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13話 人間との交信


「おい! 本当なんだろうな?」


「デュオル、そんなに声を荒げるな」


「しかし……」


「実際に見てみれば、分かるさ」


外の方からディオルとリムシュのやりとりが聞こえてきた。


俺はホッと胸を撫でおろす。どうやら、シャルは上手く二人に話せたようだ。


バタンと扉が開き、デュオルとリムシュが、逃走防止用に後ろ手に縛られたシャルを連れて、集会所に入ってきた。


「おい。もし嘘だったら、すぐに殺すからな。村への無断侵入は重罪だ。文句は言えないぞ」


デュオルが厳しい顔でシャルに言い放つ。


「君がもし本当にこの魔石と話せることが証明出来たら、我々も君の処遇を考え直そう。本当であればデュオルの言う通り、他の村に無断で侵入した君は拷問にかけられて死刑になってもおかしくないのだからね?」


リムシュが優しく、しかし毅然とした物言いでシャルに釘を刺す。シャルは真っ青な顔をして頷いた。


強面の屈強なオッサンに殺すと脅され、温和な笑顔で残酷なことをサラリと言い放つオッサンに詰められて、シャルは生きた心地がしないであろう。可哀想に。


「さて、じゃあさっそく魔石と話してみてもらおうか」


リムシュがにっこりと笑ってシャルを促す。


「魔石に直接触らないと話せない」


シャルがぶっきらぼうに言う。


両手とも縄で縛られていて、確かにこれでは俺に触り辛そうだ。


「縄を外せっていうのか? 逃げる気じゃねーだろーな。ふざけた真似をしたらどうなるか分かってんだろうな」


「分かってるよ! いいから早く外せよ」


シャルが挑む様にデュオルを睨みつける。


「へー。生意気な目をしやがる。面白れぇ、外してやるからやってみろよ」


デュオルは少し楽しそうな顔をすると、手早くシャルの縄を外した。


シャルは縄を外された手首を痛そうに擦りながら、ゆっくりと俺の前に来ると口を開いた。


「おい、アダマント。言った通りにしたぞ。このオッサンたちを連れてくれば良かったんだろ?」


そう言ってシャルは、その小さな手を俺の上にペタリと置いた。


『おう! 良くやったな! でかしたぞ!』


俺がシャルを褒めると、シャルは「へへ」と初めて笑顔を見せた。


『……なんだ、お前。笑えば年相応にかわいいじゃねーか』


「な、なに言ってんだよ!!」


シャルは照れたように赤くなって、俺に怒鳴る。大人びた厳しい顔をしている子供だと思ったが、こういう時には子供っぽい表情に戻れるのか……と少し安心する。


「おい、なにやってんだ? それは魔石と話しているのか? 独り言なのか? 人のことオッサン呼ばわりしやがって」


デュオルが棘を含んだ言葉をシャルに投げつける。


「まあ、まあ」


とリムシュがデュオルを宥める。


『おっと、いかん。まずはシャルが俺と話をできることをあいつらに信じて貰わないといけないんだったな』


俺がそう言うと、シャルも神妙な顔で頷く。


『……そうだな。じゃあまずはあの二人に俺を森から連れ出してくれてありがとな、って伝えてくれないか?』


「わかった」


シャルは頷くと、俺に手を置いたままデュオルとリムシュの方を向いて俺の言葉を伝える。


「アダマント……この魔石が、森から連れ出してくれてありがとうって、お前たちに言ってる」


シャルの言葉を聞いて、デュオルとリムシュが驚いた様に目を見張った。


「……マジかよ?」


デュオルが小声で呟く。


「……いや、俺達が魔石を森から運び出したことはこの村の人間なら知っている。誰かから聞いた可能性もあるだろう……試してみよう」


リムシュが冷静にデュオルに返す。


「逆に質問してもいいかい?」


リムシュの言葉に、シャルが頷く。


「確かにその魔石を森から運び出したのは私達だけど、念のためにその魔石を運び出すときの状況を詳しく答えてもらってもいいかい?」


「……アダマント、覚えてるか?」


シャルは俺に訊ねる。


『えーっと。森の中にそいつらが二人で入ってきたんだ。で、俺の近くを通ったから、俺が光ってあいつらに気付いてもらったんだ。最初に俺に気付いたのはデュオルだったな、確か。それでデュオルが、木にはまってる俺を取り出そうとして、槍で俺の周りの木を剥がして……』


俺が一連の流れを説明し、シャルがそれを二人に伝える。デュオルとリムシュもはじめは信じられないって顔をしてたが、途中からは完全に疑いの眼差しは消えていた。




「……ごめん。まさかとは思ったけど。本当なんだね?」


リムシュが額に手を当てながら、高揚したような面持ちでシャルを見つめる。


「ここまで知ってるんじゃ、信じない訳にいかねーな……。完全に俺かリムシュか……その魔石しか知らないことだもんな……。疑ってすまなかったな、クソガキ」



「クソガキじゃない、僕はシャルだ。あと、この魔石はアダマントだ」


シャルがムッとしたようにデュオルの言葉に気丈に言い返す。しかも、ついでに俺の名前も二人に教えてくれるとは。良い奴だな、シャルは。


「アダマント? 魔石に名前があるのか?」


「こいつが自分で名乗ったんだ」


「へー、こいつアダマントっていう名前なのか。変な名前だけど魔石にも名があるんだな」


な! へ、変な名前だと……! 分かってない! デュオル君! 君、分かってないよ!!


このセンスが分からないとは、どうやら教えねばならぬことがたくさんあるようだな……。


俺は新たな暇つぶしに熱意を燃やしたのだった――。












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