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161話 戻った欠片


「これは……アダマントの欠片!?」


 シャルが驚きに目を見開く。


『え!?』


 シャルの声が聞こえて、俺も驚きつつ意識をデトリの方へ向ける。


「ああ、そうだよ。あの洞窟での戦いの後に聖剣エクスカリバーに塗布したアダマントの成分を結晶化して、もう一度元の欠片の形に戻したんだよ」


「え!? だ、だってエクスカリバーはずっと私が持っていて……」


 シャルは驚いた様にそう言って、腰に下げているエクスカリバーに目を向けた。確かにエクスカリバーはいつもシャルが肌身離さず持ち歩いていたはず……。


「ふふ……。まあ、そこは色々とね」


 デトリは不敵な笑みを浮かべて、曖昧に言った。


「色々って……」


 シャルが怪訝な声音で呟くも、デトリはそれについて詳しく答える気は無さそうだった。


「とにかく、この欠片はお前達に渡すよ。私が持っていても仕方ないし。せいぜい役立てるといい」


 面倒くさそうにそう言ったデトリの言葉に、俺は率直な疑問を口にする。


『それにしたって……。どういう風の吹き回しなんだ? なんでわざわざ……』


 するとデトリは少し考え込むように沈黙してから、口を開いた。


「うーん。自分でもよく分からないんだけどね。はじめは、兄貴にはシャルが必要なのかな?ってなんとなく思って。この結晶があれば、人間も長生きできるでしょ?」


「アダマントに……私が必要?」


『な、な、な、なにを言ってるんだ!? おま!? はぁ!?』


「ああ……そういうことですか」


 キョトンとするシャルに、慌てる俺。そして、納得するように頷くトルティッサ。デトリのヤロウ、こんな時ばっかり急に弟面(おとうとづら)しないで欲しいわ、マジで!!


 そして俺が焦っている間に、トルティッサが会話を続ける。


「けれど、それならどうして欠片を渡す候補に私も入るのでしょうか」


『あれ? 気付いてないの? この欠片の中に君の子供の魂の一部が残っているんだけど? だから、結局どっちに渡すのがいいのかなって、迷ってさ』


 今度はデトリがキョトンとして首を傾げる。


「子供の?」『魂の一部?』


 デトリの意外な言葉を聞いて、トルティッサと俺が同時に復唱する。




 ――その時、応接室の扉の方から賑やかな声が聞こえてきた。


「無事、会談は終了したようですね。ルルリナ殿!」


「あら、チルサム総領事。ええ、無事に終わりましたよ」


「それは良かった!」


「おい、チルサム。こいつは誰だ?」


「!? バカ!! この方はヴィータ教の教皇殿だ!! 申し訳ございません。こいつは魔石のトパーズと申しまして。人間のことがまだよく分かっていないのです。ご無礼な態度をお許しください」


「ふふ……構わないわ。二人とも仲が良いのね」


 チルサムとルルリナ、そしてトパーズの会話が聞こえる。


「ああ、ちょうどいいところに」


 デトリがチルサムをチラリと見て呟く。その呟きを聞いてトルティッサがデトリに詰め寄る。


「チルサムの魂の一部が、そのアダマントの欠片に入っていると仰るのですか? 一体、なぜ?」


「さぁ?」


「さぁ、って……。あなた、生命の神様でしたよね?」


 適当なデトリの返事に、トルティッサが困惑した顔でデトリに尋ねる。


「うん。一応、生命の神だけどね。魔石(アダマント)に魅入られて、人の(ことわり)に逆らった魂は管轄外だよ。そこの精霊や本のようにね? いくら私でも、勝手なことをする魂の面倒まで見切れないよ。厄介事に巻き込まれたって自業自得だよね」


 デトリがデュオルとリムシュをチラリと見ながら、肩を(すく)めて答える。俺はその言葉にピクリと反応して口を開く。


『えーっと。それは遠回しに俺の責任って言ってる? もしかして?』


「遠回しじゃないよ。責任はアダマントにあると直接的に言っているつもりだけど」


『ぐぬぬ!!』


 く。デトリのやつ、いけしゃあしゃあと。やっぱり祐紀のやつ、デトリに転生して性格悪くなってるよ。絶対。昔はもうちょっとは優しかったもん。


「ま、ちょうど本人も来たことだし、先にこの中の魂を彼に返してあげるのがいいんじゃない?」


 デトリがそう言って、チルサムの方を向く。


「ちょ、ちょっと待ってください。その魂の一部とやらがチルサムに返されたら、チルサムはどうなるんです?」


 トルティッサが慌てて、デトリの前に立ちはだかる。ま、そりゃ心配になるに決まってるわな。


「さあ? ただ、今の不完全な魂のままでは通常より寿命が短くなるよね。それでもいいのなら返さないのも選択肢の一つだけど。そっちの方がいいってことかな?」


 デトリが前に立ち塞がるトルティッサを見て、不思議そうに尋ねる。


「え!? 寿命が短い?」


「魂が不完全だと、20歳そこそこくらいで死んじゃうんじゃないかな?」


「!!」


 驚いて聞き返すトルティッサに、更に衝撃的な言葉を伝えるデトリ。トルティッサはそのまま絶句して、驚愕した表情でデトリを見つめる。デトリは柔和な微笑みを浮かべながら、「さあ、どっちを選択するんだい?」とでも言いたそうに、少し首を傾げる。


 ま、トルティッサじゃなくても、そんなん言われたら選択の余地はないに決まっている。



「……チルサム。こちらへ来なさい」


 少し深呼吸をすると、トルティッサは観念したように、まだ扉の近くでルルリナと談笑しているチルサムを呼んだ


「? はい、なんでしょうか。父上?」


 チルサムは突然名前を呼ばれ、不思議そうな表情をしながらもルルリナにお辞儀をして応接室へと入ってきた。


「……デトリ様、魂のことを教えて頂いてありがとうございます。その欠片に残っている魂をチルサムに戻して頂けますでしょうか」


 デトリはこくりと頷いて、チルサムに一歩近づいた。


「え? 父上? 何のことですか?」


 状況が掴めないで戸惑うチルサムにトルティッサが簡単に説明する。


「お前の魂の一部がなぜかアダマントの欠片に入っているらしい」


「え? そ、それはどういう……」


 戸惑いの表情を浮かべるチルサムの言葉を遮ってデトリが口を開いた。


「原因は分からないのだから聞いても無駄だ。とにかくお前にこの魂は返すぞ」


 そう言ってデトリは俺の欠片をチルサムの首にかけて、上から掌でチルサムの胸に押し付けるように触れた。


「う……あ……」


 デトリの掌の下から青白い光が漏れ出し、チルサムが少し苦し気に声を上げた。


「チルサム!? おい、大丈夫か?」


 トパーズが驚いて、チルサムに走り寄ろうとしたので俺は制止する。


『だめだ!トパーズ。デトリに任せておけ』


「け、けど……」


 トパーズは辛うじてチルサムに触れるのを止め、心配そうに様子を見守る。


 数秒後、青白い光が一際強い光を放ったかと思うと、直後にスゥっと光が消えていった。


 デトリがチルサムの胸から手を離しながら、口を開いた。


「魂は上手く戻ったかな? 気分はどうだい?」

















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