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112話 バトル漫画は一対一に持ち込む展開が熱いっしょ

 

 ヴィータ教団が帝国内で一定の影響力を持っているのには二つの理由がある。


 一つは現皇帝がヴィータ教の教義に傾倒していること。そして、もう一つは教団内に組織されている聖騎士団の存在だ。


 聖騎士団はヴィータ教の教義を信奉する騎士たちで組織された戦闘集団である。教団に敵対する者を、神の名の下に冷酷に排除する軍隊として周辺国からのみならず、帝国内でも恐れられている存在だった。


「そう言えば……」


 チルサムからその聖騎士団の話を聞いた時に、キューちゃんがふと思い出した様に口を開いた。


「人間の町に食料を買いに行ったときに、町の人たちの間で『聖騎士団が召集された』という噂が飛び交っているのを聞きましたが……」


 それを聞いたチルサムが一瞬険しい顔をして、呟くように答える。


「……教皇が攻撃対象を決定した時に、聖騎士団は召集されます」


 その言葉だけでチルサムが何を言いたいかピンとくる。


「ここに攻めてくるってことか?」


 俺の言葉にチルサムが頷きながら答える。


「恐らく……。このタイミングであればそう考えるのが妥当です。名目は私を助け出す、ようなことになっていると思います。元々ヴィータ教団はより強い魔石を入手するために、ヤジリカヤを領有する我がバンドルベル家を自勢力に取り込もうと躍起になっておりましたし、件の聖騎士団の団長もルルリナ教皇と共に領事館に来ていましたし」


「団長?」


 そんな奴いたか? 俺は怪訝に思いチルサムに尋ねる。


「シャルマーニと言う名の若い女騎士です。魔王様に攻撃したあの騎士ですよ」


「え!? あんなガキみてーなのが団長なの?」


 俺は驚きに目を瞠る。まあ、確かに剣の腕は確かだったし、態度もやけに偉そうだなとは思ったけれども。


「ええ、彼女は神の祝福を受けた聖女という触れ込みで幼い頃にどこかから連れてこられました。そして15歳になった時に聖騎士団の団長に任命されたのです」


「マジか」


 あんなガキんちょに軍隊の隊長をやらせるなんて気持ちワリー集団だな。俺が顔を顰めるのを見て、チルサムは聖騎士団について更に説明を続けた。


「聖騎士団は教皇の直轄となっていて、団長をトップに、団長を補佐する副団長、その下に4人の師団長がいて、師団長の下にそれぞれの師団が編成されている形です」


「……本格的に軍隊だな」


「ええ。組織力としては帝国の騎士団よりも上でしょう。もしかすると戦力としても上かもしれない、と貴族界隈ではまことしやかに囁かれていますよ」


 つまりはその本格的な軍隊と戦わなくてはならないかもしれないってことか。


 もちろん俺達が負けることは無いとは思うが、多数対多数の戦闘になれば多くの死者が出る。それはなんだか後味が悪いからイヤだ。


 ――くっそ。これじゃあ『神』のヤロウの思う壺だ。ムカつくな。


「宗教組織の中の騎士団が、帝国の騎士団よりも戦力が上なのですか? 軍隊の規模としては、普通、国の軍隊の方が大きいものなのではないでしょうか?」


 黙り込んでしまった俺に代わってキューちゃんが、チルサムに質問をした。


「ええ、普通はそうだと思いますが。聖騎士団の場合は、その幹部陣の個別の戦闘力がずば抜けて高いのです。それこそ人間離れした、と言ってもいいほどに」


「人間離れした力……ですか? 幹部陣というのは、師団長以上の六人という事ですか?」


「はい。彼らは神より授かった力だと公言しております。実際、一対一の戦いで彼らを倒せた者がいたという話は聞いたことがありません」


 そんなチルサムとキューちゃんの会話を聞いているうちに、俺はあることを思いついた。


「それだ!!」


「え?」


「ち、父上? 急にどうしたんですか?」


 突然、声を上げた俺を二人は呆気に取られたように見つめる。


「いやいや。今のでイイコト思い付いたぞ」


「いいこと、ですか?」


 キューちゃんがなんだかさっぱり分からないと言った顔で首を傾げる。


「おー! 戦争をするんじゃなくて、試合をするんだ。聖騎士団には強いヤツが6人いるんだろ? なら、俺達も強いヤツを6人出して、一対一で試合をするんだ。多く勝った方が勝ちでさ。そうすれば無駄に死人を出さずに済むだろ」


 題して『バトル漫画的解決作戦』だ!! これは熱いだろ!! ま、こいつらには言っても分からんだろーから作戦名は心の中で呟くだけにしておく。


「しかし、そのようなことに向こうがのってくるでしょうか?」


 キューちゃんがまた首を傾げながら、口を開く。


「……いえ、確かに人的被害を抑えつつ、目的を達成できる方法があるのであればヴィータ教団も同意するかもしれません」


 チルサムが考えながら発言する。


「ま。分かんねーけど、そっちが勝ったら俺達が何でも言うこと聞くって約束でもすればのってくるんじゃないか?」


「な、なんでも……!? まあ、父上がそう仰るなら、私は反対はしませんが」


「よーし。そうと決まればさっそく試合を申し込みに行くぞ」


「え!? 今すぐですか!?」


「おう! 思い立ったが吉日だ。さっさと行かねーと聖騎士団が攻めてきちゃうだろ」


「しかし。そういう内容であればルビー殿にも一言お伝えした方が……」


「いーって、いーって。ルビーに言ったら、また色々めんどくせーこと考え始めちゃうからさ」


 俺とキューちゃんのやり取りをチルサムがワタワタしながら眺めている。


「チルサムはとりあえずここでゆっくりメシ食ってろ、な」


 俺が声を掛けると、チルサムは吃驚したような顔をしたが素直に「はい」とだけ答えた。














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