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156話 転生兄弟



『……な……』



 デトリの絶句したような声が響き、そのまま数秒間俺達は沈黙に包まれた。しかし、俺にはこの沈黙が答えを物語っているように思えた。



『……やっぱ、祐紀だよな? なあ、俺だよ! 俺!! 俺、広紀(ひろき)だ!!』



 44億年ぶりに人間だった頃の名前を名乗った。俺は興奮と高揚で、思わず声を弾ませてグイグイいく。



 しかしそんな俺とは対照的に、やけに冷静で警戒したようなデトリの声が頭の中に響いた。



『……小学生の時に飼った猫の名前は?』



 俺が小学5年生、祐紀が小学1年生の時に下校中の通学路に捨てられていた子猫を拾った。キジトラの子猫だった。母ちゃんにめっちゃ怒られたけど、俺達兄弟で育てると言い張ってなんとか買うことを許してもらったっけ。二人で一生懸命考えてつけた名前だ。忘れるもんか……。



『……めけめけ王子3世』



 俺の答えを聞いて、フッ――とデトリの雰囲気が明らかに変わった。


『ハハ……マジか……。本当に、兄貴なのか? アダマントが……本当に?』


 俺の答えを聞いた、デトリ……いや、祐紀がようやくやや興奮したような声音で返してきた。



『……!! マジだよ。マジ。ってか、お前こそ何やってんだよ!! なんでそんな姿になっちゃってんだ!? つまり、俺はお前に殺されそうになってたってワケ!?』


 俺は興奮も相まって捲し立てると、祐紀も負けじと言い返してくる。


『お、俺だってなりたくてこんな姿になってたわけじゃ……。そういう兄貴こそなんで石なんだよ!? なにがアダマントだよ!! 相変わらず、ふざけやがって!! 兄貴だなんて分かる訳ないじゃないかよ!!』


『うぐっ!』


 おおう。なんだ、なんか恥ずかしいぞ! まさか弟に会うと分かっていれば、アダマントだなんて厨二病満載の名付けしなかったんだけどな~。あああぁあぁぁあぁ、しかももしかして魔王っぽさとかめっちゃ演出しちゃってたのも、祐紀に見られちゃったってこと? 


 俺はこの世界に生まれ変わってから行ってきた数々の所業を思い出しつつ、絶句して恥ずかしさに身悶えする。


 少しだけ間を置いて再び祐紀の声が聞こえた。今度は打って変わって静かな声だった。



『……すまない。俺……知らなかったとはいえ、兄貴のこと割と本気で殺そうとしてた。なんかどこかで今のこの状況は夢なんじゃないかって思ってて……。結構好き放題やっちゃってた。……ハハ、ヤベェ奴だな、俺』



『……祐紀……』



 ――よく考えれば、祐紀も今身悶えしているかもしれない。厨二病はお互い様だ。流石、兄弟。



 俺は祐紀の肩にポンと手を置いて慰めてあげたいと思った。けど、出来ない。なぜなら俺は星で、祐紀は細菌だから。手も肩も無い。いやーやっぱ人間の体って便利だよね。



『……ま、今更だし。俺も反撃するためとはいえお前を本当にやっつけようと思った時もあったしな。お互い様ってことで、もういいよ。どういう形であれ、俺はお前にまた会えただけで嬉しい』


 俺は思ったままの言葉を口に出した。口に出してからちょっと、このセリフ恥ずかしかったな……と少し後悔する。


 俺のこのこっぱずかしいセリフを聞いて祐紀がどんな表情をしているのか確認したかったが、細菌の表情を伺うのは無理だった。


 その時また、冷静になったらしい祐紀の声が響いた。


『……ところで兄貴はどうやって生き残ったのかな? 外核まで落とせばいくらアダマントでも絶対溶けると思ってたんだけどな。 無事……なんだよね? こうして話してるからには? ……いや、けど魔石の体に触ってないのにどうやってこれは会話してるんだろう?』


 お、なんか急にデトリの話し方っぽくなったな? とか考えながら、俺は祐紀にあいまいな返事をする。


『うーん。これがまた今一つ俺にも分からねーんだよなー。実際に俺の魔石の体は無くなってるんだよ。で、その代わりに?気付いたらこの星そのものが俺の体になっちゃってたんだよね……』


 そんな俺の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで突如また別の声が乱入してきた。


『……それについては私の仮説を聞いて頂けますでしょうか』


『え? は? リムシュか? へ? あ? なんで? どうやって?』


 突然、会話に入ってきたリムシュの声に俺は動転する。あっれー、だって俺からアプローチしないとこの念話みたいなのって繋がらないんじゃないの?


『アダマントが無事だという事は先ほどルビーさんという方から伺いました。会話に入るのはエーテルを操れば簡単です』


『ああ、そう』


 俺が咄嗟に抱いた疑問にサラリとリムシュが答える。が、よく分からん。ま、リムシュだから出来んのか?


『失礼ながら、お話は途中から聞かせていただきました。ああ、故意にでは無いですよ。アダマントに話し掛けようと思ったら、うっかり聞いてしまっただけの話です。で、先ほどのデトリさんの質問への回答ですが。あの穴から落ちた魔石のアダマントは想定通り外核で融解いたしました。そして融解するとともにこの星の中心成分と混じり合い一体化し、更には星の中心付近に貯蔵されていた古代エーテルをも全て我が物としたアダマントがあたかもこの星そのものが自分であるという状態で再覚醒した段階が、今、という事だと考えられます』


 リムシュのプチ講義を受けて、祐紀は呆れたように呟く。


『星になったって……。なんだよ、それ……』


『いや、俺に言われても……』


 本当。俺に言われたって困る。っつーか、俺が鉱物で、祐紀が細菌にそれぞれ転生してるような世界ですから――。

 

『いや、でもそうか。魔石アダマントとしては、やはり消滅しているということか。だからこそ契約は生きている訳だ……』


 呟くような祐紀の声に、俺は意味が分からず『え?』と聞き返した。すると祐紀は更に説明を加えてくれた。


『アダマントが外核に通じる穴に落下した後、しばらくして俺の意識はあのシャルと言う娘の体から、ほとんど強制的にはじき出されたんだよ。で、この本体に戻ってきたんだ。あれは契約書の効力だろう? “喋る本”君?』


『ええ、その通りです。“魔石”アダマント自体は消滅したので契約は有効ということですね。契約書に掛かれた通り、です』


 リムシュがなぜか得意げに答え、対照的に祐紀は悔し気に呟く。


『……なんか、うまくしてやられた気分だな。負けない契約書作りは得意だったはずなんだけどなぁ』


 負けず嫌いの祐紀のことだから、リムシュと喧嘩を始めちゃうかもしれん……と若干不安に駆られた俺は急いで仲裁に入る。


『いや、まあでもさ。こうなったからにはもう契約もなにもないだろ? 俺達が戦う必要はもうないだろ?』


 すると俺の質問の返答とは違う言葉を、祐紀がポツリと呟いた。


『……彩を探しているんだ』


 俺は改めて聞き返す。


『彩って、お前の婚約者だったあの人か?』


『……そう』


 俺の言葉に祐紀が同意して、言葉を続ける。


『俺と彩は同時に死んだんだ。……死んだ瞬間から生まれ変わる時まで、ずっと彩の気配は俺の近くに居た。彩の魂みたいなものも、俺と一緒にこの世界に来たはずなんだ……。けど、俺がこの姿になって目を覚ました時、既に彩の気配は感じられなくなっていた。その後もずっと探し続けてきた……けど、見つからない』


『……祐紀』


 俺は何と言って声を掛けてやればいいか分からず、無言になってしまった。そして、そのまま祐紀は言葉を続ける。


『もしかすると、生まれ変わるためには何か条件があるのかもしれないと思って……。この星を、彩が生まれた地球と同じ状態・同じ条件にすれば、また彩が人間として生まれてこれるんじゃないかと考えているんだ……だから、それだけは邪魔しないで欲しい』


 その祐紀の言葉は決然としたものだった。



 それはすなわち、邪魔するなら戦いは続けるという宣言のようだった――。















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