表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/176

133話 二人目の四天王


「……ヴァナルカンド。サファイアは今どこにいる?」


 エメラルドと騎士達の話し声が水の広間から遠ざかったのを確認して、俺はヴァナルカンドに話し掛ける。


「ワオン!」


 ヴァナルカンドは一声返事をすると、クンクンと一瞬空気のニオイを嗅いだ。そしてすぐに一直線に広間にポツンと残された氷の玉座に走り寄り、ピョーンと玉座に飛びつく。その瞬間、


「うわっ!!」という声と共に玉座の前に突然分厚い本がドサリと落ちた。


「ヴァナルカンド? おまえ、なんでこんなところに……」


 そう言いながら、サファイアが玉座に座ったまま魔法を解いて姿を現した。ほぉ、姿を消してどこかに行ったのかと思ったら、最初と同じ場所にいたとはな。その図太さ、嫌いじゃないぜ。


「よお、サファイア。お前、また仕事サボっただろ?」


 俺はそう言いながら、同じく魔法を解いて姿を現しサファイアが座っている玉座に歩み寄った。


「な!? アダマント……いつから居たの?」


 完全に『面倒くさいヤツが来た』という表情でサファイアは俺を見る。そして俺の質問には答えず、むしろ質問を返してきた。


「エメラルドが『やっほー! サファイア!!』って言った時には既に居たな」


 俺の答えを聞いてサファイアは端正な顔を顰めた。


 むむ! いいな、今の表情。いつも無表情でクールな貴公子が悔しさを思わず表情に出してしまった感が大変によろしい。やはりサファイアは素でキャラが立っている逸材だ。トパーズも見習ってほしい。


 なーんて明後日の方向で考え事をしていると、サファイアがハァとため息を吐いて言った。


「そう、最初っから見てたってことね。で、なんで隠れてコソコソ見てたの? ってか暇なの?」


 相変わらず、切れ味鋭い嫌味だ。最適な角度で心の中のやましい部分を抉ってくる。それは温厚な俺でも思わずカッとしてしまうレベルだ。


「バ、バカヤロー!! 暇な訳じゃねー!! 俺は魔王でありながらも、この試合のプロデューサーとして色々とやることがあってだなぁ! 人間達に見つからないよう注意しながら、試合の準備とかセッティングをだなぁ……」


 おっと! 暇人扱いされて思わず熱くなってしまった! これは言い訳すればするほど苦しいヤツだ! 


 「はぁ?」と冷ややかな目で見てくるサファイアの視線を受けて、俺はハッと我に返り素早く話を切り変える。


「と、とにかくだ! 今回のお前の職務怠慢は見逃さないからな! 罰として、今後1年間エメラルドの行動責任者を命じる!!」


 俺はこれまでキューちゃんが担っていた面倒くさい係を、サファイアに命じる。丁度キューちゃんも不在になるし、ちょうどいいだろ。なんて思いながら。


「ちょっ!? 絶対イヤなんだけど!?」


 サファイアは当然のように拒否してくるが、俺は冷ややかに言葉を続ける。


「ダメ。決定事項。ちなみにサボったら、ルビーに言いつけるから」


 俺がそう言うとサファイアは脱力したように玉座に身を預けて俺を睨むと「人でなし」と呟いた。


「フハハ! 俺は魔王様だからな! 人でなしに決まってるだろうが!!」


 俺が高笑いを上げると、サファイアがゲンナリとした表情を浮かべて、ジト目で俺を睨んだまま口を開く。


「で、試合のプロデューサーだっけ? その役目はもういいの? こんなところでいつまでも俺に構ってていいの?」


「は! そうだった!!」 


 遠回しに早く出て行けと言われている気もするが、確かに急がないとまたエメラルドと愉快な聖騎士団の皆から逸れてしまう。


 もう少し、ここぞとばかりにサファイアにネチネチと嫌味を言いたかったが、多忙なプロデューサーはそうゆっくりもしていられないのだ!! あー忙しい、忙しい!


「おい、お前は行かないのか? サファイア? 俺のプロデュースした素晴らしい試合の様子を見れば、お前だっていかに俺が勤勉に働いているか理解できるぞ!」


「……別に理解したくないし。せっかく静かになったんだ。僕はここで本読んでるから、早く行ってよ」


 サファイアは素っ気なくそう言うと、落ちた本をおもむろに拾って再び読書を始めた。……冷たい……。いや、だがそれがいい。それでこそ我が魔王軍の四天王『水の貴公子』!! 

  

 俺はサファイアの塩対応にムネアツな思いを抱えながら、水の広間を後にした。





 ◇





 今回は思ったよりも近くにエメラルドたちが居たためヴァナルカンドの力を借りずとも、すぐに合流することができた。


 そのまま、俺はまた姿を消してエメラルドと聖騎士達に勘付かれない様こっそりと後を追う。前回と同様に彼らは適度な場所で休息を取り、俺の差し入れた食料を食べ、再び歩き出す。


「あ! そろそろ『火の広間』だよ!! わーい!! 楽しみー」


 水の広間を出てから、凡そ一昼夜ほど歩いた頃にエメラルドが不意にそう叫んだ。


「今度は『火』なのか!」


「どおりで、さっきから暑いと思っていたぜ」


 サマルとグランダルが言葉を交わすのを聞いて、エメラルドがニコニコと答える。


「そうそう! 『火の広間』もカッコいいからね! 期待してね!」


「「「「「……」」」」」


 皆、無言だ。嫌な予感がしているに違いない。かく言う俺も期待よりも不安の方が強い。まあ『火の広間』に居るのはルビーのはずだから、滅多なことにはなっていないとは思うが。


 歩みを進めるほどに周囲の温度が上昇してきており、聖騎士達の顔に汗が浮かぶ。


「ここだよ~!」


 エメラルドが『火の広間』の入り口と思しき場所に着いた頃には、みんな滝のような汗を流している状態だった。


「あっちーな!!」


 グランダルが投げやりに叫び、手に持った水袋に入った水を飲み干す。


 ですよね~。俺やエメラルドには暑さや寒さは大したダメージにならないが、人間の体には堪える暑さだろう。


 うーむ。このままでは水が切れて彼らが脱水症状になってしまうかもしれないな。後で氷水でも差し入れようか。

 

 などと頭を悩ませている間に、俺達は『火の広間』に足を踏み入れた。



 ――そこには凶悪な光景が広がっていた。


 入口から一本の細い道がまっすぐに伸びている。そして道の両側はマグマ。一歩でも足を踏み外したら、灼熱地獄行きって訳だな。


 真っ直ぐな一本道の先には出口と思しき洞窟が見える。そして、その出口とこちらの入り口のほぼ中央地点にはステージの様な広くて丸いスペースがあった。


 ほほう。あの丸いステージみたいな場所で戦うのか。ステージから落ちたらもちろん待ち受けているのはマグマだ。デスマッチの舞台としては大変素晴らしい出来だ。

 

 チラリとエメラルドを見ると案の定ドヤ顔を決めている。聖騎士達が驚いているのを見て悦に浸っているようだ。




「お待ちしておりました」


 反対側の出口の方から声がして、ゆっくりと中央のステージに向かってルビーが歩いてきた。


 マグマに照らされたルビーが真紅の長い髪を揺らしながら近づいてくる様子は、美しく且つ凶悪な感じが出ていてとても良い。花丸だ。二重花丸だ。

 

「魔王様直属の四天王を務めているルビーと申します。宜しくお願いいたします」


 そしてそんな凶悪そうに歩いてきたルビーが丁寧に自己紹介をしてきたので、聖騎士達は呆気に取られていた。うんうん。分かる分かる。


 ……が、一人だけ『ハッ』と息を飲むような、違う反応を示した者がいたのを俺は目敏く見つけた。それは6人の聖騎士達の中でも一番真面目そうに見えた青年騎士だった。



「団長。今回は私に戦わせてくれませんか?」


 直後に、真面目そうな青年騎士が真面目そうな声で、自ら戦いに立候補をした。


 ――こいつ。ルビーと面識でもあるのか? 


 俺は記憶を手繰るが、この真面目そうな青年騎士に心当たりは無さそうだ。いや、まてよ。何となく見たことがあるような気がしないでもないような感じもしないでもない……。


 ステージの中央に立つルビーの表情を伺うも、特にいつもと変わらない様子でじっと聖騎士達を見つめている。


 俺はモヤモヤとした気持ちを抱えつつ、聖騎士達に気付かれない様に出来るだけ距離を詰めて、試合の様子が見学しやすい場所に身を潜める。


 ついでに聖騎士達の背後にこっそりと魔法で氷の塊を作って置いておいたのは我ながらいいアイディアだと思ったことをつけ足しておこうかなっと。






 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ