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120話 エメラルドとノムさんとデカいオッサン


「ノムちゃんたち~。ここにドワーって穴開けて~」


 ふざけているとしか思えないエメラルドのセリフが洞窟に響き渡る――。その瞬間、先日俺の魔法で崩落した洞窟の土砂が幻のように消えていく。


「……マジかよ」


 こんなにふざけた命令の仕方なのに、土の精霊達は驚くほど統制の取れた動きをしていて、瞬く間に洞窟は崩落する前の状態に戻っていった。


「ありがとー!! ノムちゃん!!」


 エメラルドがブンブン手を振りながら土の精霊に礼を言う。


 ……ノムちゃんではなくノムさんと呼ぶべきなのではないだろうか……と思わず考えてしまうほどの働きぶりである。まさに野村再生工場……っと、これは違うノムさんだったぜ。


 なんてくだらないことを考えていると、エメラルドがデカい声で俺を呼んだ。


「できたよー! アダマント様!! 早く行こう!!」


「お、おう」


 慌てて返事をしてエメラルドの後に続き、洞窟の中に足を踏み入れる。やや狭いが文句を言っている暇もない。俺達は急いで洞窟の中を進んでいった。


 しばらく進んだところで、小さな声が聞こえた様な気がして立ち止まる。


「おい、エメラルド。今なにか言ったか?」


「? ううん? なんも言ってないよ??」


 俺が呼び掛けると、エメラルドも立ち止まって俺の方を振り返り首を傾げる。


「じゃあ、何か聞こえなかったか?」


「ううん? なんも聞こえなかったよ?」


「そうか?? じゃあ、気のせいかな」


 気を取り直して再度歩き始めた時、今度こそ遠くの方から声が聞こえた。


「アダマントさまー!!」


 男の声だ。


「あ、今のは聞こえた。誰だろ??」


 エメラルドがそう言いながら目を凝らして洞窟の奥を見る。


「誰だ?」


 俺は出来るだけ大きな声で、後ろから来る声の主に呼び掛けてみた。すると洞窟の奥から声の主の返事が来た。


「私です! アイアンです!! ルビー将軍よりご命令を受けまして、アダマント様のもとへ馳せ参じました!!」


 おお、おっさんか! 俺はその場で立ち止まり、アイアン隊長が追いつくのを待った。


「アダマント様!! 人間を迎え撃つために(それがし)の力をご所望だとお伺いいたしました! 有難き幸せ! このアイアン、粉骨砕身で挑みます!!」


 アイアンのおっさんは感極まったように涙を浮かべながら、俺の足元に跪く。


 おおう、見た目以上に暑苦しいオッサンのようだ。黙っていればイケオジなのに。もったいねーな。どうやらこのオッサンも後々キャラ設定を上手くプロデュースしてやらねばならんようだ。


「あー、よろしく頼むな。とりあえずそんな形式ばった挨拶はいらんから立ってくれ」


 俺がそう声を掛けると、アイアン隊長は「はっ!」とキレの良い返事をして立ち上がった。うーん、体育会系。


 それにしても改めて近くでアイアン隊長を見て思う。……デカいな。


 洞窟の天井が低いせいで、立ち上がったアイアンは腰をかがめなければ立てないようだ。まっすぐに立ったら3メートル近くあるんじゃねーか?


「アハハ! おっちゃん頭ぶつけてる~!!」


 エメラルドがさも楽しそうにアイアン隊長を見上げて笑っている。ったく、コイツは本当に能天気だな。逆に羨ましいわ。


「……おい、エメラルド。洞窟の天井をもっと高くできないか?」


 俺は窮屈そうに立っているアイアン隊長を見上げながら、笑い転げているエメラルドに確認する。


「えー? 高くしちゃったら面白くないじゃん!!」


「……いいから、やれ」


 不服そうな表情のエメラルドの反論を無視して、俺は強権を発動した。言い争ってる暇はないし。


「ふーん、わかりましたよーだ」


 あからさまに渋々感を出しながらエメラルドが返事をする。なんかムカつくな。


「じゃ。ノムちゃん達、よろしくー」


 エメラルドがやる気のない指示を出すと、ジワジワと洞窟の天井が広がっていった。先ほどとは打って変わって土の精霊たちの動きも鈍くて遅い。エメラルドのやる気が無いと土の精霊もやる気を無くすとか、どんだけだよ……。


 知りたくも無かった新たな知見を得て、俺は頭が痛くなる。


 こんなパッパラパーなエメラルドだが、完全に土の精霊を掌握しているようだ。恐らく土の精霊もパッパラパーなんだろ。類は友を呼ぶからな。俺は勝手にそう結論づけて、遅緩(ちかん)な作業を辛抱強く見守った。


「おお、エメラルド殿。まっすぐ立てるようになりましたぞ! 助かりました!」


 しばらくすると洞窟はアイアン隊長が余裕で立ち上がれるくらいの天井高となった。


「ふふん。こんなの余裕だよ」


 アイアン隊長にお礼を言われて、得意そうにエメラルドが返事をする。


「よし、じゃあ急いで出発するぞ」


 俺はもはやツッコム気力もなく、はしゃぐ二人を促して先を急ぐのだった――。









 










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