163話 会談の終わり
「で、ここからは私、チルサムの記憶に残っている話になります……」
うん、うん。複数の人格の記憶を持ってるって、なんか凄いなぁ……って思ったけど、よく考えたら俺も二人の人格の記憶持ちだったっけな。そう言えば。チルサムの言葉を聞きながら、セルフツッコミをする器用な俺。
そして、俺がセルフツッコミをしている間にも滔々と話をし続けるチルサム。
「我々の魂と記憶が分かれてしまったきっかけは、戦場の跡に埋もれていたアダマントの欠片をある女性が見つけことから始まります」
チルサムのその言葉を聞いた時、トルティッサがピクリと肩を揺らして小さな声で呟いた。
「……アダマント王国の発掘調査の時に、アダマントの欠片を最初に発見したのは……マシュラだった」
『え!? マシュラ先輩!?』
俺は魔石クラブでお世話になった、陰キャ……じゃなく、物静かなマシュラ先輩の姿を思い出す。
けどそういえば、魔石クラブでヤジリカヤ山に魔石発掘に行ったときも、マシュラ先輩があっさりと大量の魔石を発掘してたっけ……。魔石発掘の才能でもあったのかもしれん。
トルティッサの呟きと俺の驚きの声を聞いて、チルサムはゆっくりと頷き再び語り始める。
「はい。母上が地面に埋もれていたアダマントの欠片に触れた時に、なぜか我々の魂が分かたれたのです。レオとツオルの記憶を残した魂は欠片の中に残り、前世の記憶を無くした無垢な魂だけが母上の胎内に吸収されました……それが私です」
チルサムの言葉を聞いて、しばし応接室内は静寂に包まれた。静寂の後、一番最初に口を開いたのはデトリだった。
「一つの魂が複数に分かれる、か。私は今まで見たことないけど……ま、それもアダマントに関わった結果のバグなんじゃないかな?」
『うぉい! またそうやって、よくわからねーことを全部俺のせいにするんじゃねー』
なんという事だ。このままでは何もかもが俺のせいになってしまうではないか!! 危機感を覚えて、デトリの言葉に反論を試みるが、デトリは面白そうにニヤリと笑って付け加える。
「じゃあ、逆に自分のせいじゃないって証明できるのかい? ねえ? 星そのものになってしまうような存在が何を反論したところで説得力はないよね?」
応接室に居るメンバーの大多数が微妙な顔をして黙り込む。クッ、誰も庇ってくれないとは……。
『ぐぬぬ……』
デトリの言葉に有効な反論が出来ず、俺が悔し紛れに歯噛みをする。すると、突然ガタガタと部屋が揺れ始めた。
「うわっ!!」
「地震!?」
「ちょっ!? なに!?」
皆が口々に騒ぎ始める。
そんな喧騒の中で、ガタガタと揺れるテーブルの上で本がふと思いついたように呟く。
『ふむ。アダマントの感情が、自然現象に結び付いているのでしょうか?』
それを聞いたデュオルが大きな声で俺を怒鳴りつけた。
『おい! アダマント、怒りを鎮めろ!!』
デュオルの声で俺はハッとする。 その途端、ピタリと地震も止まった。
……いやいや、そんな……え? マジで? ……今のも俺のせい?
「うわ……こんなことも出来ちゃうんだ? これは……アダマントをあんまり揶揄いすぎるのは良くないかな……?」
さすがのデトリも驚いた様に呟く。つーか、メッチャ引いてるじゃん……
そしてここに来て、俺も何となく自分が思った以上にとんでもない存在であることを察する。
……えーっと……て、ことは、やっぱりこの世界のおかしなことは全部俺のせいなのか……? 突然認識した自分の強大な力に対して、なんだか漠然とした不安感に包まれる。
その時、窓から入ってきていた日の光が弱まり、強い風がガタガタと窓を揺らし始めた。
『おい!! 言ってるうちから!! ったく、アダマントが規格外なのは今更だろうが。デカい図体して些末なことに揺らぐな』
フワフワと漂いながらデュオルが俺に説教をする。
ってか、デカい図体!? 確かに!! 俺、今メッチャデカい図体だわ!! デカい図体で心が弱いのは確かにカッコ悪いよな……俺はデュオルの言葉に冷静さを取り戻す。すると、窓の外の風は止み、再び部屋に日の光が差し込んできた。
さすが『初代アダマント国王』……こんなにラブリーな精霊の姿になってからでも威厳のあるお言葉……
『……おい。聞こえてるぞ、アダマント』
デュオルがフワフワと漂いながら、呆れたように呟く。
『げ、また心の声が駄々洩れた。えーっと。決してデュオルの姿をバカにしたわけではなく……』
『ふん、別に気にしてない』
「……じゃあ、これ以上アダマントを揶揄うのも良くないみたいだし、欠片も渡したし、私達はそろそろ帰って良いかな?」
俺とデュオルの会話をぶった切って、デトリが帰宅宣言をする。
『おー、帰れ! 帰れ!』
俺が塩をまくような勢いでデトリに言い放つと、デトリが肩を竦めて苦笑する。
「うわあ、ひどいね。それが元弟に対する態度かな?」
『うっせー』
『麗しい兄弟愛ですね』
リムシュが微笑ましい声で呟くので、もう一度『うっせー』と返しておく。
でも確かに、この気兼ねしない感じのやり取りはとても懐かしい気持ちを呼び起こさせた。やっぱデトリではあっても、祐紀は祐紀なのかもしれない。
「じゃあ、また一旦私たちはヒットゥイの教団本部に戻るけど……。もし、彩を見つけたらすぐに連絡してくれよ?」
『へいへい』
俺の適当な返事を聞くと、デトリはひらひらと軽く手を振って応接室を後にする。そしてルルリナも優雅にお辞儀をするとデトリに付いて退室していった。
――こうしてようやく、長かった『世界の方向性を決める会談』は終わりを告げたのだった。
「じゃあ、このアダマントの欠片は私が貰ってもいいのかな?」
すべてが終わった後、チルサムから俺の欠片を渡されたシャルが改めて、俺にそう訊ねてきた。
『ああん? ……まあ、元々俺がお前に渡したヤツだし? お前が持っていたいって言うんなら? その、俺が別にどうこう言う事でもないし?」
俺が歯切れ悪くそう答えると、シャルは満面の笑みを浮かべて答えた。
「ふふ。じゃあ、また私が持ってるね。ありがとう、アダマント!」
『……お、おう』
なんだ……なんだかシャルが眩しく見える? 俺は戸惑いながらぶっきらぼうに返事をする。
そして、そんな俺達のやり取りを見ていたデュオルとリムシュとトルティッサがコソコソと何かを話している。
『おい、アレ。どうなんだ?』
『さぁ、心理学は私の専門外ですので』
「アダム君は初々しいなぁ。ああ、でもこうなるとルビー嬢が穏やかじゃないでしょうね」
『ああ、あの赤い魔石の嬢ちゃんか……なんだ、アダマントも隅に置けないな』
『お、お前ら、うるせー!!』
俺が叫ぶのと同時に、窓の外では雹が降り始めていた――。
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