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146話 生命を司る神


「ルビー!! なんで止めるの!? こいつはアダマント様を殺したんだよ!!」


 エメラルドは泣きそうな声でルビーに向かって叫ぶ。


「落ち着きなさい、エメラルド。敵を見誤っては駄目よ。ここでの一番の敵は誰かしら?」


 冷静な声でルビーはそう言うと、『(デトリ)』に視線を向けながら、俺とシャルマーニの方へ近づいてくる。


「あれ? 君はたしか……アダム、いやアダマントといつも一緒にいた子だね。 へぇ、今でも一緒に行動してるんだ? 仲が良いんだね」


 『(デトリ)』は近付いてくるルビーを見て、思い出したように言った。


「あら、覚えていただいていたみたいで光栄だわ。けれど、勘違いしないでいただきたいのだけど、アダマント様と私は仲が良いという関係ではないわ。私はアダマント様に忠誠を誓っているのよ」


 そう言いながら、ルビーは躊躇せず真っ直ぐに俺の近くまで歩いてくる。


「ふーん? 忠誠……ね。けど大事なアダマント様は御覧の通り、もう倒しちゃったけどどうする? ああ、なんなら君も魔石に戻してあげようか?」


 ルビーは「ふっ」と口元に妖艶な笑みを浮かべ、「……結構よ」と軽く断り、すぐにエメラルドに向かって指示した。


「エメラルド!! 倒すのはソイツよ!! 好きなだけ暴れなさい!!」


 ルビーの指示を受け、エメラルドはキラリと瞳を輝かせる。


「りょーかい!! さあ、お前!! エメと戦ってもらうよ!!」


 そう言ってエメラルドは、一気に『(デトリ)』に飛び掛かっていった。


 その隙にルビーが俺の近くに駆け寄り、エクスカリバーを握ったままのシャルの腕を強く掴んだ。


「これは一体どういう状況なのかしら? 貴方にアダマント様を倒せる力があるとは思えないけど?」


 冷静な口調は変わらないが、よく見るとルビーの真紅の瞳が怒りの色を湛えていた。


 俺は背中にヒヤリとしたものを感じる。……ルビーの冷静さが、逆に怖い。これはめっちゃ怒っとる……。


 シャルもルビーの怒りを感じたのだろう。ハッとして、慌てて小声で呟いた。


「すまない……アダマントが私を庇うために、こんなことに……」


「それは……どういうこと? どうしてアダマント様が貴女を……」


 そう言いながらルビーがそっと俺の上に手を置いたので、ここぞとばかりにルビーに向かって話し掛ける。


『おい!! ルビー!! そいつは……シャルは大丈夫だ。もう敵じゃない。『(デトリ)』に記憶を奪われて利用されてたんだ』


 ふいに頭の中に響いてきたであろう俺の声に、ルビーは一瞬驚きの表情を浮かべるが、しかしすぐに返事をしてくる。


『……ア、アダマント様!! よかった。ご無事でしたか!!』


『ああ。とは言え、魔石に戻っちまってるから無事と言えるのかは微妙だが』


『いえ。安心いたしました』


 と、ルビーはホッとしたように呟き、すぐにきりっとした声に切り替えて言った。


『さあ、ではエメラルドがデトリと戦っている間に作戦を練りましょう。実はトパーズ達がバンドルベルの屋敷で『(デトリ)』に関する重要な情報を手に入れたようで、こちらに戻ってきているのです。それと……』


 ルビーが少しだけ言い淀んだので、俺はそのまま言葉を挟む。


『ああ……トルティッサも来てるんだろ? さっき周辺探知した時に見た。ったくアイツまで来ちゃうなんて想定外だ』


『トルティッサって……? バンドルベル西境伯のこと!?』


 俺達の会話を聞いてたシャルが驚いた様に叫ぶ。


『そうだけど……。なんでお前も知ってるんだ? シャル?』


『知ってるも何も。トルティッサ・バンドルベル西境伯といえば、魔石組合を束ねる貴族の重鎮だもの。帝国内の政局のキャスティングボードを握る超有名人よ。 王家も軍も教団も、一生懸命、彼を味方につけようとしている最中だっていうのに、本人がこんなところに突然現れるなんて……信じられない……』


『へー、トルティッサが……ねぇ。俺は正直そっちの方が信じられんわ』


『わたくしもです』


 俺の言葉にルビーも即、同意しつつ言葉を続ける。


『しかし、その重要な情報というのはトルティッサが見つけた情報だそうでして、自分が直接アダマント様に伝えるのだと言ってついて来たそうです』


 重要な『(デトリ)』の情報か……。確かに『(デトリ)』については全く何もわかっていない。アイツを倒すために少しでも武器になる情報が欲しい。


 その時、“ドカンッ”と衝撃音が聞こえた。エメラルドと『(デトリ)』の戦いが激しさを増しているようだ。


「エメラルドでも苦戦しているようですね。本当に、一体アイツは何者なのでしょうか……」


 ルビーの呟きに、シャルが返す。


「デトリ神は我々の教義の中では『生命を司る神』と言われている。我々の魂は全てデトリ神に繋がっていると。悪いことをした子供を叱るときに、大人が必ず『誰も見ていなくても、神様は見ているよ』と言うほど浸透している話だ」


『生命を司る神、か』


 俺はドヤ顔で呟いてみる。いや、特に何か思い当たることがあるとかじゃなく、よく分かんないけど言葉の響きがカッコいいから言ってみたかっただけ。


「そろそろ結界を張った方が良さそうですね。……それにしても、なぜその『生命を司る神』はアダマント様を滅ぼすことに執着するのでしょうか? 」


 ルビーがデトリとエメラルドの戦いの様子を目で追いながら、話を続ける。


 まあ、確かになんで『(デトリ)』がここまで俺の事を目の敵にするか、それすらイマイチ分かってない。単純に言えば、俺と人間が仲良くするのが気に入らないっぽい感じだけど。


『それについては俺が説明しよう』


 そう言って現れたのは、さっきノムさんにボコられてたデュオルだった。やべー、そう言えばデュオルのこと忘れてたぜ。


『お、おお。デュオル。大丈夫だったか?』


『うるせー、アダマント。おまえ、俺のこと忘れてただろ!?』


 うん。バレてるね。


『いやー悪い悪い。悪気はないんだ。ちょっと色々情報量が多すぎて、ついうっかりね』


『はっ。ま、別に端からお前に俺の心配して欲しいなんて思ってねーから安心しろ。――それよりも、デトリについてだ。アイツは俺が死ぬとき『定められた因果を乱されるのは困る』と言っていた』


「定められた因果……。うん。私の時もそう言っていた」


 シャルの呟きにデュオルは頷いた(と思う、たぶん)。


『つまり、人間の運命的なものがアダマントの関与によって乱されるらしいんだ。それを整えなければならない、ともデトリは言っていた。けど、結局アダマントが人間にちょっかいを出し過ぎて、整えきれなくなったから大本であるアダマント自体を消してしまいたいってことだと俺は考えている』


『……なんかその言い方だと、俺が“かまってちゃん”みてーじゃねーか』


 俺が不服を申し立てるとデュオルが驚いた顔をした(と思う、たぶん)


『は!? 違うとでも思ってんのか!?』


『え!?』


 マジで? 俺ってそんな風に思われてんの? うっそ、マジで?


「ア、アダマント様……。このようなシフの戯言にお心を煩わせる必要はございません。アダマント様は弱い人間にも心を配る、素晴らしい支配者でございます」


 ……ルビーの俺に対する評価はやたらと高過ぎて信用できない……。


「そ、そんな!!」


 ルビーも俺の心の声にショックを受けた顔をする。あ、そう言えば今の俺は心の声駄々洩れ状態だったわ。けど。おさえきれないこの気持ち。


『あー、お前ら。うっとーしーなー。とにかく、デトリが言う『定められた因果』ってのが、なぜアダマントと関わることで乱れるのか? そもそも『定められた因果』ってのが何なのか、その辺りが分かればデトリの本当の目的も見えてくると思うんだが』


『結局、分からないってことじゃんかー』


 俺はブーたれる。ってか、ブーたれるって久しぶりに使ったわ。でも今の心境はまさにブーたれたい感じだから正しい使い方だ。


 なーんて俺がブーたれていることを正当化している時に、突然激昂したデトリの声が魔王の間に響き渡った。


「ああ。ほっんとに君達魔石という存在は、私を苛立たせてくれるよね!」









 


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