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162話 見た目は子供、中身は王様


 チルサムが不思議そうな表情で、デトリを見つめる。


「……気分? ああ、そうか。儂はまた生まれ変わったのか……?」


 チルサムはどこか呆然とした表情のままポツリと呟いた。


 チルサムのその呟きを聞いた瞬間、俺の胸の内に名状しがたい感覚が押し寄せてきた。……チルサム君、今『儂』って言った? 俺はモヤモヤした気持ちでチルサムの様子を伺う。


 俺がモヤモヤしている間に、デトリがもう一度チルサムに話し掛けた。


「おや、もしかすると戻した魂に前世の記憶が残っていたのかな? 君は今、チルサムなのかな? 他の誰かなのかな?」


 などと、デトリがサラッととんでもないコトを口走ってしまったので、今度はトルティッサが焦ったようにデトリの胸倉に掴みかかって尋ねる。


「なっ!! どういう事ですか!? チルサムがチルサムでは無くなってしまったという事ですか!?」


「うぐっ!! ちょっと、ちょっと! だから今それを確認してるんだってば!!!」


 急に掴みかかられたデトリが、トルティッサにガクガク揺らされながら答える。子供のことでトルティッサがこんなに取り乱すなんて、アイツもなかなかのイクメンだなぁ……なんて場違いなことを考えてしまう俺を誰も攻められまい。


 そんな中、落ち着いたチルサムの声が響いた。


「ああ、父上。御心配なさらずに。儂……いや、私はチルサムのままですよ。ほんの少し、別の人間だった時の記憶を思い出しただけですから」


「別人の記憶!? チ、チルサム……それは一体? ……本当に平気なのか?」


 トルティッサが掴んでいたデトリの胸倉を離して、心配そうにチルサムの近くへ歩み寄る。すると、チルサムはニコリと笑って答えた。


「ええ。平気ですよ? ただ、自分はいつも敵対した国の国民として生まれ変わってしまうのだなぁ……と、運命の皮肉を感じていただけです」


「? それは、どういう意味だ?」


 チルサムの言葉に、トルティッサは不可解な表情を浮かべて首を傾げる。しかし、俺にはチルサムの言っている意味が分かった。分かってしまった。


 ――ってか、『儂』なんて一人称使うのはあいつしかいねーだろ?


『……別の人間だった時の記憶って……もしかして、『レオ』か? チルサム?』


「え!? レオ!?」


 俺の言葉にシャルが驚いたように声をあげて、チルサムを見つめた。


 シャルの視線を受けて、チルサムは少し肩を竦めると複雑そうな笑みを浮かべて答えた。


「……そうですね。『レオ』の記憶と、その前の『ツオル』の記憶……ですね」

 

 チルサムの言葉を聞いて、応接室内が俄かに騒がしくなる。


「『レオ』だって? アダマントに関わる『レオ』と言ったら……!! まさか、アダマント王国最後の王となった『レオ王』!?」


 と、トルティッサが叫んだかと思えば、


『ツオル!? ツオルって、あのツオル王か!?』


 と、それまで傍観していたデュオルが急に嫌そうに反応したり、


『ふむ。二人の別な人物の記憶が、チルサムの中にあるという事ですか。中々興味深い現象ですね』


 と、リムシュが怪し気な笑みを浮かべたり、


「別な人物と言うか……『レオ』の前世が『ツオル王』だったの」


 と、シャルがリムシュに説明したり、


「それで? 本当にチルサム自体は大丈夫なのか!?」


 と、トパーズが心配そうにチルサムに近寄って尋ねたり、応接室は一瞬にして騒然とした雰囲気に包まれたのだった。


『それにしても、そもそもどうしてチルサムの魂の一部が、あの欠片の中に入っちまってたんだ?』


 俺がチルサムに尋ねると、全員ハッとしたように口を閉じてチルサムの答えを待ったので、応接室内は打って変わって水を打ったように静まり返った。


「ええっと。厳密に言うと順番が逆というか……」


『逆?』


 チルサムが遠い記憶を思い出すように、目を瞑って顎に手を置いて考えながら話をしだす。いつの間にかその口調はレオの話し方に戻っているようだった。


「そう。儂が死んだあの時、アダマントは覚えているだろう? あのピトーハと名乗った帝国の皇子に大剣で刺されて死んだ瞬間……」


 チルサムの話を聞いていたルビーがここでピクリと反応した。が、チルサムはそれには気が付かずそのまま話を続ける。


「魂になった儂は、自分の胸にかけていたアダマントの欠片に咄嗟に逃げ込んだのだ。明確にそうしようと思ったわけではないのだが、このまま死んではいられないと強く思った時、気が付けば儂は暗くて居心地の良い場所……なぜかすぐにアダマントの欠片の中だと理解できたのだが……そこに自分が魂となって逃げ込めたことが分かったのだ」


 そこまで聞いたところで、デトリが興味深そうに口を挟んだ。


「うーん。この世界の生物が死ねば、必ずその情報が瞬時に私に届くように数億年前から全生物の遺伝子レベルで設計したはずなんだけど、君の死亡情報は私には届いていなかったよ。不思議だなぁ……これもアダマントが関わったためのバグなのだろうか?」


 そしてデトリの言葉を聞いたリムシュが興奮したように早口で話に混ざってくる。


「それはデトリ神と生物の間に繋がっている細菌ネットワークの話ですよね!? ワタクシとしては今の話を聞いた限りですと、恐らく『レオ』の魂がアダマントの中に入ってしまったために、細菌間ネットワークを繋ぐための『古代エーテル』が、アダマントの欠片の中にあった大量の『古代エーテル』の干渉を受けて、正常に機能しなかったのではないかと推察いたします!!」


 なんだよ、その電波干渉受けてるWi-Fiみたいな状態は……なんて、俺が心の中でリムシュに突っ込んでいると、デトリが普通に


「ふーん。アダマントに関わると、そんな電波障害みたいなことが起きるのか……」


 などと納得しながら呟くもんだから油断できない。


『おい、サラッと俺のせいにしてるんじゃねーよ』


 俺はすぐにデトリとリムシュに不服を申し立てる。が、そのやりとりをスルーして、チルサムが話を再開したのでその申し立ては曖昧なままにされてしまった。


「まあ、そんなわけでアダマントの欠片の中に避難した儂はしばらくはその暗くて心地よい環境の中でフワフワとほぼ眠るように過ごしていたのだが……ある日突然、自分の魂が何かに引っ張られる感覚がしてな。気が付いたら魂のほとんどがどこかに無くなってしまって、残った一部の魂にレオとツオルの記憶だけが残っていたという訳なのだ」


 そこまで話すとチルサムは周りを見渡して、もう一度口を開いた。


「一応、ここまでが『レオ』が持っていた記憶です」


 チルサムの話し方はこの時は既にレオの口調ではなくなり、いつものチルサムの口調に戻っていた。

















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― 新着の感想 ―
[一言] うほ!レオさんだ!グヘグヘグヘヘヘヘヘヘ おっとヨダレが 今後レオさんの活躍楽しみにしてます
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