16話 魔石の隠された力――いや、知らなかっただけだったけど
『なにー! この村を滅ぼしてなるものか!! 人間観察が出来なくなったら、またとんでもなく暇になっちまう!!』
俺は鼻息も荒く、憤る。あ、鼻無いけど。
「な、何なんだよ、急に。大声出すなよ」
シャルが俺の憤りにビクッと肩を震わす。
おっと憤ってる場合じゃなかった。暇を回避するには、まずはシャルの説得からだ。
『おい、シャル。いいか、よく聞け。なんでか知らんが、お前だけが俺の声を聞けるらしい。お前は魔石の声を聞くことが出来るってことで、少なくともこの村では丁重に扱われるはずだ。そして俺は意思疎通できる相手が出来て嬉しい。……つまり、俺達は利害が一致するんだ。っつー訳で、お前、俺の相棒になれ!!』
「はっ!?」
突然の相棒になれ宣言にシャルは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になる。鳩が豆鉄砲を喰らった顔ってどんなだよ、と思っていた時期がありましたが、まさにこんな顔なんだろうなと思いながら俺はこっそりとニヤつく。
自分の言動に対して、相手が反応を示してくれる。なんと甘美なことか。俺はしばしその幸せに身を投じた。
「……」
「……!」
「……おい、聞いてるのか?」
『おっと、聞いてなかった。なんだ?』
「なんだじゃねーよ。……相棒になってやるって言ったんだよ! 仕方ねーからな」
少しそっぽを向いて、本当は不本意なんだけど的な演出を交えながら、シャルがぼそっと相棒宣言をする。
うお! なんだよ、そのツンデレ風の塩対応!! 逆にかわいいじゃねーか!! ヤバい、俺にショタ属性は無い筈だが、妙にキュンキュン来ちゃったぜ。バーロー……っと、今はそれどころではないな。
俺は気を取り直してシャルにきっぱりと述べる。
『よし、相棒! じゃあ、これから俺らの初仕事だ。俺達にとってこの村が無くなるのは非常に困る。何とかして盗賊団を撃退せねばならん』
――撃退する方法は……今から考える!!
なんて思っている俺の心とは裏腹に、先に俺の放った言葉でシャルが目を輝かせる。
「何とかできるのか? やっぱりそうか! アダマントは魔石だもんな! なんか魔法使えるんだろ?」
『は?』
「え?」
俺達はお互いの反応をキョトンとした顔で見つめる。あ、俺がキョトンとしてるかはシャルには分からんか。
『俺って魔法使えんの?』
「……お、俺に聞くなよ。けど、魔石って呼ばれる石は不思議な力を持ってるんだって、俺のばーちゃんが昔言ってたぞ!」
『えー、うそだー』
「ばーちゃんは嘘なんかつかねーよ! 魔石を上手く使えば魔法が使えるって。――って言うか、だからこそ盗賊団はアダマントを狙ってるんだぜ」
『……マジで? 魔法なんて使ったことないぞ…………あ』
その時ふと、俺はあることを思い出した。
『……心当たり……あるかも……』
大地震……激流……。
あれは暇で暇で体を思いっきり光らせた時と、キューちゃんが襲われた時だったな。あれがもしかして俺の魔法だったとか……とかとか?
「本当か!?」
シャルが目をキラキラさせて俺のことを見る。
『……いや、でも仮にあれが俺の魔法だとしたら……むしろ村が滅びちゃうような……』
「え?」
『いや、でも別に地震と激流だけじゃなくて、もしかして他の魔法も使えたりとかしないかな……こう風の魔法とかでシュッ……と』
“ザシュッ!!”
変な音がした……と思ったら、神殿の天井の一部が“ドサッ”と俺とシャルを掠めて、すぐ隣に落ちてきた。
「ちょ……」
『あれ?』
「今のって……」
『……魔法?』
俺とシャルは同時に天井を見上げた。
今、穿たれたばかりの天井の穴からは真っ青で爽やかな空が見えていた。
「おま……危うく潰されるとこだったじゃねーか……」
『いや、今のは正直スマン……』
――つーか、マジで? ご都合主義過ぎない?? 大丈夫??
その時、天井の穴からふわふわと例の虫が数匹入ってきて、俺の近くに寄ってきた。いつの間にか俺は光を発していたらしい。
『おお。なんかこの虫、久しぶりに見たな』
俺が独り言ちると、シャルが驚いた様に口を開いた。
「アダマント、こいつが見えるの!?」
『は? どういう意味だ?』
「いや、他の人には普通見えないんだって……。俺とばあちゃん以外でコイツを見える奴に始めて会ったからびっくりした。魔石には見えるんだ……」
『ほっほう。これって人間には見えないの?』
「うん。だから、あんまり見えることを人に言うなってばあちゃんに言われてた。コイツは精霊なんだって。今、アダマントにくっついているのは羽が付いているから風だ」
『なんだと? 精霊?』
俺はシャルの言葉に食いついた――。




