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137話 ダイヤモンドとサマルの戦い


 ダイヤモンドが放った風の刃をサマル副団長が右手に持った片手剣で切り裂いた。


 よく見るとサマル副団長の持つ剣には火の精霊(サラマ)が集まってきていた。次第に剣が炎に纏われ赤銅色に代わっていく。


「ほぅ。良い魔石が付いた剣だ」


 ダイヤモンドが楽しそうに呟いた。

 

 うむ。クイーンズラースよりも演出は地味だが、その奥ゆかしさがむしろ強い力を秘めている感がする! 俺もダイヤモンドの意見に密かに同意する。


 もちろん炎属性の剣の登場にまたもや俺は浮足立つ。そうだ。あの剣にこそ『紅蓮の炎を纏いし剣』の名前が似合いそうだ――なんて、勝手に剣に名前をつけて悦に浸ったりしちゃったり。


「それはどうも……」


 サマル副団長はダイヤモンドの誉め言葉に短く答えると、瞬時に大きく踏み込みフェンシングのように、剣を前方のダイヤモンド目掛けて突いた。


「!!」


 俺は興奮のあまり鼻血が出そうになるのを堪える。おおぅ! まるで牙〇じゃねーか!? サマル副団長の剣技に、俺は往年の名作漫画のライバルキャラの必殺技を思い出し、胸を熱くする。


 そんなサマル副団長のガト……ゲフゲフ……高速の突きを紙一重で避けたと思われたダイヤモンドだったが、どうやら少し切っ先が掠ったようでスゥっと左頬に薄い傷が浮かんだ。


 ひゃっほー、サマル副団長!! その調子でもう一本傷を入れてダイヤモンドの左頬に十字傷を作ってキャラ設定強化してくれ!! と俺は中々にハードルの高い要望を心で念じる。


 俺はエメラルドとはまた違った身勝手な欲望で、いつの間にかサマル副団長を応援してしまっていた。


 ……いや、けど違うんだ。勘違いしないでくれ!! サマルを応援するのもひとえにこの先のダイヤモンドの人気アップを願っているだけなんだ! だって頬に傷があるキャラクターは人気が出るという古の伝説(いにしえのでんせつ)が……。


 と、誰に対してか分からない言い訳をしながら、引き続きサマル副団長の応援をする。


 しかし、サマル副団長がダイヤモンドを押しているように見えたのはそこまでだった。


「思った以上に楽しめるみたいだな」


 とダイヤモンドが呟くと、ダイヤモンドの右手に集まっていたシフがドリルの様に小さな竜巻を作り始めた。と、思った瞬間、今度はダイヤモンドが大きく踏み込みシフを纏った右手をサマル副団長に突き上げた。


「く!!」


 サマル副団長が咄嗟に『紅蓮の炎を纏いし剣』でダイヤモンドの右手を受け止める。が、そのままダイヤモンドが右手を振り抜き、サマル副団長は後方に吹き飛ばされそのまま壁に激突した。


「サマル!!」「サマル副団長!!」


 聖騎士達が焦ったようにサマルの名を口々に叫んだ。


 ガラガラと崩れてきた洞窟の壁面の岩を押し退けながら、サマルがよろよろと立ち上がる。今の打撃で結構なダメージを喰らってしまったようだ。


「ほぅ。今のを喰らって立ち上がれた人間はこれまで居なかったぞ」


 感心したようにダイヤモンドが口を開くと、サマルはニヤリと笑って答えた。


「それなりに訓練はしているからな」


「面白い。ではその訓練の成果を更に見せてもらおうか」


 そう言ってダイヤモンドが再び小さな竜巻を手に纏わせてサマルに向かって走り出した。


「いけ!! 炎の矢よ!!」


 その時サマルが手に持っていた剣を振りかざし、突如叫んだ。その瞬間、『紅蓮の炎を纏いし剣』から無数の炎の矢が、ダイヤモンドに襲い掛かった。


「なに!?」


 突然の魔法攻撃に不意を突かれ、勢いが止められないままダイヤモンドは炎の矢の中に突っ込んで行く。


「やったか!?」


 グランダルが握り拳を作って叫ぶ。


 しかし一瞬の間を置いてダイヤモンドを囲んだ炎の矢が、大きな竜巻に巻き上げられる。そして竜巻の中央にはダイヤモンドが無傷で立っていた。


「嘘だろ……」


 プルテーヌが絶句する。


「こんな手を残していたとはな……。だがこれでもう終わりだ」


 冷たくそう言い放ったダイヤモンドが右手を軽く動かすと、竜巻に巻き上げられた炎の矢が一斉にサマルの方へ飛んでいった。


「サマル!!! 避けろ!!!」


 シャルマーニが大きな声で叫んだが、サマルはその場に立ち尽くしたまま動けない様子だった。そしてチラリとシャルマーニを見て、少しだけ困ったような笑みを浮かべた。


「サマル!!!」


 次の瞬間、サマルの体をいくつもの炎の矢が貫き、地面に刺さった炎の矢は暴発し大きな土煙を上げて辺り一面の視界を奪い去った。

 

 しばらくして爆発音が消え、もうもうと上がる土煙が治まってくると、ようやく周囲の様子が明らかになってくる。


 土煙が薄まった広間の中央付近には、地面に横たわったサマルの姿が見えてきた。


「サマル!!」「サマル副団長!!」


 聖騎士達が一斉にサマルのもとへ走り寄った。


「俺の勝ちでいいんだろ?」


 その様子を見ながら、ダイヤモンドがエメラルドに聞く。


「……最後の攻撃。あそこまでやらなくても勝負はついてたはずだよねぇ?」


 エメラルドがダイヤモンドを睨みつけながら詰問する。ダイヤモンドはサラリと銀髪を揺らして首を傾げると笑みを浮かべて答えた。


「詰めが甘いとやられるかもしれないだろう? なんだ? 人間に情でも涌いたのか? なんなら次も俺が戦ってやってもいいぞ?」


「は? 調子に乗るなよ? 新入りが」


 エメラルドがこれまで聞いたことの無いドスの利いた声でダイヤモンドに言い捨てた。

 

 エ、エメラルドが何か分らんけどブラックVer.になっとる!! 俺が呆気に取られて見ていると、エメラルドはそれ以上ダイヤモンドには構わず、クルリと踵を返してサマルの周りに集まる聖騎士達の所へ走って行った。


「サマルふくだんちょお、大丈夫??」


 おおう。声が元に戻っとる……。エメラルド……アイツ……。いや、逆に言うとあそこまでエメラルドを怒らせることが出来るダイヤモンドがすごいのか??


「なんとか息はあるようだ! しかし火傷が酷い。すぐに治療が必要だ!」


 グランダルの声で、割とどうでもいい考え事をしていた俺はハッと我に返る。


 おお、サマルはまだ生きてるか。よし、とりあえずここでサマル副団長が死んじまうとなんだか後味が悪いからとりあえず治療しとくか。


 ダイヤモンドを四天王に入れた責任的なモノも感じたので、俺は姿を消したままこっそりと地面に倒れているサマル副団長に近づき、そっと肩のあたりに手を置く。


 するとたちまち俺が触れた場所からすぅっと傷や火傷が塞がりはじめ、あっという間にサマルの全身の怪我が消え去った。すっげー久しぶりに治療したから、効果が落ちているのではないかと不安に思ったが、全くそんなことは無いようだった。ホッ。


 俺はサマルの怪我が消えたのを確認して、ササっと近くの岩の陰に身を顰める。もちろん姿を消しているから誰にも見つからないはずだろうが。何となくだ。


「あれ?」


 ふいにヒューズが首を傾げた。


「血が止まった? ……あれ? 傷口が塞がってる……?」


「なんだと? !? 本当だ! 火傷も消えている? どういうことだ?」


 グランダルもサマルの体を確認して、信じられないと首を振る。


「……神の奇蹟だ……」


 シャルマーニが敬虔な信者よろしく、手を組み神に祈りを捧げた。その様子を見て他の聖騎士達も慌てて手を組み神に祈りを捧げた。

 


 ……っざっけんな、ゴラァ! おめーらの神は何もしてねーっつーの!! 


 と、俺は声を大にして怒鳴ってやりたかったが、残念ながら『魔王様はふつう前線には出てこないはずだからね作戦』遂行中の身なので、何とかその怒りに耐えようととびきり深い深呼吸をするために大きく息を吸った時だった。



「ふふふ……ああ、やっと見つけた」



 今、一番聞きたくないタイミングで、聞き覚えのあるムカつく声が聞こえた気がして、俺は深く吸った空気を吐き出すのを忘れたのだった――。






 













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