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114話 魔王様は余裕で他人の部屋に侵入できます

 

 キューちゃんの作戦通り、俺達はすんなりと領事館へ侵入することが出来た。その上、侵入する際にはなかなかカッコ良い演出をすることもできた。


 領事館の廊下を歩きながら、先ほどの一幕を思い出してニヤニヤする。


 俺達が領事館の前に着陸した直後、キューちゃんの特技『麻痺の眼光』で動けなくした聖騎士を前にキューちゃんが俺に話し掛けたのだ。


「魔王様。この者達はどうしますか?」


 いやぁ、これはナイスなセリフだったよ。キューちゃん。この一言だけで、俺が恐ろしいドラコーヌを従える魔王だという事がすぐに相手に伝わったよね。


 このナイスなセリフを最大限に生かさなくてはならないと、あの瞬間、俺も中々の緊張を強いられたほどだった。


 しかし、俺はそのプレッシャーをモノともせず、最高のセリフをキューちゃんに返したワケ。


「よい、捨て置け。我の目的は教皇だ」


 どうよ?


「よい、捨て置け。我の目的は教皇だ」


 やべぇ。ちょーカッコいい。キューちゃんもあの瞬間、ダディクールと思ったはずだ。


 それもこれも着陸直前の打ち合わせが功を奏したと言えよう。


「いいか、キューちゃん。地上に下りたらとりあえず俺の事は魔王様と呼ぶように!」


「は、はい。父上!」


「あー! だからダメだって。そこは、『はい。魔王様!』だ」


「は、はい。魔王様」


「そーそー、そんな感じ。いいね。それで頼むよ、キューちゃん」


「はい。魔王様!」


 領事館へ降り立つ前に、キューちゃんには口を酸っぱくして『魔王様』と呼ぶことを約束させたのだ。素晴らしい判断だった。


 そんなことを考えながら、総領事館の廊下を歩く内にあっという間に教皇の部屋に到着した。教皇の部屋はチルサムに聞いてきたので間違いないだろう。


 ノックをしようかどうしようか、ちょっと迷った。敵の部屋とはいえ女性の部屋だからな。とはいえ、まあ外の騒ぎは聞こえていただろうし、何よりもこの場面でノックして入る魔王なんてかっこ悪いからな。


 俺は一瞬でそう考え、必要も無いのにわざわざシフを使って、勢いよく教皇ルルリナの部屋の扉を開いた。


「何者だ!!」


 部屋の奥からルルリナではない女の声がした。部屋にはルルリナと、ルルリナを守る二人の騎士が剣を持って俺達の前に立ちはだかっていた。


 一人の騎士はすぐに誰だかわかった。シャルマーニだ。シャルマーニは聖騎士団の団長だとチルサムが言っていたし、まあルルリナを守っているのは当然だろう。で、もう一人は知らない女騎士だった。


「私は魔王だ。教皇に話がある」


 俺はシャルマーニともう一人の女騎士を無視してルルリナに視線を合わせ、出来るだけ威厳のある声でそう言った。


「話?」


 ルルリナが小さく呟く。


「教皇様! 魔王の戯言になど耳を貸してはなりません!」


 シャルマーニが剣を構えながら、ルルリナに進言する。まったくうるせー小娘だ。


 ルルリナが俺の目を見つめて軽く頷くと、シャルマーニと女騎士に向かって「剣を下ろしなさい」と命令した。


「しかし!」


「下ろしなさい」


 シャルマーニは少し反抗したが、ルルリナに毅然とした口調でもう一度命令されると、渋々と言った様子で剣を下げた。


「話とやらを聞きましょう」


 二人の騎士を手で制し、ルルリナが前へ進み出た。


 学生の頃は、兄貴に頼りっぱなしのザ・お嬢様って感じだったルルリナだが、今の立ち居振る舞いを見る限り、教皇の立場が板についているようだ。立場が人を育てるってことなのか、そうならざるを得なかったのか。


 どちらにしても、今後の俺達の対応はルルリナの回答に掛かっている。俺は極力威厳を持たせた声で話を切り出した。


「どうやら、お前達人間は戦いでしか物事を決められないようだという事は今回の件でよく分かった」


 俺の言葉を聞いて、ルルリナがすぐに反論をする。


「チルサム総領事を連れ去ったのはそちらが先ではありませんか」


「ふむ。そう決めつけて、攻め入る準備をしている所がお前達人間の傲慢さだと気づかぬか」


 俺はワザとらしくやれやれというように言葉を続ける。


「な……」


 ルルリナが俺の態度と言葉に絶句する。怒りを感じているのだろう。ルルリナの白い顔が少し赤みを帯びたように見えた。


 俺はうっすら笑って、更に畳みかけるように言葉を繋いだ。


「我々からすれば、傲慢なお前達人間を一息に滅ぼすことは容易いのだ。しかし、それではつまらぬからな。お前達人間にもチャンスを与えてやろうと一つ提案をしに来たのだ」


「提案……?」


 ルルリナが気丈に俺を睨みつけながら、呟く。


「そうだ。お前達人間の中から6人の強者を選び出し、我らの6人の戦士と戦ってもらう。一対一で、だ。最終的に勝利数の多い陣営の勝ちとする。我々が負けた時はお前達の言う事をなんでも聞こう。ただし、我々が勝った場合は二度と我々に手出しをしないと約束をしてもらう」


「……なぜ、そのようなことを」


 ルルリナは俺の意図を探り出そうとしてか、低い声で尋ねてくる。


「ただの戦争などは退屈だからな。虫けらを何万匹潰したところで暇つぶしにもならぬ。強者たちの一対一の戦いの方が見応えがあるだろう?」


「……」


 ルルリナが俺の言葉に表情で嫌悪感を示したが、何も言葉は発さなかった。


「さあ、どうする? 提案が気に食わなければ、このまま戦争を始めてもいいが?」


 出来る限り魔王っぽく、悪そうに、俺はルルリナに答えを迫る。


「……分かりました。その提案を受けましょう」


 沈痛な表情でルルリナがついに答えを出した。


「な! 教皇様!?」


 それまで沈黙していたシャルマーニが、驚いた様に声を上げる。


 よっしゃ、乗ってきた! 俺は思わずニヤリとする。


「フフフ……良い判断だ。それでは二日後、6人の強者はここから5キロ先のヤジリカヤ山の麓へ参るがよい。そこに戦いの場に繋がる入り口を用意しておこう」


 俺はそう言いながら、サラマを集めて弱い炎の魔法を放ち、指定場所の地図を部屋の壁に焼き付けた。


「では2日後を楽しみにしておるぞ」


 俺はそう言い放ち、ルルリナに背を向ける。部屋から立ち去ろうと一歩踏み出したとき、ルルリナの声が俺を呼び止めた。



「お待ちなさい、魔王」







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