160話 WIN‐WIN(笑)
会談でそれぞれの要望は出揃った。あとは、それぞれの要望を通すために、それぞれが協力し合う体勢が必要だ。
俺は魔石達を守るために、デトリの彩探しに協力し、S級魔石の魔力を人間に提供する。デトリは俺の協力を得るために、少なくとも千年間は俺達に敵対することと、人間に対して過剰な介入をするのをやめる。人間はS級魔石の魔力提供を条件に、魔石狩りをやめる。
ちなみに彩を見つけるための期限は上で述べた通り、千年間に設定された。デトリは39億年も探して見つからなかったんだが、本当はもっと長く設定しておきたかったんだけど、デトリがそれ以上は待てないと妥協しなかったので、しぶしぶその期間でアグリーしたのだった。ま、頑張るけど。
そしてこの条件の下で、俺達は改めて契約書(例のリムシュのヤツね)を作成し、契約を結んだのだった。
「ではさっそく兄貴……いや、アダマントには、彩を探してもらいたい」
祐紀ことデトリは契約書を作成するとすぐにそう言った。
『わーかってるって。そう焦るなよ。……で、リムシュ。具体的にはどうすればいいんだっけ?』
俺はリムシュに話を振る。この会談の数日前に、リムシュは俺が依頼していた転生者探索法についてすでに理論構築を終わらせてくれていたのだ。あとはその理論に基づいて実行するのみの状態になっているという訳。リムシュ、まじクレイジー。
『……おや、アダマント。先日、説明いたしましたよね?』
そんな俺の振りに、リムシュは若干冷たく答える。うん、そうだね。確かに一回教えてもらったね。けどね。
『言葉だけで説明されても難しくて訳わからん。今ここでやりながら教えてくれ』
俺は開き直って、リムシュにそう伝える。だって、本当に分からなかったんだもん。
『ま、俺も一緒に聞いてたけど確かにあの説明は分かり辛かったよな』
デュオルがフワフワと漂いながら、俺の肩を持ってくれた。優しい。
『ハァ!』
リムシュはワザと大きな溜息をついた。その拍子にリムシュのページがパラパラと何ページかめくれ、魂探索法について書かれたページが開いた。おお、どうやら怒らずにもう一回教えてくれるようだ。
『お、サンキュー』
俺が軽いノリでお礼を伝えると、リムシュが答える。
『真面目にやってくださいよ? アダマント。私はやる気のない方に教えるのが一番嫌いですから』
リムシュはそう俺に釘を刺した。失敬な。俺はいつでも真面目だぞ。元日本人社畜をなめるな。
『はいはい』
俺が返事をすると、リムシュは説明を始めた。
『まずはその探したい転生者の魂の特徴を知らねばなりません。これはデトリさんがご存じでしょうから、アダマントへ伝えて頂きたいのです。それにはエーテル経由でイメージを飛ばしていただくのが良いでしょう』
「ああ、わかったよ」
リムシュの指示を聞いて、デトリは軽く頷く。リムシュが俺の事を呼び捨てしてるのに、デトリには“さん”付けなのが微妙に気になるが、まあ俺は広い心でそこはスルーしてあげようと思う。俺も大人ですから。
『イメージを飛ばすのには少しコツが要りましてね。飛ばしたいイメージを出来るだけ鮮明に思い浮かべましたら、アダマントの中心、別の言い方をすると、この星の中心ですね。そう、足元に向かってそのイメージを勢いよく飛ばしてください』
「足元にイメージを飛ばす、か……。こんな感じかな?」
デトリがそう呟いた瞬間、俺の中に人間だった頃に一度会ったことのある女性の姿が浮かび上がってきた。俺は思わず声に出す。
『あ……来た!! 彩さんが見える!!』
『おや、一発で成功ですか。さすがは神を名乗るだけありますねぇ』
リムシュの感心する声が聞こえてくる。と、同時に女性の姿が段々と薄くなっていく。その薄くなった女性の体から、今度は紅く光る玉のようなものが浮かび上がってきた。
『紅い玉が見える……』
鮮やかな濃い赤色の玉は、まるで燃えているかのようなユラユラとした輝きを放っているように見えた。
「……それが、彩の魂だよ。美しいだろう? 情熱的で芯の強い彼女らしい魂だよね」
ウットリしたような声でデトリが呟く。……ケッ、ベタ惚れかよ。
『さあ、アダマント! 魂の特徴を把握したら、あとはあなた次第ですよ。この星中にエーテルを張り巡らせて、同じ魂を持った魔石が居ないか探してください!』
リムシュが次の手順の説明をする。
『……探す、ね。簡単に言いやがって。この星に魔石が何個あると思ってんだ……って、俺も知らんけど』
俺が小声でちょっと愚痴ると、デトリがピクリと眉を動かして言った。
「見つけられなかったら、もちろん契約は無効になるからね? ……もう過労死する心配は無いだろうから、見つかるまで探してもらうよ」
くっそ。祐紀のヤツ、デトリに生まれ変わってから確実に性格悪くなってるよな? 人間の時はむしろ心配してくれてたのに!!
『わーかった、わかったって。探すよ、探せばいいんだろ!』
若干ヤケになりながら、俺は自分の体の中心にあるエーテルを体中……つまり、惑星中に薄く広げていく。地味だが、隙間なく魔石を探すための苦肉の策だ。ちなみにエーテルを広範囲に渡って操らなければならないのでメッチャ疲れる。
「さあ、ではひとまず会談は解散でいいかな?」
俺がちゃんと探索を開始したのを確認すると、デトリは応接室のメンバーを見回して確認した。
『メインの話し合いは終わったからな。他に何か言いたいことがある者はいるか?』
デュオルがフワフワとテーブルの上を漂いながら、応接室のメンバーに確認する。皆、一様に首を振るのを確認するとデュオルは宣言した。
『では、本日の会談はこれで終了とする』
こうして第一回G7首脳会議……じゃなくて、この世界の方向性を決める会談は終了したのだった。
……ああ、すまん。G7はただ言ってみたかっただけだ。分かってるくせに~。
「じゃ、彩が見つかったらアダマントの念話で呼び出してくれ」
そう言ってデトリは席から立ち上がり、応接室の扉へ向かった。それを見てルルリナも席を立ちあがった。が、彼女はそのままシャルに話し掛ける。
「シャルマーニ……いえ、今はシャル女王……と呼んだ方が良いのかしら?」
シャルはルルリナに呼び掛けられると、スッと席を立ちルルリナの近くへ歩み寄るとにっこりと笑って答えた。
「もちろん、これまで通りシャルマーニとお呼びください。ルルリナ様」
ルルリナはシャルの答えを聞くと柔らかい笑みを一瞬浮かべた。が、すぐに真面目な顔に戻りシャルに質問をする。
「……そう。ではシャルマーニ。こちらでお世話になっている聖騎士達はこのまま首都へ連れて帰るのだけど……貴女は? どうするの?」
ルルリナの質問にシャルは少し厳しい表情になり、少し間を置いて答えた。
「私はここに残ります。聖騎士団長としては無責任な判断ですが申し訳ございません」
「そう。貴方がそう決めたのなら私は何も言えないわ」
ルルリナはシャルの言葉を聞いて軽く頷いて言った。そして最後に小さく一言だけ付け加えた。
「……アダム様をお願いね」
「……え?」
シャルは突然のルルリナの言葉にキョトンとしたままだった。ルルリナはふふっと軽く笑うとクルリと踵を返して扉へ向かって歩いて行った。
「ああ、そう言えば……」
ルルリナとシャルのやり取りが終わるのを扉の前で見ていたデトリが、何かを思いついたように言う。そして扉へ向かって歩くルルリナと入れ替わるように再び部屋へ戻って来る。
そしてシャルとトルティッサを交互に見ながら言った。
「えっと……、シャルとトルティッサだったよね? 君達のどちらかにこれを渡そうと思って」
デトリが胸のポケットから出したモノを見て、シャルが驚きに目を瞠った。
「これは……アダマントの欠片!?」




