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123話 エメラルドの道案内


「やっほー。エメラルドだよー!」


 エメラルドに突然声を掛けられた聖騎士達の一団は驚いて足を止めた。


「何者だ!?」


 一団の先頭にいた聖騎士が瞬時に剣を抜いて戦いの構えをとる……が、前方に居る声の主が少女だという事に気づいたのだろう。すぐに剣を下げてもう一度口を開いた。


「お前は……チルサム殿に保護されていた娘ではないか」


 先頭にいた聖騎士はシャルマーニだった。


「うん。そーだよ! あのねー、エメ、みんなの事、道案内しに来たの!」


 単刀直入だなオイ!! 俺はこっそりと様子を伺いながら、心の中でエメラルドにツッコミ入れる。


「道案内? そうか……それは助かるが。それよりもチルサム殿は無事か?」


 このシャルマーニの質問を聞いて、俺は肝心なことを思い出す。


 ハッ!! そう言えば元々チルサムを取り返しにヴィータ教の騎士団が攻めてくるって話から、この試合の設定をしたんだっけ……。


 ――ってことは、チルサムがもうバンドルベル家に帰ったという情報が騎士団に伝わったら、戦わずに帰っちゃうんじゃね? あれれ? こんなに頑張って準備したのに全て無駄になっちゃう? 水の泡?? 


 マズい!! マズいぞ!! エメラルド!! 余計なこと言うなよ!! 誤魔化せ!! 話を逸らせ!! 切り抜けろ!!


 俺はもはや当初の目的は置いておいて、とにかくこのせっかく作った魔王っぽいダンジョンを使って、戦いの舞台を作りたいという本末転倒な思いでいっぱいだった。絶対にこのプロジェクトを成功させたい!!


 俺のそんな熱い思いが伝わったのか(どうかは分からないが、そういう事にしておこう)、エメラルドが首を傾げて、当然のことのようにシャルマーニに答えた。


「チルサム? トパーズと一緒にいるよ?」


「む。トパーズと言うのはお前と一緒に保護されていた少年か……。そうか、チルサム殿は無事なのだな」


 エメラルドの答えを聞いて、シャルマーニはホッとしたように呟く。更にシャルマーニのすぐ隣に控えている聖騎士が言葉を添える。


「トパーズと言う少年が魔王に命乞いをしてくれているのかもしれませんね」


「そうかもしれぬ。どちらにしても、一刻も早くチルサム殿を助け出さねば」


 そんなやり取りをこっそり木陰で観察しながら俺もホッと胸を撫で下ろす。上手いぞ、エメラルド! 言葉足らずのお陰で奴らに勝手な解釈をさせることに繋がったじゃねーか!! 


「ねー、早く行こうよ!」


 立ち止まる騎士達を急かすようにエメラルドは声を掛ける。


「うむ。エメラルドとやら、案内を頼むぞ!」


 シャルマーニが急かすエメラルドに返事をすると、騎士の一団はまた山道を登り始めた――。




・・・・・・・


 

 

「ねーねー、ところでさー。戦いに来るのは6人って聞いてたんだけど多くない??」


 少し山道を登った所で、ふと思い出した様にエメラルドがシャルマーニに話し掛けた。


 そうなのだ。さっきこっそり数えたのだが、シャルマーニは100人くらいの騎士団を率いてやって来ていたのだ。


 ……気付くのが遅いっつーの、エメラルド!! 俺なんかさっきからずーっとそのことが気になって、悶々としてたよ!!  まさかこいつら約束破って数の暴力で攻める気じゃないだろーな!?


 俺はこっそりとみんなの後をつけながら、また心の中でエメラルドと騎士団にツッコム。


「戦いの場に行くのは約束通り6人だ。入り口とやらがあるのだろう? 他の者達はそこまで同行するだけだ。我々は聖騎士だ。約束は守る」


 シャルマーニはエメラルドをギロリと睨みながら、低い声でピシリと答えた。


「ふーん」


 エメラルドは自分で質問しておきながら、興味無さそうに相槌を打った。


「ところで、入り口はまだなのか?」


 そんなエメラルドの態度に肩を竦めながら、シャルマーニは逆に質問をしてくる。


「うーんとね。もうすぐだよ。ほらほら、そこだよ」


 エメラルドが洞窟の入り口を指さす。ちょうどその時、洞窟の中から巨大な吸血コウモリたちが飛び出していった。


 お、いいね。今のタイミング。いかにも凶悪なダンジョンっぽいじゃん。俺は一人でこっそりと悦に浸る。


「この洞窟の中に魔王が居るのか?」


 シャルマーニがエメラルドに尋ねる。


「うん! あのね、いっちばん深い所にね、魔王の間があるの! すっごいんだよ! 早く見てもらいたいなぁ」


 へ? そうなの? いつの間にそんな『間』が出来てたの? ヤダー! 初耳! そういう事は早く魔王本人に言って欲しいなぁ。


 ……俺は突然のエメラルドのサプライズ発言にビックリしつつ、エメラルドには改めて『報・連・相』について教えねばならぬと心に刻みつけた。


「そうか。して、その魔王の間にはどのくらいで到着するのだ?」


 重ねてシャルマーニが質問する。


「うーんとね。迷わなければ1週間くらい!!」


 エメラルドの答えを聞いて、シャルマーニが頷きながら再度確認するようにエメラルドに話し掛ける。


「迷わなければ、か。もちろん道案内は其方がしっかりとしてくれるんだったな?」


「もっちろん!!」


 エメラルドが自信満々に答える。


 その答えを聞いてシャルマーニは満足げに頷くと、大きな声で聖騎士団に指示を出した。


「諸君!! 我々はようやく魔王の足元に辿り着いた! ここからは師団長以上の幹部陣のみで進行する! 諸君らはこの場でキャンプし、我々が戻るのを待て! もし、20日経っても誰も戻らなかった場合、全員教団本部に戻り、その旨を報告せよ!」


「「「「はっ!!!」」」」


 騎士達は一斉に背筋を伸ばし、シャルマーニの指令に従う意思を敬礼で示す。


 その一糸乱れぬ動きは、騎士たちがシャルマーニに本気で敬服していること、シャルマーニが形だけの団長ではないことを雄弁に物語っているかのようであった――。














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