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21話 親父面する魔石はウザイだろうか?


それにしても……と、俺は少し考え込む。


最近、戦のケガで運ばれてくる患者がずいぶん増えた。デュオルに聞いたのだが、どうやらいくつかのムラがまとまってクニになり、さらに勢力を広げようとクニ同士の争いが至る所で起こっているらしい。


先ほどのツオル王もそのように勃興したクニの王で、特に戦に強いと評判らしく、既に多くのクニを打ち破りその勢力を大きく伸ばしてきているそうだ。


だからこそ、デュオルが断れなかったわけだ。


幸い、この町は俺がいることで中立地帯として成り立っているらしく、攻め込まれることはないようだが、それでも争いのきな臭さは町中で感じられているようだった。


どこの世界でも人間って争いをしてしまうもんなんだなあ、と俺はため息をつく。今の俺には、この町が争いに巻き込まれないように祈るしかできない。




その時、“バタン!!”と荒々しく扉を開けて、シャルが真っ赤な顔をしてドカドカと足音も激しく部屋に入ってきた。


うおっ……今度はなんだ??


俺が身構えると、シャルに続いてデュオルも入ってきた。


ちなみに、デュオルももうすっかり初老のオッサンになっていた。しかし、相変わらずムキムキした体格は維持しており、白髪交じりの髪も相まっていい感じのダンディオヤジになっていた。


「おい、シャル。さっきの態度はツオル王に失礼だぞ」


「最初に失礼だったのは、あのヤローじゃんか!!」


デュオルに掴まれた右手を振り払って、シャルが大声で喚いた。


その後、素早く俺の祭壇の後ろに回り込み、座り込む。シャルが子供の時から怒った時にとる態度だ。


おいおい……何があった訳?


俺はピカピカと体を光らせる。


デュオルは困ったように俺を見ると「はぁ……」とため息をついて、俺の前に胡坐をかいて座った。


「アダマント、困ったことになった……」


時々、デュオルは俺に相談事をするようになっていた。だから、こんなふうに話しかけられることも最近は珍しくはない。


ま、いつもはシャルも隣に居て俺の言葉をデュオルに伝えるんだけど、今はまあ無理そうだな。


仕方ないので、俺はピカピカと光って返事の様なものをした。聞くだけ聞いてやる。


デュオルは俺が光るのを見て、コトの顛末を話し始めた。


「さっき治療してもらったツオル王なんだが……」


――ああ、さっきのイケ好かないヤツね。


「傷は無事に治って、寄付金もしっかり払ってくれたんだがな」


――ふーん。それでどうしたんだ?


「その後にな、シャルを気に入ったから嫁に寄越せって言ってきたんだ」


――ブフゥッッッ!?


俺は思わず仰け反った。比喩的な意味で。人間だったらズッコケてたよ。確実に。


――なんなの? ツオル王に対するシャルの態度に気に入るところなんてあったっけ? あいつ、もしかしてドMなんじゃないの?


俺の思考が混乱する。その時、


「あんな奴の所に嫁に行くぐらいだったら、死んでやる!!」


急にシャルが俺の背後から物騒なセリフを吐き捨てる。


「お前があの王を嫌っていることくらい俺にだって分かっている。――しかし、腐っても奴は一国の王だ。気に入らないから嫌です……という簡単な話ではないんだ」


「じゃあ、デュオルは俺にアイツの嫁になれって言うのかよ!!」


シャルが立ち上がって怒鳴った。


「それが望まぬことだから、困っているんだ!」


デュオルも少し声を荒げる。


……デュオルがこんな風に怒るのも珍しいな。俺がそう思うだけ、今回の件が厄介なことを物語っているのだろう。


「ふぅ……すまん。シャル。ひとまず落ち着いて、アダマントの意見を聞いてもらえるか……」


デュオルは一度大きく息を吸って冷静さを取り戻すと、穏やかにシャルに話し掛けた。


「……わかったよ」


シャルが俺に手を当てる。


『しかし、ツオル王は趣味が悪いな!』


開口一番に発した俺のセリフを聞いて、シャルがごつんと俺を殴る。


「痛って……」


もちろんシャルが痛いだけだ。


「おい、何やってんだ」


デュオルが呆れたようにシャルに注意する。


『ま、行きたくねーんなら行く必要ないだろ。俺がどうしても反対したとでも言えばいいだろ? 魔石様が許可をくれないなら、ツオル王だって無理は言わねーだろ。ってか無理を言ってきたら二度と治療してやんないし』


俺の言葉を聞いて、シャルが分かりやすく目を輝かす。そして、そのことをすぐにデュオルに告げる。


「……アダマントの意思ということにしていいのか?」


デュオルが俺の方を見て、聞いてくる。


『おう!』


俺は返事代わりに、ピカピカと二回明滅した。


「そうか、分かった。ではそうさせてもらうぞ、アダマント」


デュオルはそう言って、シャルを残して部屋を後にした。




『けどさ、本当に断ってよかったのか? 相手は王様だぜ。玉の輿じゃんか。俺の話し相手をしているよりもよっぽどいい生活できるんじゃないのか?』


俺はまだ俺に触れているシャルに話し掛ける。


「ふざけんな!」


シャルが悪鬼のような眼で俺を睨む。――おお、怖えーな……。


『しかし、お前にも縁談の話が来るようになるとはなぁ……。隔世の感だぜ』


俺は何げなく呟きつつも、少しチクリとする胸の痛みに気付かないふりをしようとする……が敢え無く本音が駄々洩れてしまう。


『……もし、さ。本当にお前が嫁に行きたい相手が現れたら、いつでも行っていいんだからな? そりゃ、俺も寂しくはなるが……』


やべぇ……! 俺、なんか今、恥ずかしいコト口走ってるよ! 親父かよ!


「……ふざけんな」


シャルはそう言い捨てると、サッサと部屋から出て行ったのだった。


ほっ……これ以上、余計なこと聞かれなくて良かったぜ。


俺は安堵した――。











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