140話 聖剣の謎
「ちょ! アダマント様!! もう始めちゃうのぉ!? ってか、エメの出番が無くなっちゃうじゃん!!」
俺の炎の魔法の爆発のドサクサに紛れて、いつのまにかエメラルドが玉座の所まで来て、俺に抗議してきた。
「うっせ。今の流れだと、ここで開戦するのがベストだっただろうが!! ってか、流れ的に俺はシャルマーニと戦う感じだから、お前はまだ戦ってないもう一人の聖騎士、なんてったっけ、アイツ、ほら、料理上手な若手の……」
やべえ。名前が出てこない。老化現象か? なんて思っていると、エメラルドが首を傾げながら名前を出す。
「ヒューズ?」
「そうそう! そのヒューズとでも戦ってればいいだろ!?」
「ふーん。そっか!! そうだね!! そうしよう!!」
エメラルドは俺の提案に嬉しそうに頷くと、まだ爆発の煙が充満する中央の方へ素早く消えていった。
あ! しまった。せっかくだから、今エメラルドにこの衣装の感想聞けばよかった!! 戦いが始まったら汚れちゃうじゃないか!! うわーマズったな。
「魔王!! 覚悟!!」
くだらないことを考えていた俺の目の前に突如シャルマーニの剣が現れた。俺は少し体を斜めにずらし、紙一重で剣の切っ先を避ける。
っと危ねー。確かシャルマーニの剣は俺の体に傷を付けられるほどの切れ味だったよな。油断は禁物だ。
「……この間は上手く逃げられたが、今度こそ決着をつけてやる!! 私の聖剣エクスカリバーから何度も逃れられると思うなよ!!」
シャルマーニが俺に剣を突きつけて、大声でそう言った。
――聖剣……エクスカリバーだと!!!!!
俺はシャルのセリフから厨二病的単語だけ拾い上げる。聖剣エクスカリバーと言えば、『アーサー王伝説』に出てくる魔法の剣の名前ではないか!? 岩に刺さっている剣のヴィジュアルで有名なヤツだ……。
岩に刺さった剣の名前を使ってくるとは、俺に対するdisりにしても、なかなかセンスイイじゃねーか。うんうん、嫌いじゃないよ。そういう皮肉は。
なんて思っていたのも束の間で、ふと重大な疑問にぶち当たる。
あれ? でもちょっと待てよ……。そもそもなんで『エクスカリバー』なんて単語を知っているんだ? よく考えたら『アーサー王伝説』は前世の世界に存在していた物語のはずだよな。この世界のヤツが知っている訳ないよな? たまたま? それともこの世界にも『アーサー王伝説』があるのか? いや、そんな都合のいいことあるか?
「くっ! なぜ反撃しない!! また私が女だからと言ってバカにしているのか!!」
考え込んでいる間、シャルマーニの攻撃をただ避けるだけのマシンと化していた俺に、しびれを切らしたシャルマーニが怒鳴りつける。
「なあ、その『エクスカリバー』って誰が名付けたんだ?」
俺はシャルマーニの問いを無視して、引き続きシャルマーニの攻撃を躱しながら、今しがた浮かび上がった疑問を率直に訊ねる。
「な! ふざけるな! 真面目に戦え!!」
「いや、ちょっと気になっちゃってさぁ」
シャルマーニの顔が怒りで赤くなる。あれ? 怒らせちゃったか?
「おのれ!! 余裕ぶるのもここまでだ!! 喰らえ!!」
突然、聖剣エクスカリバーにサラマが集まり始めた。あ、やっぱりこの剣も魔法が使えるんだ!! と思った瞬間、エクスカリバーから青白い炎が俺に向けて放たれた。
「うわわっと!!」
急な魔法攻撃に少し体勢を崩されつつ、ウンディを呼び寄せてエクスカリバーから放たれた炎を氷の膜で防ぐ。
“ジュワッ”と音を立てて、氷の膜が炎と共に消え去る。
「アブね……。そいつも炎の剣だったんだ……」
と呟いた瞬間、今度はエクスカリバーから氷の弾丸が撃ち出された。
「なに!!」
辛うじてサラマを呼び寄せ、今度は炎の膜で氷の弾丸を防ぐ。またもや“ジュワッ”と音を立てて、炎の膜が氷の弾丸と共に消え去る。
「み、水の魔法も使えるだと!?」
と言った俺の言葉を嘲笑うかのように、シャルマーニが更に剣を振ると今度はなんと岩の槍が俺目掛けて、飛んでくる。
マジか!! 今度こそ油断していた俺は、防御魔法が間に合わず顔の前に腕を交差させて土魔法の衝撃をやり過ごす。
“ドガガガガ!!!!”と鈍い大きな音を立てて、無数の岩が俺の腕にぶち当たった。腕にかなりの衝撃を感じる。
衝撃が無くなった所で顔を上げてみると、せっかく作った魔王衣装の腕の部分が無残にボロボロになっていた。
……くっそー。せっかく作ったのに!! って、今はそれどころじゃねー!! あの聖剣!! 複数の属性の魔法が使えるだと!!?? 一体どういう仕組みなんだ!?
改めて、俺はシャルマーニの持つ『聖剣エクスカリバー』をマジマジと見つめる。見たところ、どこにも魔石を嵌め込んでいる感じはしないが……。
「ふふふ……驚いたか? まだまだ私の力はこんなものじゃないぞ!!」
シャルマーニがビュッと聖剣を振るい、俺に向けて切っ先を構える。
――もう少しじっくりとあの剣を観察してみたいな。
そう考えた俺は右手にウンディを集めて、即席で氷の剣を作り出す。そして、その剣を水平に構え、シャルマーニに向けて、
「剣技で勝負だ。本気で来い」
と挑発する。
「ほぉ。私に真っ向から剣の勝負を挑むとは……愚かだな」
シャルマーニはニヤリと笑ってそう言うと、強く地面を蹴って瞬間的に俺の間合いへ入ってきた。
聖剣と氷の剣がぶつかる鈍い音が広間に響いた。
鍔迫り合いの状態を保持したまま、俺はエクスカリバーをじっくり観察する。……そして気付く。
――あれ? この感じって、もしかして?
聖剣エクスカリバーからうっすらと感じられたのは、あろうことか自分の魔力だったのだ!
なるほど、だったら複数の属性の魔法を使えるのも納得だ……。
しかし、一体この聖剣のどこにこの魔力の源があるんだ? 俺はもう一度エクスカリバーの切先から柄頭まで丹念に観察する。
うーん。それっぽいものは見えないが、使われているとすれば恐らくアダマント王国が滅びた時にレオと一緒に置いてきた俺の欠片しか考えられないがなぁ。それ以外にはキューちゃんの背中の欠片しか俺の分身は作っていないはずだし……。
「くっ!! 戦いの最中に考え事とは!! いい度胸だな!!!」
シャルマーニが鍔迫り合いの状態から、大きく剣を押し上げて叫んだ。
あれ? バレてる!! そしてシャルマーニがますます怒りで顔を赤くしている。あれー。さりげなく観察したつもりだったんだけどな……。
「死ね!!」
シャルマーニは氷の剣を弾き返し、高速の切り返しで俺の喉元を目掛けて水平にエクスカリバーを薙ぎ払った。
「うっお!!」
瞬時に後ろへ首を引いたが、やや遅れてしまいエクスカリバーの切先が俺の喉元を斬った感覚がした。
「やべ、マジで斬られた……」
俺は首に手を当てて切り口を確認する。スパッとした切り口がのどの辺りに出来ているのが手触りで確認できた。……しかし、これで何となく分かった。
どうやらエクスカリバーの刃の部分に、俺の欠片がコーティングされているっぽい。溶かして延ばしたって感じか? しかし本当にそんな技術があるなら、俺も溶かされちゃうってことじゃん。ヤベェな。
それにアイツ。あの聖剣に俺の一部が使われていることを知ってるのかね? フフフ……あの感じだと恐らく知らないで使ってるよな??
……自分が大事にしている聖剣の材料に、(恐らく)大っ嫌いな俺が使われているって知ったらどういう顔するんだろうか……?
――なんだかムクムクと悪戯心が湧いてくる。なんだろう、なんか、あのシャルマーニってやつ。なんかアイツ見てるとからかいたくなってくるなぁ。




