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挿話 ある聖騎士の報告


 あの日、私は首都ヒットゥイからヤジリカヤ山脈の麓の総領事館へ派遣されていました。魔物の王に攫われたとされるチルサム総領事奪還作戦のためです。


 翌日のヤジリカヤ山脈への登山を控えて、我々聖騎士団は総領事館の周りで野営をしておりました。


 野営エリアは各師団ごとに割り振られており、我々第一師団は総領事館の南側に滞在をしていたのです。


 翌日は早朝に出発をするという事で、各師団とも早めに夕食をとっておりました。


私はちょうど夕食の時間に見張りの順番が回ってきたため、夕食はとらず第一師団の野営エリアの南端に同僚と一緒に警備に立っていました。


 既に辺りは暗くなっておりましたので、我々は松明の明かりの下で警備をしておりました。

 

 警備に立ってから30分ほど経った頃でしょうか。突然、大きな風と共に、羽ばたきのような音が聞こえたのです。


 ええ。バサリ、バサリと、ゆっくりと降りてくるようにと言いますか。そうですね。段々と我々に近づいて来るかのように聞こえました。


 その直後でした。巨大な影が我々の頭上に現れすぐ近くに着地したのです。巻き起こった風で、松明の火が消えてしまいその巨大な影の正体が何なのか、その時の我々にはすぐには分かりませんでした。 

 

「……動くな」


我々が武器を構えて、巨大な影の正体を確かめようとした時でした。巨大な影が喋ったのです。


「な、何者だ!」


私は震えそうになる声をなんとか抑えて、巨大な影に話し掛けました。


その瞬間、巨大な影の……恐らく目だったと思いますが、二つの赤い光に私は捕らえられました。


捕らえられた、まさにそう言うしかないのです。その赤い光を見た途端、体が動かなくなってしまったのですから。


 仲間たちに異変を知らせようにも、言葉を発することもできません。私の隣に居た同僚も同じ状況だったと思います。私たちはその場で凍ったように動けなくなってしまったのです。


 ちなみに動けなくなったとは言え、感覚は残っていました。周りの音は聞こえますし、目も見えておりました。


 松明が消えてしばらく経ち、その頃ようやく私の目も暗闇に慣れてきました。その日は満月も出ており、完全な闇夜では無かったのです。


 私達を捕えた赤い光はやはり目でした。……しかも、巨大なドラコーヌの。


 私達の目と鼻の先に巨大なドラコーヌが居たのです。あの時の恐怖と言ったら、言葉では言い尽くせません。逃げようにも体は動かないのですから。このまま殺されると、私は覚悟しました。


 しかし、予想は外れました。


 ドラコーヌがまた喋ったのです。しかし、それは我々に向けて発した言葉ではありませんでした。


「魔王様。この者達はどうしますか?」


 するとドラコーヌの背中から、若い男が降りてきてこう言ったのです。


「よい、捨て置け。我の目的は教皇だ」


 恐ろしい声でした。心臓を鷲掴みされるような、頭の芯に響くような声でした。


 そのまま魔王はドラコーヌを引き連れて、領事館の方向へ歩いて行ったのだと思います。私達のすぐ脇を通り抜けていきました。


 魔王、まさにその名に相応しいほどの魔力を感じました。隣を通り抜けられただけで、死の恐怖を感じたほどです。


 少しして背後から仲間たちの怒声が聞こえました。ドラコーヌの襲撃に気付いたのでしょう。しかし、すぐに騒ぎは収まり静かになりました。


 これは後から知ったことですが、この時、他の聖騎士たちも我々のようにドラコーヌの赤い光を見て体が動かなくなっていたようです。


 結局、あの魔王と呼ばれていた男も付き従っていたドラコーヌも、あの場に居た我々聖騎士の集団を一人も殺すことなく、易々と領事館に侵入したのです。


 ええ。もちろん、我々は栄えある聖騎士です。戦いに関してはそれなりに自信を持っております。が、だからこそ、あの魔王とドラコーヌの強さのレベルが違うことは身に染みて分かりました。


 どれほどの強さなのか私には判断も付きません。化け物じみたと申しましょうか。我々、一般の聖騎士が束になっても敵わないでしょう。もちろん、帝国の騎士だとて言わずもがなでしょう。


 だからこそ、教皇は魔王の申し出を受けられたのだと思います。魔王の思惑は分かりませんが、あの者達に本気で攻められたら、と思うと……ああ、いえ、これ以上は個人的な見解になるのでやめておきましょう。


 私からの報告は以上となります。


 帝国に神の祝福のあらんことを――。









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