145話 色々とピンチな石
――さて。どうしよっかな。
そうだった。冷静に考えてみれば、今は大ピンチの状態だった。人化が解けてしまったから、このままじゃ『神』をぶん殴ることもできないな。うーむ。どうする?
俺が次の一手を考えていると、『神』がシャルマーニ、いやシャルに話し掛けてきた。
「どうしたんだい、シャルマーニ? 君が魔王を倒したんだよ? 喜ばないのかい?」
ん? こいつ、シャルの記憶が戻ったことに気付いてないのか?
『おい、シャル。お前はそのまま呆然としたふりしてろ』
『……わかった』
シャルが何も答えないので、『神』がこちらに近づいてくる。『神』は石になった俺の姿と、俺に刺さった剣を見て口の端を吊り上げた。
「ふふ。これで私の邪魔をする者は居なくなった。エクスカリバーもなんだか名前通りの姿になったね。……そうだ! 記念にこのまま伝説の剣としてここに安置して神殿でも立てさせようかな? ね? いい考えだと思わない? 君の名前も伝説として語り継がれるよ、シャルマーニ?」
――ほほぅ。どうやらエクスカリバーの名付けは『神』っぽいな?
それに、なかなかセンスあること言ってるじゃないの。神殿に安置される、魔石に刺さった伝説の聖剣……。うん、いいよ。響きもいいし、物語の小道具としてもなかなか素晴らしいじゃないか。俺は敵ながら『神』のアイディアを称賛する。
ま、と言いつつも実現はNGだ。なぜなら、唯一の、そして最大の不満点が、伝説の聖剣が刺さっているのが俺ってところだからだ。惜しいなぁ。
――と、違う違う! こんなことを考えてる場合では無かった。エクスカリバーの名前をつけたのが『神』なのであれば、『神』はアーサー王伝説を知っているってことだ。なぜだ? 俺は考える。
濃厚な説は二つ(懐かしの!!)。
まず一つ目。『知らなかった!! 実はこの世界にも前世と全く同じ内容のアーサー王伝説があったらしいぜ』説。
二つ目。『これぞ、ライトノベル!? 異世界で他の転生者に会っちまったぜ説』
え? どっちも濃厚な説とは思えないって? うっさいなぁ。まあ黙って聞いてくれよ。
俺としては二番がおススメだ。だってロマンがあるっしょ? 俺以外に実は転生者がいましたとかって展開、ちょー燃える! ほら、そう思うだろ? さてと、で、どうやってそれを確認しようかなっと……。
「ちょっとぉ! それ以上、アダマント様に近づかないで貰えるかなぁ?」
うぉ、びっくりした!! 突然すぐ近くでエメラルドの声が響いたのだ。気付くといつの間に来たのか、俺のすぐそばにエメラルドが駆け付けていた。
あれ? エメラルドはヒューズと戦ってたはずだけど、ヒューズはどうした?
俺は素早くヒューズの気配を探ってみる。すると魔王の間の中央付近の岩の柱に両手両足を埋め込まれている状態でもがいているヒューズの姿を見つけた。
「くそっ!! エメラルド!! ふざけやがって」
おお、拘束プレイ……。どうやらエメラルドが魔法でヒューズの動きを封じたようだ。しかし、戦いの途中で抜けるなんてエメラルドにしては珍しいな?
「シャルマーニ!! あんた人間だけどいい子だから、エメ結構気に入ってたのに!! けど、アダマント様にこんなことして……!! もお、絶対に許さないんだからぁ!!!」
あ、もしかして俺のことで怒ってんの!? やべえ。エメラルドのターゲットがシャルになっちまったってこと!? やべぇ、やべぇ。エメラルドの戦闘能力はガチだ。今のシャルの力では止められねーぞ。やべえ、やべえ。
『え!? エメラルドってそんなに強いの?? ど、どうしよう。アダマント!? うわ! 土の精霊がものすごく活性化してるよ!?』
俺の焦りの声を聞いて、シャルにも焦りが伝染してしまったようだ。
なんとかしてエメラルドと話をしないと……。魔石に戻っちまったからな。俺の体にエメラルドを触らせるしか意思疎通する方法がねーぞ。えーっと、えーっと。
『俺に任せろ!!』
デュオルがそう叫んで、エメラルドの方へ飛んでいく。そのままエメラルドの背後に回り込み、風の精霊らしく強い風を巻き起こした。
なるほど、風の力で俺のところまでエメラルドを連れてくる戦法か!
「!? 誰!? 邪魔しないでよぉ!!!」
しかし、強風を受けたエメラルドが叫んだ瞬間、活性化した土の精霊達が一斉にデュオルに飛び掛かっていく。大量の土の精霊達に囲まれて、あっという間にデュオルの姿が見えなくなる。
『デュオル!!』
「シャルマーニなんて死んじゃえ!!! ばかぁ!!!」
俺がデュオルの名を叫んだと同時に、エメラルドも叫ぶ。途端に小さな無数の小石が一斉射撃された分厚い弾幕のようにシャルマーニに向かって放たれた。
『くっそ。シャル!! そのままそこから動くな!!』
俺はそうシャルに指示し、瞬時に火の精霊を集めて、シャルと自分の前に炎の壁を吹き上げさせた。
エメラルドの放った小石の弾丸が勢いよく炎の壁に突っ込んで行く。そのまま小石の弾丸はジュジュッと音を立てて次々と溶けた。
「……へぇ。やるじゃん。……ムカつくなぁ……でも次で絶対殺す!!」
エメラルドが不穏な笑みを浮かべて低い声で呟き、更に殺気を放つ。くっそー、味方同士で戦ってる場合じゃないってのに!!
その時、魔王の間に別の声が響いた。
「おやめなさい!! エメラルド!!」
この声は!!!
俺はハッとして声のした方へ意識を向けると、そこには開け放たれた魔王の間の扉の前で仁王立ちするルビーの姿があった。
そして更にその後ろからは何人かが走ってくる音が聞こえる。
どうやら他にも誰かがここに向かって来ているみたいだ……。ルビーが魔石兵達でも連れてきたのか?俺は探知範囲を広げて足音の主を探る。……すぐに、探知範囲に入った足音の主達のイメージが流れ込んできた。
――え!?
イメージに浮かび上がったのは、バンドルベル本家に行っているはずのトパーズ、キューちゃん、チルサムの姿だった。……そして、そのメンバーの中に更に信じられない人物も一緒に居た。
「しょ、諸君!! 待ちたまえ!! こんな、自分の足で、全力で走るなど、全く優雅じゃないよ! やはり、馬を持ってくるべきだったと思うの、だが!」
息を切らせながら、そう叫んでいたのは……
――トルティッサ???
まさか、いや……。 俺はイメージの中でマジマジとその人物を凝視する。当然昔よりも老けているが、間違いない……よな。
「……仕方ありませんね! トルティッサ殿、どうぞ私の背中にお乗りください!! あ、背中の黒い石には触らないでくださいね!?」
そう言って、キューちゃんが人間の姿から小さなドラコーヌの姿に変化する。
「すまない! キューチャン殿!! 父上! 早く!」
息が上がってしまっているトルティッサの代わりに、チルサムがキューちゃんにお礼を言っていた。
――間違いない! トルティッサだ!! ……ってか、アイツら!! なんでトルティッサまで連れて来てんだよぉ!?




