143話 石に戻る石
ぐぁぁぁあああ!!! 思った以上に深く刺さりやがった!! 全然痛くねーけど!!! 痛くないけど……最高に見た目が気持ち悪い!!!
俺は自分の胸元にグッサリと刺さったエクスカリバーを見て、心の中だけで絶叫する。
いや、だって俺が石に戻るまでシャル……いや、シャルマーニに戦い続けさせる的なことを『神』が言うからさぁ。じゃあとりあえず石に戻ろっかな、って思ってさ。ちょっと軽い気持ちでシャルマーニに刺されてみたんだけど、いや、ホントびっくりしたわぁー。防御しないって思っただけで、こんなに深く刺さるとは……。
などと心の中で捲し立てつつ、焦っていることは表情には出さない。なぜかと言うと自ら相手の剣を受け入れておきながら、『ぐぁぁぁあああ!!!』とか言ってのたうち回ってたらカッコ悪いっしょ?
俺のプロデューサー魂が、ここはクールに決めるべき場面だから我慢しろ!! と、剣が深く刺さって焦っている自分を叱咤する。
そしてそんなことをやってる間に、じんわりと自分の……手足の感覚が無くなっていくのが分かった。いや、手足だけではない。目や耳、鼻といった人間的な感覚も次第に薄れていく。
そして代わりに周りの様子のイメージがぼんやりと頭の中に入ってくる。あ、懐かしい感じ……。
人化してから使えなくなっていた周辺探知能力が戻ってきたようだ。やっぱこれって石の時にしか使えないんだ。へー。なんてのんきに感心する。
「うそぉ!! アダマント様!!?? シャルマーニにやられちゃったの!?」
エメラルドがヒューズの攻撃を躱しながら、叫んでいる姿が見える。
少し離れたところではアイアンが「うおおおおお!! 魔王様が魔石に!!!」と雄たけびを上げている。律義にまだ魔王様って呼んでいる辺り、やはりアイアン隊長は真面目だ。
目の前には突然の事態に呆然とするシャルマーニの姿が見え、その後方には「へえ」と驚いた様な顔をするサマルの姿をした『神』が立っていた。
あ、『神』の更に後ろにはダイヤモンドが倒れている。あいつ、偉そうなこと言っといて、もしかして秒で『神』に負けたのか? けど、人の姿のままだから死ぬほどのダメージではないっぽいが。
俺は周辺の様子を一瞬でイメージ化して情報を取り込む。やっぱ、これはこれで便利だなぁ。などと考えていると、不意に聞き覚えのある声で誰かに名前を呼ばれた。
『おい、アダマント。聞こえるか?』
そう言って俺のイメージの中に入ってきたのは、 一匹の風の精霊だった。
『?? シフが喋ってる??』
俺が心の中で呟くと、ピョンっとシフが反応した。
『おお! 聞こえるんだな!! ったく、やっとだぜ!! 分かるか? 俺だよ、俺!!』
『おお……シフがオレオレ詐欺を……』
『はぁ? なにを訳の分からんことを』
どうやら口に出すつもりが無くても、考えてしまったことが勝手に相手に伝わってしまうようだ。また俺のプライバシーが駄々洩れ状態だ……。
『ってか、俺って誰だよ。分からねーよ。いや、なんか声は知ってる気がするけど、めんどくせーから早く名乗れよ』
もはや取り繕うこともせず、俺は開き直って心の声を駄々洩らせる。
『……はぁ、アダマント。いい加減、その面倒くさがりの性格直した方がいいぞ……って、説教してる場合じゃないか』
なんだこの風の精霊、偉そうだな……と思っていると、偉そうなシフは更に信じられないことをサラッと口にした。
『俺はデュオルだ。久しぶりだな、アダマント!』
偉そうなシフの衝撃のカミングアウトに、心の声がゲロの如く駄々洩れまくる。
『……ハァ??? なんでデュオルが風の精霊なんだよ? ヘタな嘘つくんじゃねーよ。アイツはとっくの昔に死んだじゃねーか。騙そうとしたって金なんか振り込まねーぞ。オレオレ詐欺が!』
心の声をゲロりながら、俺が疑惑の目で偉そうなシフを睨むと(比喩だって分かってるよね?諸君?)、シフが焦ったようにピョンピョンして喋る。
『風の精霊になっちまったんだよ! 死んだときに魂の一部をシフに渡したらそのまま同化しちまったんだ! だから人間の頃の記憶もそのまま残ってるんだって。そりゃあ、俺も最初は驚いたが』
俺はピョンピョンしているシフに向かって偉そうに返す。
『……ふん。そんな都合のいい話、簡単に信じられるかよ。じゃあ、一つ質問させろ。本当にデュオルならこの質問に答えられるはずだ』
『質問だと? ったく。まぁ、いいだろう。言ってみろ』
偉そうなシフは更に偉そうに返してくる。チッ。
『それじゃあ、いくぞ。……シャルが俺の安置されていた神殿に泥棒に入った時に、神殿の見張りをしていた二人の名前を答えよ!! フフン……この超マニアックな質問に果たして答えられるかな? 答えられな……』
俺の言葉を途中でぶった切って、偉そうなシフはあっさりと答えた。
『クラムとギルだったか。確か』
『……よお、デュオル。お前、こんなところで何やってんだよ』




