22話 人類の歴史は戦争の歴史……とドヤ顔で呟く石
「ツオル王が宣戦布告をしてきた」
デュオルの言葉に、代表者会議のメンバーはざわついた。
「シャルに振られた腹いせでしょうね。俗物が王になると本当に迷惑しますね」
リムシュがやれやれというようにため息をついて言った。
「おいおい、そんな呑気な話じゃあないだろ。ツオル国と言えば今一番勢いのあるクニだぞ」
代表者の一人である髭面のじーさんが苦言を呈する。
「いや、こちらにはアダマントが居る。負けることはないのでは?」
もう一人別の代表者が口を挟む。
――おう。俺も戦うこと前提ね。……ま、俺の責任でもあるし、いいけどさ。
「いやいや、問題は別の所にあるだろう? ツオル国の軍隊を一瞬で殲滅させたとなったら、他のクニからも脅威と思われ、魔石を巡ってさらなる争いを生み出す可能性が……」
――もう、面倒くさいから全部ぶっ潰すでいいんじゃないかな……。
俺はあくび混じりに退屈な議論を流し見する。
「……おい、アダマント。お前、ただでさえ危険物なんだから、物騒なこと言うなよ」
いつの間にか俺の横っちょに手を置いて、俺の考えを読み取っていたシャルが軽蔑の目で俺を見る。
『お、おま……。だからヒトに触れるときはちゃんと断ってからにしろよな! 人権侵害だぞ……って、俺に人権はないか、そう言えば』
俺は慌ててシャルに釘を刺しつつ、悲しいことに気付いてしまった。石だからね。しかし、いずれは『石権』という概念をこの世界にも浸透させねばなるまいて。
「……俺に分かるように話せよな……」
シャルが呆れたように俺を見る。
――相変わらず冷たい目をさせたら天下一品だな、こいつ。
「聞こえているぞ」
『ああ、すまん。つい本音が……』
俺達がくだらないやりとりをしているうちに、議論はある程度収束し、デュオルが結論を出した。
「我々もクニとして独立する時が来たのだろう。中立地帯として無条件に様々なクニの人間を受け入れるのには限界が来たということだ。これからは同盟と敵対を明確に分けて各クニとの付き合いを考えていくことにしよう」
全員、異論無いという顔で頷いた。
『――こりゃ、血腥くなりそうだなぁ』
俺は記憶にある人類史を思い出す。人類の歴史は戦争の歴史とも言うし……。この世界も同じような流れを辿るようだ。
俺は人ごとのように独り言ちる。ま、俺は石だし、文字通り人ごとなんだけどな。
こうして俺達の街はアダマント国として名乗りを上げ、デュオルが初代の王様となった。
変な名前だと言っていた俺の名前を、そのまま国名にした理由については深くは追及しないことにした。まあ、デュオルもようやくこの名前のセンスの良さに気付いたのだろう。
――そしてなだれ込む様にツオル国との全面戦争が始まった。
◇
『お前は神殿で待っていた方が良かったんじゃないのか?』
俺はシャルに向かって、また同じことを呟いた。
俺達は今、ツオル国との戦場へ向かう軍隊の中にいる。そして、俺専用に作られた輿に揺られながら、隣に座るシャルに話していたのだ。
「うるせー。俺が居なかったら、お前もデュオルも話が通じなくて困るだろうが」
『それはそうだけど……。戦場って危険なんだぞ』
「んなこと、知ってる」
俺もデュオルもリムシュも、シャルが戦場に付いてくるのだけは最後まで反対したのだ。
戦場では何が起こるか分からない。シャルにもしものことがあっては……と俺達が止めるのも聞かず、シャルは強引についてきた。
先ほどの出発の際にも、デュオルの代理として街に残るリムシュが何度もシャルの説得を試みたが、結局は徒労に終わった。
『はあ……ったく、本当に強情だな』
俺はため息交じりで呟いた。
「……後悔したくないんだ。アダマントやデュオル達が戦うなら、俺も近くで戦いたい」
シャルは強く目を光らせてそう言った。どうやら生半可な気持ちで付いてきた訳では無いらしい……。
『仕方ねーな……ちょっと俺の近くに手を出せ』
「え? この辺?」
俺はシャルの手が俺の近くに来たのを見て、自分の体の一部を“パキン”と割った。
「え? え?」
シャルが慌てて、俺の体から外れた欠片を両手でキャッチする。
『それ、持ってろ。お守り代わりだ。少しくらいの怪我ならそれで治せるだろうし』
俺の言葉にシャルが驚いた様に目を見開く。あ、いつもの驚き顔だ。
「い、いいのか?」
シャルがそおっと両手を開いて、俺の欠片を見つめる。
『いいに決まってるだろ。あ、失くすなよ?』
「失くすわけない! ……ありがと、アダマント」
シャルは嬉しそうにへへ……っと笑って、俺の欠片を握り締めた。




