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108話 人生相談

 

「私は帝国の西に位置するヤジリカヤ領を治めるバンドルベル西境伯の嫡男として何不自由のない生活を送ってきました――」


「お、おお。そうか」


 うん、知ってる。トルティッサもボンボン育ちみたいだったしな。


 突然始まったチルサムの独白を聞きつつ、思わずトルティッサの事を思い浮かべる。


「幼い頃から次期西境伯としての教育やマナーを叩き込まれ、優秀な側近も付けてもらいました。そして昨年からは、自分で言うのもなんなのですが、この歳でヤジリカヤの重要地区の総領事を任せて貰いました」


 ふむふむ。


 俺が頷いているのを見て、チルサムはそのまま話を続ける。


「しかし、実際に一地区を治めるようになってふと思ったのです。私は余りにも狭い世界でしか生きていないのではないかと。一般の町の者達がどの様な生活を送っているのか、どういうことを日々思っているのか、全く分からないですし、帝国の外にも出た事がありません。こんな小さな人間が人々を治める立場にいて良いのかと、悩んでおりました」


 おお、なんか第一印象に反して思った以上に真面目な奴だな、コイツ。


「側近達には、為政者が下々の者にそこまで寄り添う必要はない、とにかく貴族社会で上手く立ち回ることが重要だと言われてきましたが、どうしても自分の中で納得が出来ず……。その様な時に、トパーズとエメラルドに会って衝撃を受けたのです。彼らは私とは全然違う……自由で、楽しそうで、自分と違うモノにも寛容で……新しいモノをどんどん吸収して……」


「ワオ! なんか、チルサムがエメのこと褒めてる~! わーい! もっと褒めて~」


「……やかましい」


 俺は鬱陶しく動くエメラルドの頭を抑え付けて、チルサムに目線で話の続きを促した。


「端的に言うと……そうですね、憧れたのです。二人の自由な生き方に……。それで私も違う世界に飛び出したいと思ってしまったんです」


「……そっか」


 こいつも色々考えてんだな。……軽そうに見えて。


 俺が納得した様に頷くと、チルサムは苦笑して言葉を続けた。


「けれど、今になって冷静に考えれば軽率な行動でした。そのせいで、魔王殿にも要らぬご心労をお掛けすることになってしまって。……私のせいで魔石と人間の争いを起こす訳には参りません。やはり私は領地に戻り、父や教皇にきちんと説明をしなくてはなりませんね」


「まあ、そうして貰いたいのはヤマヤマなんだけどなぁ」


 俺は若干煮え切らない返事をする。


 というのも、それとはまた別の問題として『神』の動向も気になるのだ。既にルルリナ経由で神にオレ達の情報が入った可能性は高い。実際にあの洞窟までジェムが攻めて来ているし、少なくとも大体の居場所はバレてると思った方がいい。


 そうなるとチルサムが戻ったとしても、神が何らかの攻撃をしてくる可能性は高い……しかも恐らく宣言通り、人間を使って。であれば、チルサムにはもう少しここに居て貰って人間側の情報を提供してもらうのが良いかとも思えるのだ。


「あの……」


 俺が考え込んでいると、チルサムが恐る恐るといった感じに声をかけて来た。


「ん? なんだ?」


「これをお伺いして良いものか分からないのですが……」


 妙に恐縮した感じに話すチルサムを促す。


「なんだよ? 気にしないでいいから言ってみろ」


「魔王殿のお名前は『アダマント』様と仰る様ですが……もしかするとあの滅びてしまったアダマント王国と何か関連があるのでしょうか……」


 おおう、ここに来てその質問か。コヤツ……できるな。どこまで勘付いているんだ?


「ふむ。答える前にあんたの予想を聞かせてもらえるか?」


 俺はチルサムがどう思っているかによって答えを変えようと考え、聞き返してみる。見当違いのこと言ったら、その方向で誤魔化してやる。


 そんな俺の考えを薄々感じているのか、チルサムは少し迷うように間を置いてから口を開いた。



「……もちろん関連があると思っています。これは本当に私の個人的見解なのですが……。具体的に申しますと、アダマント王国に祀られていたという伝説の巨大な黒い魔石……それが魔王様なのではないかと、考えました」


「……」


「……」


 チルサムは黙って俺の答えを待っている。うーん、もはや誤魔化してもしょうがないか。



「あー……正解だな」



 俺は肩を竦めて、あっさり認める。いや~、だってこんなピタリ賞されたら答えないわけにいかんでしょ。


「ほ、本当に!? 本当にそうなのですね!!」


 チルサムはパッと顔を輝かせる。


「チルサム、お前凄いな。なんでわかったんだ?」


 ピタリ当てられたことにあまりにも驚いた俺は、ついフランクに聞いてしまう。


「え? あ、ありがとうございます」


 俺に急に褒められて照れたのか、チルサムの顔が少し赤くなる。そして少し俯きながら自分がなぜその考えに至ったのか説明を始めた。


「あの……父が長年アダマント王国の研究をしておりまして、滅亡とともに行方知れずになったアダマント王国の伝説の黒い魔石の名前がそもそも『アダマント』だったと言っていたのを思い出しました。それに我が家にやってくる魔石商達の話で、魔物達は元々魔石だったものが何らかのきっかけで魔物に姿を変えたものだと聞いておりました。この二つの事から、魔石の王である魔王様もきっと元は魔石だったのであろうと、そして更に魔王様のお名前を聞いた時にこれは、と確信いたしました」



「……ほほぅ。トルティッサがアダマント王国の研究をしているとな?」


 俺は最初の質問から全然関係ない部分に食いついた――。










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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。読んでいて楽しいです。とくに、神が人間わあやっているけれどもアダマンとたちがどうするのかが気になります。すごいワクワクしてきます。 [一言] なんか、人間と戦争することになった…
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