25話 王国の始まり
「デュオルは大丈夫なのか!?」
俺の許に運ばれてきたデュオルを見ながら、シャルが心配そうに話し掛ける。
「落雷の直撃は免れたようですが、何らかの衝撃で気を失われたようです」
ぐったりとしたデュオルを運んできた騎兵の青年が説明する。
『と、とりあえず、デュオルを俺の側に』
俺は動揺するシャルに指示をする。パッと見は怪我したようには分からなくても、雷の影響でどこかにダメージを受けているかもしれない。
やべー。デュオルを巻き込んじまった……。俺はちょっと焦る。
シャルがようやく冷静さを取り戻して、テキパキと騎兵たちを指示し始めた。ひとまずはデュオルの鎧を脱がせ、大きな怪我がないか確認した後、できるだけ体全体を俺に密着させて横たわらせる。
俺は探知能力を使ってデュオルの体内を調べる……どうやら命に係わるような外傷や内傷は負っていないようだ。――ほっと安心して胸を撫で下ろす。胸は無いけどね。
「……ん」
しばらくすると、少し身動ぎをしてデュオルが目を覚ました。
「デュオル!!」
ぼんやりと目を開いたデュオルに向けて、シャルが呼び掛ける。
「シャル? ……ここはどこだ? 俺は落馬して……ツオル王は?」
デュオルは頭を押さえながら起き上がった。
「ツオル王は死んだよ。アダマントがあいつに雷を落としたんだ」
シャルが端的に伝える。
「ああ、だから意識を失う前になんかビリビリしたのか……」
『デュオルまで巻き込んじまってスマン……思わずやっちまった』
「アダマントがスマンって」
シャルの通訳にデュオルは「気にするな」と返してきた。
「おかげで、俺も助かったしな」
にっと笑ってデュオルは俺をポンポンと軽く叩いた。
こうして色々と危ない場面はありながらも、アダマント国の最初の戦争は大勝利で幕を下ろした。
その後、アダマント国は正体不明の恐ろしい兵器を持っているという噂が、様々な虚構も織り交ぜながら各国へと広がっていった。
それはツオル国軍の全面降伏、ツオル王の戦死という惨状も相まって、野に広がる炎のようにアダマント国の周辺国の隅々まで広まっていったのだった。
――以来、アダマント国に戦を仕掛けてくる愚かな国は無くなった。
ふふふ……これぞ、抑止力! 強大な力を持つ国には誰も攻め込まない。それも計算した上での今回の作戦だったのだよ。諸君。
大勢の人間の前で必要以上の火力を見せつけ、とても敵わないと認識させることで侵略する意志を挫く作戦だ。
ただ、俺がその兵器であるということはヒ・ミ・ツ。知られてしまえば、今度は俺の奪い合いになっちゃうから。
俺は表向きはあくまでも癒しの力を持つだけの魔石だ。
俺の攻撃能力を知っている村人たちには戒厳令が敷かれ、村人たちも争いが起きるのは望まないということでしっかりと秘密を守ってくれていた。
こうして長年の平和を約束されたアダマント国は、俺の住む神殿を中心とした華やかな王国文明が花開いていくことになった――。




