104話 俺の怒りは大地の怒りじゃ……的な
「死ね!!! ジェム!!!」
――そう叫んだところまでは覚えているんだよね。
いやね、ジェムが予想以上に強かったんだ。中々勝負をつけられずに、ついカッとなってやってしまった。今は反省している。
怒りで我を忘れるって、こういう感じだよね。うんうん、王蟲の気持ちが今ならよく分かるなぁ……。
「アダマント様……聞いてますか?」
「は、はい」
「もし、私が間に合わなかったらどうするおつもりだったのですか?」
「それは、その」
「あの規模のマグマを噴出させたら、我々の居住区までもマグマが流れ込みますよね?」
「まあ、そう……だな」
ジェムとの戦いは終わった。そして崩れた洞窟の一角で俺はルビーに怒られていた。
俺がマグマを呼び出したあの時、洞窟の異変を感じて駆け付けたルビーが、間一髪でサファイア達をサラマの結界で守り、更に溢れ出ようとするマグマを止めてくれたのだ。
ちなみに俺はその時の記憶が全く無い。ただ、なんだか凄く楽しかったような気持ちだけが残っていた。
「冗談でしょ? 全員死ぬところだよ!? 火の属性のルビーじゃなかったらあのマグマは防げなかったかもしれないってのに」
「正直スマンかった……」
サファイアのもっともな非難にも謝るしかできん。
「ねーねー!! アダマント様の魔法、すごいね!! ドガーン!ってなって、ボガーン!だったもんね!! 私もやってみたい~!」
エメラルドが興奮して話している。こういう時にはコイツのアホっぽさに感謝したい気持ちになるなぁ。
「それでさ、このジェムってヤツどうするの?」
トパーズが、倒れているジェムを見て口を開いた。
ジェムは俺のマグマの直撃を受けて、意識を失っていた。全身にダメージを負っているから、意識を取り戻したとしてもしばらくは動けんだろう。逆によく石に戻らなかったもんだ。
「彼については尋問が必要でしょう。拘束して居住区の独房に隔離いたします」
ルビーが厳しい顔で答える。
「ああ、そうだな」
俺も同意する。何にしてもジェムからは『神』の情報を引き出さなくては。
「で、この人間はどうして連れてきたの?」
今度はサファイアがトパーズの方向に視線を送る。
「は? 人間?」
俺がサファイアの目線につられて、その方向に目を向けると、そこには居るはずの無い人物が居た。
「チルサムだよぉ!」
エメラルドの声が洞窟に反響する。……いや、そんなドヤ顔で言わなくても知ってるし。
「チルサム? な……なんでココに?」
「アダマントが連れて来たんじゃないの?」
絶句する俺を見て、サファイアが怪訝そうな顔で口を開く。
「……俺が連れてきたんだ」
トパーズが低い声で答えた。
マジで!? 全然気が付かなかった……。
「ト、トパーズ。お前、なに勝手なことを……」
俺の言葉を遮ってトパーズが少しだけ語気を荒げる。
「もっと人間と話してみたいと思ったんだ。チルサムはいい奴だ。アダマントは人間と関わるなと言うけど……。俺は納得できないことには従えない」
トパーズの言葉を聞いて、チルサムも震えながら前に出て口を開く。
「わ、私が、連れて行ってくれとトパーズに頼んだのだ! トパーズだけが悪い訳ではないのだ、魔王よ!」
「ちょっとまて!! 誰が、魔王だ!!」
俺は思わずチルサムにつっこむ。
「違うのか? あ、魔石の王だったか?」
チルサムが慌ててエメラルドに確認する。
「うーん。どっちでもいいよ! アダマント様は魔石の皆の王様だもん。魔王でもOKだよ。大体合ってるし?」
いや、そもそも王じゃないっつーの……。
もはやムキになって訂正するのもアホらしくなった俺は、溜息をつく。
「……はぁ。まあ、連れてきちまったもんは仕方ねー。洞窟も崩れちまったから、すぐに帰すことも出来んし……」
俺の呟きを聞いて、ルビーが小声で尋ねてくる。
「アダマント様。この人間の顔に見覚えがあるのですが、もしや……」
「あー。そうだな。多分、トルティッサの息子だよ、こいつ」
俺は苦笑いをしつつ、ルビーも思っているであろう答えを小声で返す。その時少し離れたところに居たエメラルドが大きな声で言った。
「アダマント様! トルティッサってだーれ?」
小声で話していたつもりだったのに……。エメラルドは地獄耳なのか!? しかもワザワザでけー声で! もうワザとやってるとしか思えない嫌がらせ。
当然チルサムが反応し、驚いた様に俺を見て叫ぶ。
「ま、魔王は父上を知っているのか!?」
「あー、まー、知ってるような、知らないような」
歯切れの悪い返事を返しつつ、内心焦る。俺が学院に居たことを知られたら、マジでこいつを人間の世界に帰してやれなくなるかもしれん……。
その時、ルビーが大きな声で話題を遮った。
「とにかく。まずは居住区へ戻りましょう。洞窟を出てから何があったのか、なぜジェムと戦っていたのか、この後どうするのか、お話していただくことが山の様にあります!」
やや怒ったようなルビーの声に俺達はただただ大人しく頷いた――。




