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122話 魔王様はふつう前線には出てこないはずだからね作戦


「さてと。じゃあ、いよいよ聖騎士団の連中を迎えに行くか」


 試合の舞台も整ったし、あとは役者が揃うのを待つばかり。という事で、待ちきれない俺はヤジリカヤ山の下まで人間達を迎えに行くことにする。


 先ほど完成したゴシック調の広間にアイアン隊長を残し、俺はエメラルドを連れてヤジリカヤ山を下り始めた。


 そして下山しながら、俺はずっと考えていたある作戦をエメラルドに伝えた。


「エメラルド、よく聞いてくれ。お前は魔王四天王の一人だが、これからやってくる人間達の道案内の役目も任せようと思っている」


 俺がこう切り出すと、エメラルドは「え!?」と驚きの声を上げた。


「じゃあ、エメもトパーズみたいに人間と戦い出来ないの!? やだ~!! つまんない~!!」


 予想通り、戦いから外されると勘違いしたエメラルドが駄々をコネ始めたので、すぐにフォローする。


「いや。もちろん戦ってもらうさ。いいか? よく聞けよ? これは重要な作戦なんだ」


「……さくせん? なになに? どういう作戦?? 教えて、アダマント様!!」


 もったいぶったようにそう言うと、これまた案の定エメラルドは興味津々で俺の話に食いついて、続きを催促する。


 俺は引き続き勿体ぶったように「コホン」と咳ばらいをして、作戦の説明を始めた。


「まず、聖騎士団の連中に、お前が無害で弱いただの案内役の魔石の子供だと思わせるんだ」


「うんうん! そして?」


「もちろん、ダンジョンの中で三人の四天王と人間達が戦っているときも、あくまでもただの道案内としてふるまうんだ」


「うんうん! ふるまう! ふるまう! で?」


「三人の四天王と戦った時点で、人間達は『じゃあ、四人目はどこに居るんだ?』ってなるだろう?」


「うん、うん!! なる、なる!!」


「そうしたら、そこで遂にお前が正体を明かすんだ。『私が最後の四天王だ』ってな! 驚くぞ~聖騎士団の奴ら」


「うわぁおぅ!! カッコいいぃ!!! アダマント様!! カッコいいよ、それ!! 最高ジャン!!」


 エメラルドがキラキラと目を輝かせて、俺の作戦を褒め称える。 うむ、予想以上の高評価!


 まあ実際は、あのダンジョンで人間達が迷わずに試合の会場まで辿り着くにはどうしたらいいか、一生懸命考えて捻り出したのがこの作戦だったというのはここだけの秘密だ。エメラルドを上手く乗り気にさせられるかがネックであったが、まったくの杞憂にすぎなかったようだ。


「フハハハ! 愚かな人間共よ!! まんまと騙されおったな! そう、私が最後の、そして最強の四天王『エメラルド』様だ!!」


 すっかりこの作戦を気に入ったらしいエメラルドは、そこからずっと正体を明かすときのセリフを練習し続けていた。


「あー、それと」


 俺は練習を続けるエメラルドにもう一つ重要な作戦を伝える。


「人間が来たら、俺は隠れて様子を見ていることにするからな。ダンジョンの案内はお前ひとりで頼むぞ」


「え? そうなの? なんで? なんでアダマント様は隠れるの?」


 エメラルドが無邪気に聞いてくる。


 ……はあ。まあ、このガキにはまだ魔王業の大変さなんてわからんだろうからな。俺はやれやれと肩を竦めて説明する。


「ばか、お前。人間が魔王に戦いを挑んでくるんだぞ。魔王本人が道案内する訳にはいかねーだろうが。魔王は大抵ダンジョンの最後の部屋で待ち構えているもんなの!! 普通はこんな前線にいないの!!」


「へー。そーなんだー。ま、いいよー。私一人で道案内だって余裕だし」


 分かったのか分かってないのか分からんような返事をして、エメラルドはまたセリフの練習に戻っていった。むう、大丈夫かな、本当に。


 しかし、これで準備は万端だ。ま、多少のトラブルがあったって何とかなるだろう。俺はポジティブ思考に切り替えて、引き続きヤジリカヤ山のけもの道を歩み始めた。


 こうして俺達がヤジリカヤ山を下り終える頃、下の方からガヤガヤと言う騒めきと、鎧や剣が軽くぶつかり合う金属音が聞こえてきたのだった。


「おい、聖騎士団がやってきたようだ。じゃあ、俺は隠れるからな! 道案内役、上手くやれよ!」


 俺はエメラルドにそう伝え、水の精霊を呼び出して、自分の体を全て包み込むように水の膜を張った。


 この水膜で光の反射を少し操ってやると、周囲の風景に溶け込んでまるで透明人間になったかのように身を隠せるのだ。えーっと、光学迷彩的な?


「はーい!! りょーかい!!」


 俺の方を見もしないで、心配になるほど軽い返事でエメラルドが答えた。


 ……マジで心配だが、もはやここからはエメラルドに任せるしかない。俺は祈るような気持ちで、エメラルドと聖騎士団たちのファーストコンタクトの行方を見つめるのだった――。











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