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159話 会談


実際、これから始まる会談はこの世界の方向を決める重要なものになるかもしれない。さっきトルティッサが言っていた「領地の運営よりも重要な会談」になる可能性はおおいにある訳なのだ。


 つまりこの会談は、魔石と人間と、俺とデトリ神、それぞれの希望や主張を一度話してみて、上手く折り合いをつける方法を探るという試みのための会談なのだ。


 トントン……ガチャリ。


 ノックの音とドアを開く音が聞こえ、落ち着いた低音ボイスが応接室に響いた。


「やあ、諸君。十日ぶりだね?」


そう言いながらルビーと共に入室してきたのは、俺の知っている若い姿のままのレルワナ・シュパナテイクだった。そしてその後ろには教皇ルルリナが立っている。


『レルワナ?』

「レルワナ様ですか?」


 俺とトルティッサが驚きで同時に声をあげる。その声を聞くとレルワナは嬉しそうに微笑んだ。


「驚いた? ふふ、この姿だけど私はデトリだよ。私も人化と言うものをやってみたんだよ。兄、いやアダマントを見習ってね? ホント、コロンブスの卵的な発想だよね? やってみれば簡単なんだ。人間の体に乗り移るよりも全然簡単だったよ。この姿になったのは意外だったけどね」


 レルワナの姿のデトリが楽しそうに語る。


 この話し方を聞いている限り、どうやらデトリは祐紀の性質よりもデトリの性質の方が強いようだ。ま、何億年もデトリだったんだし、当たり前っちゃ当たり前か。俺だって、もはやアダマントの性質の方が強いし。


「では、レルワナ様は今も意識が戻らぬままなのですか……?」


 デトリの話を聞いて、トルティッサが少し聞き辛そうにルルリナの方を見て尋ねる。え! そうなの? と、俺がちょっと驚いていると、ルルリナが口を開いた。


「いえ。レルワナお兄様も、先日デトリ様のお力で目を覚まされました」


「そうですか。それは良かった……」


トルティッサがホッとしたように呟いた。そして俺も密かにホッとする。なんとなく。



『さあ。それじゃあ話し合いを始めようか』


 全員が席についたのを確認し、気を取り直して俺は会談の口火を切った。するとすぐにデトリが口を開いた。


「私の希望は変わらないよ。彩を見つけ出すこと……これだけ。これさえ叶えば、魔石にも人間にも余計な手は出さないことにするよ」


 するとデトリの言葉を聞いたルルリナが驚いた様にデトリに尋ねる。


「デトリ様……我々はこれまで貴方様に導かれてここまでやって参りました。今後も我々の神として我々を導いていただきたいと私は願っております。その願いは聞き届けて頂けますでしょうか? もちろん教団はデトリ様に最大限のご協力をいたしますゆえ」


「……教皇様……」


 シャルが気遣わし気にルルリナに視線を向けて小さく呟いた。まあ、シャルでなくともルルリナの今の発言は依存性パーソナリティ障害っぽくて、ヤバそうだなと思わざるを得ないが。


 デトリは肩を竦めて優しくルルリナに言い含める。


「もちろん、君達とはしばらくは今まで通りの関係性でいようと思うよ。だけど、いつかは君達も自分の意思で進めるようにならなくてはいけないね」

 

「……はい。デトリ様」


 ルルリナがしおらしく返事をする。


 なんだこのやりとり。……ちっ。祐紀のヤロウ。転生してからもモテは健在だってのか……。俺はそこはかとなく嫉妬してしまう。ズルい。なんかズルい。


 しかし、今ここで嫉妬剥き出しで祐紀、いやデトリに突っかかるのはカッコ悪いので、俺は大きく息を吸って呼吸を整え、心を落ち着かせて、議論の軌道修正をするためにもなんとか魔石代表としての意見を繰り出す。


『……あー……ま、とりあえずだ。彩さんの生まれ変わりを探すのは俺も手伝うし、その点は心配しないで欲しい。で、だ。こちらからの希望としては、デトリが魔石に手を出さない、ってのも重要だけど、併せて人間たちが魔石狩りをするのをやめて欲しいっていうのも要望としてはあるんだが』


 人化できるほどの力を持たなかった魔石達は『魔物』として、今でも魔石目当ての人間達に狩られ続けている。デトリの脅威がなくなった今、次に叶えたいのはA級以下の魔石達の石権を守ることだ。魔石達を魔物にしちゃったのは、俺のせいだし……。


 会談の前に色々考えたのだが、俺の希望する条件としてはこれだった。


 人間と魔物の間に狩る狩られるの問題が無くなれば、エメラルドみたいに魔石狩りを快く思わないS級魔石が人間に危害を加える心配もなくなるだろうし、時間はかかるかもしれないが、いずれお互いの権利を尊重し合いながら自由に暮らしていくことも出来そうな気がするし。これぞ、俺の目指す『基本的石権の尊重』に他ならない。


『……しかし、それは中々難しいように思いますね』


 ここでリムシュが口を挟む。


『人間の道具としての魔石の有用性は既に周知の事実。魔石の権利を尊重して、人間がこれまで使っていた便利なものをわざわざ放棄するでしょうか? ねえ、トルティッサ殿? アダマントの条件は魔石組合の会長としては複雑な申し出なのでは?』


 リムシュに話を振られて、トルティッサは困ったような笑みを浮かべて答える。


「ここで話を俺に振る辺り、さすがにリムシュ殿は容赦ないですねぇ。確かにアダム君の条件を飲めば、魔石組合としては大損害を……いや、むしろ存続すら厳しくなるなぁ。ヤジリカヤ山から採掘される魔石の量は減ってきているし、最近は魔物からとれる魔石の方が流通量が多くなってきてるからなぁ。それに魔石ハンター達は血の気の多い連中ですからね。ただ魔石狩りをやめろと言うだけでは無理でしょうね」


『トルティッサ……』


 まあ、トルティッサが反対するであろうことは、コイツの今の立場からすれば仕方のないことなのだろうが……。俺はもう一度改めてトルティッサを説得しようと試みる、が俺が呼び掛けた瞬間に、もう一度トルティッサが口を開いた。


「オーケー。アダム君、私の答えはイエスだよ! どちらの利益も取れる取引をしようじゃないか? そのための会談だろう?」


『お、おお……』


 チョー軽いな……。急にハリウッドの映画のセリフみたいに答えるトルティッサに困惑しつつ、俺は咄嗟に返事をする。相変わらず、コイツのテンションにはついていけねーわ。


「要は魔物狩りで手に入る利益よりも大きな利益が手に入れば、こちらとしては問題ない訳だよ。魔石ハンター達を説得するも出来るしね」


『お、おお……?』


 俺が困惑している間に、トルティッサは軽い感じで話を進める。


「さて、じゃあ現状を整理してみよう。魔物狩りで手に入るのは良くてA級魔石だよね? 僕達人間は中々S級魔石を手に入れることが出来ない。ご存じの通り、S級魔石は国宝扱いだ。必然的に我々が使用する魔石はA級以下の魔石に限られている。……じゃあ、もしS級魔石の魔力を我々が使わせてもらうことが出来れば……?」


『……なるほど。これまでとは比べ物にならない程の魔力資源を人間が手に入れることが出来る訳だな。かつてのアダマント王国のように』


 デュオルが納得するようにそう言うと、トルティッサは楽しそうに頷き答える。


「そういうことです!! まさに仰る通り、アダマント王国の人間と魔石の関係性が理想的だとアダマント王国研究者としては思う訳です!! そして魔石組合の会長としては、その魔力取引の中間管理業に携わらせてもらえれば言う事はありませんね」


 トルティッサの提案を聞いて、デトリは小さな声で呟いた。


「ふーん。中間管理業……資源メジャーみたいなもんか?」


 そしてその呟きを聞いて俺も納得する。そしてトルティッサの抜け目なさにちょっと感心する。トルティッサのヤロウ、貴族の坊ちゃんのくせになかなかアグレッシブに美味い蜜吸いに来やがるな。


『よっし。条件は後で細かく協議するとして、大枠はトルティッサの提案をベースにする方向性でこちらは問題ない』


 俺がトルティッサの提案に大枠で賛成すると、デトリも答える。


「私も先ほど言った通りだ。ただし、一定期間の間に彩が見つからなかったときは今度こそ私のやりたいようにやらせてもらう。その期間の協議も後で実施しよう」



 こうして世界の方向性を決める会談は、着々と進められていったのだった――。















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