもしれない。今思えば、だけど。
シャルの戴冠式が終わった後、久しぶりに俺とシャルはゆっくりと話をする時間が取れた。
「アダマント……。今更だけど、私に王様なんて似合わないと思わない?」
『はぁ? マジで今更だよ。んなこと、今更言わなくったって元々似合ってねーだろ。何? お前自分で少しでも似合ってるかも~とか思ってたわけ?』
「む! リムシュは『段々板についてきましたね』って褒めてくれたんですけど!」
『まぁ、リムシュはお前に甘いからな』
「……はぁ。でもやっぱりそうだよね。デュオルみたいに立派な王様になれる気はとてもしないよなあ」
二十年前と変わらぬ姿をしたシャルはため息をつきながら俺に悩みを吐露する。見た目は変わっていないが、この二十年で話し方はある程度丁寧になったかな。
シャルが年を取らないことに気付いたのは十数年前だった。
いつまでも若い姿を保ったままでいるシャルに違和感を感じたリムシュが、数々の実験を行った結果、シャルの不老は俺の影響だということが分かった。
俺の癒しの力はどうやら生物の老化した細胞も修復するらしく、俺の欠片をいつも身に着けていたシャルはそのまま二十代の容姿を保ち続けていたって訳だ。……ちなみに実年齢はもう四十代くらいのはず……。
シャルが自分の胸元に揺れるペンダントに指を絡めた。ゆらゆら揺れるペンダントに嵌め込まれた黒い石がキラリと光を反射する。
俺がツオル国との戦いの前に渡した欠片を、シャルはペンダントにしていつも肌身離さず持ち歩いていたそうだ。
このことは余りにも重大な事柄であったため、俺の不老の力はデュオルとリムシュ、シャルだけの秘密とされた。
デュオルもリムシュも、俺のその力を悪用することはなく守ることを選択してくれた。これについては本当にあの二人には感謝している。
ま、そもそも『欠片を量産しろ』とか言われても従う気はねーけどな。そんな奴らじゃなくて安心したってところだ。そんなことでゴタゴタするのも楽しくないし。
ま、そんな訳で俺の力については一部の人間しか知らない訳だが、しかしシャルがいつまでも若いままでいることは当然人々の目には留まる訳で、それは『魔石の巫女の奇蹟』と言われシャルの神聖性を高めることに寄与していたのだった。
シャルに対して人々が信仰心に近い気持ちを持ち始めたことに気付いたデュオルは、次の国王にシャルを指名した。
「今後も恒久的に争いを起こさないためには、暴力ではない力で人々を惹きつけねばならない。シャルには既にその力が備わっているからな」
デュオルによる国王の後継指名を受け、代表者会議でも大きな異論は無く、シャルの即位が決まったのだった。
「はあ……」
しかし、その女王様はどうやら本気で自分に王は無理だと悩んでいるらしい。
俺はシャルをからかい過ぎたかもしれないと少し反省しつつ、本音で慰める。嘘つけないし。
『お前が王になること……それもデュオルの王としての判断だろ。立派な王だったデュオルの判断なんだから、お前が次の王になるのは間違ってないってこった』
「……そっか。そうだよね、デュオルの判断が間違う訳ない……か」
シャルは少しだけ笑って答えた。
『おう、デュオルもきっとあの世から見守っててくれるぜ』
「……はぁ……って言うかさぁ! なんで死んじゃったんだよ! デュオルのバカぁ!!」
ようやくいつものシャルらしさが戻ってきたみたいだ。死んでからも罵られるデュオルも災難だがな――。
ま、こっちはこっちで何とかやっていくから、デュオルは安心して天国にでも行ってろよな。
――俺はデュオルに届くよう願いながら、シフに言葉を乗せて空へと放った。




