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121話 始まりの門と試練の間


「ふう。なんとか間に合ったようだな」


 直線洞窟を抜けると、外はまだ明るかった。聖騎士団の連中がヤジリカヤ山の麓へやってくるのは、夜になるだろう。もしかするとちょっと早めに来る可能性もあるが、それでも夕方くらいになるはずだ。


 よし、それまでの間に作戦を練っておくか。まずは試合会場となるダンジョンを確認しよう。


「エメラルド。ダンジョンの入り口はどこにあるんだ? ここからそう遠くないところに入り口を作るようにサファイアには伝えてたが、そのことは聞いているか?」


「うんうん、聞いてるよ~。入り口はこっからすぐ近くだよ」


 エメラルドの答えを聞いて、ひとまずホッとする。コイツの事だから、『間違って別の国に入り口作っちゃった~!! アハハ~!』とか言い出しても不思議はないからな。


「そのダンジョンの入り口とやらを(それがし)が守れば良いのですな?」


 エメラルドの後について歩きながら、アイアン隊長が俺に尋ねてくる。


「あー。まあ、そういうことではあるが……」


 俺はそこまで答えて、ふと『っつーか、このアイアンのオッサンが粉骨砕身で頑張ったら、下手すると聖騎士団が全滅させられたりする可能性もあるのではなかろうか……』と思い当たり、立ち止まる。


 チラリと横目でアイアンのオッサンを見ると、屈強な体躯の厳ついオッサンが俺の半歩うしろで立ち止まり直立で俺の答えを待っていた。


 むぅ。入り口で全滅されたらそれはそれで困るな。


「……入り口を守るというよりは、やってきた6人の人間がダンジョンの中に入るだけの実力があるのかどうかをテストする、くらいの認識で居てもらえればよい。で、その中の一人と軽く戦ってみてもらう感じで……」


 俺は若干アイアン隊長の役割を変えることにした。入り口で聖騎士団の騎士たちが全滅しちゃったらせっかく用意した舞台が水の泡になってしまうからな。それは避けたいよね。


「なるほど、承知いたしました! ご安心くだされ! このアイアンの名誉にかけて、実力の伴わぬ者のダンジョン侵入を防いでみせましょう!」


 アイアン隊長が、任せろと言うように『ドン!』と自身の厚い胸板を拳で叩く。うーん、体育会系。……でも、侵入を防がれたら逆に困るんだっつーの。


「ああ。えーっと、なるべく通してあげて……じゃなく、入り口で人間達が全滅しても興が削がれるからな。明らかに実力が見合わない者でなければ基本は通すように」


「は! なるほど! 承知いたしました、アダマント様!」


 俺は体育会系なアイアン隊長の返事に頷きを返して、再び歩を進めた。


「着いたよー。ここだよー」


 その時エメラルドが少し前の方で大きな声を出した。どうやら入り口に着いたようだ。よかった、案外近いじゃないか。


 急ぎ足でそちらへ行くと、そこには反対側の入り口にも負けない程の巨大な洞窟が口を開けていた。こちらも床から天井まで太い柱が何本も連なり、さながら巨大な鍾乳洞の様な景観であった。


「おお! それではここで某は人間達の到着を待てばよい訳ですな!」


 アイアン隊長が嬉々とした声を上げながら、洞窟の入り口を見回す。


「ああ、そうだ。頼んだぞ。 ……にしても、ちょっと殺風景だなぁ」

 

 俺はアイアン隊長の隣に立って洞窟を眺めながら呟く。


「は? 殺風景とは?」


 アイアン隊長が俺の言葉の言わんとしている所を理解できなかったらしく、聞き返してくる。


「魔王の許へつながるダンジョンの入り口にしてはちょっと野趣に溢れてるって言うか……」


「はぁ……」


 よく分からないと言った顔をしながら、アイアン隊長が曖昧に頷く。


「なーに? アダマント様、アタシの作ったダンジョンに文句あるの??」


 突如、アイアン隊長の肩先から不満そうな声をしたエメラルドが顔を出す。


「うお! エメラルド殿! いつの間に!!」


 突然エメラルドに肩に乗られたアイアンのオッサンはおどろきとまどっている。


「うお! いや、別に文句とかじゃないんだが」


 そして俺も、突然あり得ないところから顔を出してきたエメラルドに驚きつつ弁明する。


「もうちょっと装飾があった方がカッコいいかなって思っただけで……」


「そうしょくぅ~??」


 エメラルドは唇を尖がらせてそう言うと、ジトっとした目で俺を睨む。


「お、おう。 例えば、そうだな。こんな感じの魔王城っぽい装飾とかな」


 俺はそう言いつつ周辺に漂う土の精霊(ノム)を操って、洞窟の複数の柱にガーゴイルの様なものを彫刻し、醜悪な怪物が天井を支えているような景観を作ってみる。


 しかも思った以上にリアルに出来てしまい、薄暗い洞窟が更に不気味さを増してしまった。


「……コホン。ま、こんな感じとか」


 ちょっと趣味が悪すぎたか……? とか思いつつ、エメラルドをチラ見する――。と、そこにはキラキラと瞳を輝かせ興奮した面持ちのエメラルドが居た。


「アダマント様!!! 凄い!! 最高!! カッコいい、コレ!!! この辺全部こうしよ!!」


「お、おう」


 思った以上に高評価!!


 エメラルドはすぐさまアイアン隊長の肩からぴょんと飛び降りると、すぐにノムに指令を出した。エメラルドがノリノリなのでノム達も驚くべき統制の取れた動きで働きだす。


 エメラルドが片手を一振りすると、洞窟の入り口に乱立しているゴツゴツとした岩の柱が次々と醜悪で美しい怪物の彫刻に生まれ変わっていく。


 そして更にもう片方の手を振ると、今度は柱以外の天井や壁にもグロテスクな怪物の彫刻が次々と刻み付けられていく。


 こうして驚くほどの短時間でむき出しの鍾乳洞が、どこかの宮殿のようなゴシック調の大広間へと姿を変えていったのだった。


 そして最後にノム達は巨大な洞窟にぴったりと納まるような、特大の、ゴテゴテした装飾の両開きの門扉を入り口に造りつけた。うおー、ノムさん、いい仕事するねー。いぶし銀の職人技を見た気がするわ。


「コレでイイでしょ? アダマント様!?」


 エメラルドが満面の笑みで俺に感想を求める。……うん、すっげー過剰装飾だけど……。


「い、いいんじゃないか?」


 だってもう、こう言うしかないっしょ??


「な、アイアン?」


 そして俺はすっかり置き去りにされたこの広間の主となるはずのアイアン隊長に華麗に話題を振る。


「は? ああ……ええ、まぁ……」


 困ったようなアイアン隊長の返事が、ゴシックな空間に虚ろに響いたのだった――。









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