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158話 戦い終わって



「……ント! アダマント!! 聞こえる?」


 遠くの方からシャルの声が聞こえた。


『おー、聞こえてるぞ』


 俺はそう答えながら、シャルの声のする方向へ意識を向ける。すると、ゆっくりとピントを合わせるように、段々とシャルの姿のイメージが鮮明に浮かび上がってくる。


「もうすぐ教皇様達が到着するみたいだから、アダマントもちゃんとここに意識を置いておいてよね」


『へいへい。分かってるって』


 ――俺が星になってから、既に十日ほど経過していた。


 魔王の間での出来事の後、あの場にいたメンバーは全員地下宮殿に来ていた。もちろん、敵としてやってきた騎士団のメンバーは領事館に戻ろうとしていたのだが、サマルの怪我が酷かったため無理はさせられないとシャルが判断して、ひとまずこの地下宮殿に運び込むことになり、騎士団のメンバーもそのままここに滞在することになったのだった。


 そしてなぜか当然のようにトルティッサも宮殿についてきていた。今も優雅に紅茶らしきものを飲みながら、シャルの隣に座っている。


「しかし、まさかアダム君が魔石どころか星になってしまうなんて、想定もしていませんでしたね」


 カチャリとカップをソーサーに置きながら、トルティッサが話をする。


『まあ、昔からアダマントは想像もしないことをする魔石でしたからねぇ。だからこそ研究しがいがあるのですけれど』


 そんなトルティッサの言葉に返事をするのは、テーブルの上に置かれている本のリムシュだった。


『まったくだ。とは言え、それで俺達は随分助けられてきた訳だから、文句は言えないのだが』


 リムシュの言葉に、風の精霊になったデュオルが付け足す。そしてそんなデュオルの言葉に、トルティッサが喰いつく。


『ああ! それはアダム君がアダマント王国に居た時のお話ですね? 是非そのエピソードをお伺いしたいものです! アダマント国の文献はリムシュ殿しか見つかっていないので、まだまだ謎が多くて。いやいや、このような形でアダマント王国の初代王と女王にお会いできるとは……研究者冥利に尽きるというものです!!』


 風の精霊であるデュオルを通じて任意のメンバーにエーテルを流すことで、グループ通話のようなことが出来ると俺が気が付いたのが五日前の話だ。盗聴する時に使っていた風の精霊の能力を応用した形なのだが思いの外上手く使えているようだ。


 そしてそれ以来、この四人が集まって話していることが増えていた。ま、パッと見はシャルとトルティッサが二人で話しているようにしか見えないのだが。


『……つーか、お前らさ。なんでヒトのウチでそんなに遠慮なく(くつろ)げる訳?』


 そんな四人の会話を何の気なしに聞いていた俺だったが、ついツッコミを入れたくなってしまう。


「おや、アダム君。寛いでいる訳では無いよ? これも研究の一環のフィールドワークなのだよ。こう見えて私もアダマント王国研究者の中では権威と呼ばれているのだけれどね……」


 トルティッサが苦笑を浮かべながら俺に答え、再び優雅に紅茶を飲む。そして、カチャリとまたカップをソーサーに置いて、ついでのように一言付け足した。


「ちなみに言っておくと、私がこの方面に興味を持ったのはもちろんアダム君のお陰なのだからね? 行方不明になったアダム君を探しているうちにいつの間にかこんなことになってしまったんだから」


『……あっそ』


 急にそんなことを言い出したトルティッサの思惑がよく分からず、とりあえず興味なさげな返事をしておく。なんだ? あれか? 学院の事件の後に何も言わずに立ち去ったことに対する嫌味か?  


 俺は今更そんなことで文句を言われても敵わんので、あからさまに話題を逸らす。


『ところでトルティッサ。お前も一応、バンドルベル何とか伯とかってお偉いさんだったよな? チルサムも総領事だっけ? そんなお偉いさん達が、こんなところで呑気にしててもいいのか?』


 そう。チルサムもトルティッサと一緒にこの宮殿に戻ってきている。今頃は恐らくどこかでトパーズと遊んでいることだろう。


「……バンドルベル西境伯だ、アダマント」


 俺が適当に言ったトルティッサの肩書を、シャルがご丁寧に訂正してくれる。


「ま。領地の運営についてはマシュラに任せてきたから大丈夫だよ。それよりも今からここで開催される会談の方が重要な仕事だと思っているのだよね、私としては」


 事も無げにそう言い切るトルティッサだったが、俺は本筋に関係ない単語に引っかかる。


『……マシュラ?』


 俺が聞き返した言葉にトルティッサが首を傾げて答える。


「あれ? アダム君が知らない訳ないよね? 魔石クラブの部員で、学生会執行部のメンバーだった……」


『ああ、やっぱりそのマシュラ先輩のことなんだよな? いや、マシュラ先輩は知ってるけどさ、なんでそこでマシュラ先輩が出てくるのかな? と思って』


 俺がそう言うと、トルティッサが「ああ!」と合点がいったようにポンと手を叩いて答える。


「私とマシュラは結婚したんだよ」


『!!』


 さらりとトルティッサが答えた内容に俺は幾分衝撃を受ける。


 なんだろう。なんとなくトルティッサはシュリアルラとかメルティールナみたいなスクールカースト上位の派手めな女子とくっつくもんだと思っていた。地味目だったマシュラ先輩とトルティッサが一緒にいるところが上手く想像できん……。


「あれ? どうしたんだい、アダム君?」


 驚きのあまり無言になってしまった俺を不審に思ったのか、トルティッサが心配そうに俺に呼び掛ける。


『……お、おお、すまん。ちょっと意外だったからびっくりしただけだ』


「そんなにびっくりするところかな?」


トルティッサは不思議そうに首を傾げる。案外本人の方が自分のイメージに気付いていないものなのか……。


 俺がそんなことを思っていると、部屋をノックする音がしてルビーが入室してきた。


 そうそう、デトリにやられて魔石に戻ってしまった四天王達について話すのを忘れていたな。


 結論から言うと四人とも無事だった。それどころか3日位でダメージも回復して、再び人化することもできるようになったようだ。しかも4人とも自力人化出来るようになるというおまけ付きで。さらに魔石に戻ることも自由に出来るようになったらしい。コツを掴んだ的な? サファイアなんかは最早ほとんど石でいる時間の方が長いようだ。


 俺としては羨ましい限りだ。さすがに星になってしまった俺は人化は出来なくなってしまったし。いや、万が一出来たとしても、俺の上に住んでいるやつらがどうなるかと思うと恐ろしくてとても人化なんてする気にならん。


 応接室に入ってきたルビーが部屋を見回して口を開いた。


「デトリ神と教皇がお見えになりました。……アダマント様はもういらっしゃいましたでしょうか?」

 

 ルビーが応接室の面々に尋ねたので、 誰かが答える前に俺は自分からルビーに返事をする。


『おー、俺ももう待機してるから、いつでも始められるぞ』


 ルビーは俺の声を聞くと、一礼して答えた。


「承知いたしました。それではすぐにお二人をこちらにお通しいたします」















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