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20話 魔石は多忙なのだ

 あれから数年経った。


 いつの間にか俺の魔石としての名声は更に高まり、神殿には以前にも増して……というか、以前とは比べ物にならないくらい多くの参拝客が訪れるようになっていた。


 村の規模はかなり大きくなり、もはや街と言えるほどに栄えていた。そして今では『アダマントの街』と呼ばれるようになっていた。そのまんまやん! というツッコミはナシでお願いしたい。




 俺は変わらず例の神殿に安置されていたが、割と忙しい毎日を送っていた。


 そう、石なのに忙しいのだ!



「先日の戦で王が矢傷を負ってしまいまして……ぜひ魔石様の癒しを頂きたく」


 豪華な服を纏ったおっさんが、俺の前に(ひざまず)き口上を述べる。


「うう……痛い! 早くしろ! 儂の傷を治したらいくらでも寄付をする!!」


 その後ろでは、これまたさらに豪華な服や宝飾品を身に着けた太ったオッサンが喚いている。


「ツオル王……神殿内ではお静かに」


 俺の傍らに立つすらっとした女性……シャルが、太ったオヤジに注意をする。


「なんだと! 巫女風情が儂に指図をするな!! それよりも、早くその石に儂の傷を治させろ!!」


 シャルはピキッとコメカミを動かす。おお、怖ぇ……これは怒っとるな。


『――このオヤジはなんで俺が無条件にテメーの傷を治してやると思ってんだろーな』


 俺の呟きに、シャルが「さあ?」と冷たい目でオッサンを見下ろしながら返事をする。


「ご、ご無礼を、申し訳ございません!! 我がツオル王は傷の痛みが酷くて動転しておられるのです。何卒、今の発言をお許しいただき、王の傷の治療を……何卒」


 先ほどツオル国の大臣だと名乗ったオッサンが、シャルの冷たい目を見て慌てて頭を下げる。この人も大変だな……。


『しゃーねーから、治してやるか』


 俺は我が儘な王様に振り回されているであろう大臣に免じて、ツオル王の怪我を治してやることを決めた。


「……ふーん。治してあげるんだ」


 シャルが少し不満げに呟いたが『いーから、早くそいつに説明しろ』と俺は命令する。


 シャルはふん、と言う態度を少し出したが、大人しく俺の言葉に従った。


「では、ツオル王。こちらにお越しいただき、魔石に患部を触れて下さい」


 シャルの誘導でツオル王が俺に近づき、包帯の様なものが撒いてある左肩を俺にくっつけった。


 ちっ、やっぱオッサンにくっつかれるのは、相変わらず不快だな。


 そんなことを思っている間に、あっという間にツオル王の傷は塞がったらしく、


「……ん? 痛みが引いた? ……痛くない!? まさか!? 本当に痛くないぞ!!」


 驚いた様に目を見開き、ツオル王が慌てて包帯を外す。――そこにはすっかりと閉じた傷跡が残っているだけであった。


「……信じられん! ここまでとは……」


 ツオル王が俺のことを驚愕の目で見ながら、何度も呟く。お付きの者たちもまるで信じられないというように、目を丸くしていた。


 そう。ここ数年、俺は怪我人の治療な様なこともやっていたのだ。石(医師)だけに! ……ああ、久しぶりにスマン。ちょっと調子に乗ったわ。


 昔から俺を拝むと体調が良くなるとかの怪しげな噂が独り歩きをしていたが、つい数年前、実際に俺の体には生物の傷を修復するという効果があることが長年の研究で明らかにされたのだ。


 ただ、傷を癒すには直接俺に触らないと効果は出ないということも分かった。


 しかし、その効果が発見されてから、更にドッと参拝客が増えたって訳だ。


 ちなみに発見者はリムシュね。リムシュは魔石である俺の能力を調べるため、俺に対して様々な実験をしていた。その過程で俺の癒し能力が発見されたのだ。


 それ以外にも、俺の体が非常に硬いこと(今の所、俺を傷つけられる物質は見つかっていない)なんかもリムシュは実験で明らかにしていた。


 アイツまじで人のこと実験用マウスみたいに思ってる節があるからな……。


 最近マッドサイエンティストっぽくなってきたリムシュを思い出して、苦笑いをする。



 なんて、俺がよそ事を考えている間に、


「治療は終了いたしました。次の方がお待ちですので、速やかにご退室をお願いいたします。先ほど仰っていただいた寄付については別室でお打ち合わせをさせて頂きます」


 シャルが冷たい笑顔をツオル王と大臣に向けて、遠回しに早く出て行けと言っていた。


「……は、はい。ありがとうございました。ではツオル王、参りましょう」


 早く出て行けというプレッシャーに気付いた大臣は、自分の主を上手くいなして退室していった。……まったく、あの大臣には同情を禁じ得ない。




『今の奴らが最後だっただろーが。お前もよく言うよな』


 俺の治療は予約制なのにも関わらず、デュオルが「すまん、どうしても断れない」と頼み込んできた飛び込み案件だったので、アイツらは今日の一番最後の治療に回したのだった。


 シャルはそれだけでもイラついていたのに、あの無礼な態度はよほど腹に据えかねたらしい。


「あの態度にムカついてるだけじゃないよ! ああいう奴らが自分勝手に争いを始めて、無関係な人たちに迷惑をかけるんだ!! その割に自分が怪我した時はギャーピー騒ぎやがって」


『……まあ言う通りだけどな』


 シャルの怒りを受け流しながら、俺は答える。


「じゃあ、アイツらから寄付金がっぽりと取ってきてやるからな、アダマントは休んでいろよな」


 シャルが巫女とも思えないような発言を口にすると、別室へと立ち去って行った――。
















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