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115話 魔王様は試合の準備をいたします


「あのような約束をされて良かったのでしょうか、魔王様? じゃなくて、父上?」


 満月の浮かぶ夜空を飛びながら、キューちゃんが俺に尋ねた。


「しゃーねーだろ。負けたらなんでも言う事聞くって言っちゃったしな」


 俺はキューちゃんの背中の上にゴロンと寝そべりながら答える。


 さっきルルリナの部屋を出るときに、ルルリナが俺を呼び止めて言ったのだ。


「……もし。私達が勝ったら、私のモノになりなさい。魔王」


 その声は先ほどシャルマーニ達に命令を下したような、毅然とした声だった。決して冗談で言っている様子では無かった。


「ふ……いいだろう。傲慢な人間よ」


俺は振り向かずにそれだけ答え、領事館から立ち去った。



 ……いやね。そりゃ俺だって、本当はもっと詳しくどういう意味で言ったのかルルリナに聞いてみたかったんだけどさ。ちょっとアレだったんだよ。アレ。急にそんな『私のモノになりなさい』なんて言われたもんだから、ちょっと動揺しちゃったんだよね。さすがの俺でもね。や、ちょっとだよ。ちょっと。ほんのちょっと。そーそー。ちょっと動揺しただけだって。いやいや、動揺がバレないようにするのに精一杯だったとか、全然そんなことないし。やっぱ魔王たるものクールに立ち去るべきっしょ。ちょっと今のどう意味ですか? とかあの場面で聞けないっしょ? ね? わかる? 演出ってヤツ。演出。いやでも実際どういう意味で言ったのかはちょっと気になるよね。ね? 気になるっしょ? あー、やっぱ、聞いてくればよかったかな?



「父上。もうすぐ地下宮殿の入り口に着きます」


「え? あ、ああ」


 マジ!? もう着いちゃったの? 早っ。


俺が悶々とさっきのルルリナとのやりとりについて考えている間に、キューちゃんはヤジリカヤ山脈を飛び越えて、俺達の地下居住区の近くまで帰ってきていた。いやーやっぱドラコーヌはスゲーわ。ある意味プライベートジェット。


 バサリと大きく翼を羽ばたかせ、キューちゃんは地下宮殿の入り口の近くに着陸する。俺が背中から地面に飛び降りると、キューちゃんは人型に姿を変えた。


俺はそのままキューちゃんを伴って地下宮殿に下り、さっそくルビー、サファイア、エメラルド、トパーズ、それにチルサムを招集して、ヴィータ教団に試合を申し込んできたことを話した。



「ア、アダマント様……突然お出かけになられたと思ったら……なんと言うことを……」


俺の話を聞いたルビーがテーブルの上に置いた拳をブルブル震わせながら、絞り出す様に言った。


「えー!! でも、ちょー楽しそう!!」


「エメラルドは黙ってなさい!!」


 ルビーがドンッとテーブルを叩いて、エメラルドを叱る。


 おお、怒っとる。怖。


「ま、そこは戦争するよかマシってことでさ。で、サファイアとトパーズ。頼んでたもんはあと2日で完成するかな?」


俺はルビーの怒りをこれ以上刺激しないよう、さりげなく話題を変える。


「ハァ……無理だって言っても、どうせ完成させろって言うんだろ? ……ま、明日くらいにはできるよ」


諦めたような顔で溜息をつきながら、サファイアが報告する。


「頼んでいたもの? それは何ですか?」


 ルビーがピクリと反応したので、これ以上怒らせない様に素早く簡潔に説明する


「ああ。今、サファイアとトパーズに、地下ダンジョン風試合会場を作ってもらってるんだ」


「……なんですか? それは」

「えー! なにそれ! チョー楽しそう!!」


 ルビーが口を開いたのと同時にエメラルドが歓声を上げ、ルビーの声がかき消される。そしてエメラルドの歓声に気を良くした俺は饒舌に語り始める。


「だろ? 魔王討伐に向かった勇者一行が行く場所と言えばダンジョン! ダンジョン内で次々と現れる魔王四天王! 満身創痍で何とか四天王に勝利した勇者一行の前に更に現れるピンチ! そして幾多の危機を乗り越えて、ついに魔王との対決!!!!!」


 うおおお!!! 熱い!!! 熱い展開だぜ!!

 

「勇者……?」


「魔王四天王って誰だよ……しかもなんで人間側の視点なんだよ。アホか」


 チルサムがポカンとした顔をし、サファイアが呆れた様に呟く。


「いえ、サファイア殿。父上は奥深い考えの下、いついかなる時でも妥協なく『魔王っぽく』を追求されているのです。人間側の視点で見るのもその一環なのでしょう。我々には及びつかないお考えの下に語られているのです。さすが父上……」


 キューちゃんが尊敬のまなざしで俺を見つめながら、サファイアの言葉をやんわりと否定する。


「ま、どっちにしても、面白そーだから俺はアダマントの作戦に乗ってやってもいいぜ」


 トパーズの言葉にエメラルドもピョンピョンして便乗する。


「エメも!! エメもやる!! 四天王やる!!」


「ふふふ、良かろう。ルビーはもちろん協力してくれるよな?」


 俺が二人の参加宣言に気を良くして、ルビーにも念押しをする。ルビーは渋々「……承知いたしました」と返事をした。


「……言っておくけど、僕はやらないからね。そんなめんどくさいコト」


「えっ!?」


 サファイアの不参加宣言に俺は絶句する。そんなバカな!!


 だ、だめだ!! サファイアが居ないと水の属性の四天王が居ないという致命的なバグが発生してしまう……!!!


 しかし、ここにきて俺は既に発生している更に特大のバグにハタと気付く。




 ……マズい。これはマズい。



 

 ……エメラルドもトパーズもどっちも土の属性じゃねーか!!!!!!












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