表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/176

98話 風の精霊は盗聴器としても使えるスグレモノ


「さてと。そろそろ俺も行くか」


 馬車が領事館に戻ってから、ずいぶん時間が経った。日はすっかり西に傾き、辺りは夕闇に包まれ始めていた。


 俺は周囲に人が居ないのを確認すると、隠れていた木の枝から飛び降りる。暗くなった方が領事館に侵入するのに都合がいいので、日が沈むのを待っていたのだ。


 人目につかないよう、馬車が走っていた道は使わず草原を真っ直ぐに突っ切って領事館へ向かう。


 客が来ているからだろうか。領事館はほとんどの窓に煌々と明かりを灯しており、暗闇にその威容を浮かび上がらせていた。


 「ったく、無駄にデカい建物だな。あいつらを探すのが大変じゃねーか」


 独り言ちながら、領事館の壁に沿って各窓から中を伺いつつ移動をする。すると何度目かに覗き込んだ部屋でさっそく先ほどのヤベー少女騎士の姿を見つけ、思わず息を潜める。


 少女は隙無く周囲を警戒している。この様子から見ても、やはりかなりの手練れの様だ。ちょっとした気配でも気付かれてしまう気がする。戦うことになっても面倒だし、出来る限り見つかりたくない。


 俺は石……俺は石……俺は庭に転がってるただの石……。石に戻った気持ちで気配を消しつつ、中の様子を探るため盗聴用のシフを窓の隙間から侵入させる。


「――という訳で、あの森で保護した子供たちは自分達を魔石だと主張しているのです」


 一生懸命気配を消していた俺だったが、中から不意に聞こえてきた言葉に思わずズッコケそうになった。この声は副領事とか言ってたオッサンか?


「そして、ヤジリカヤ山脈の向こう側には同じように魔石の仲間……つまり魔物達がたくさん住んでおり、更にその魔物達を治める一際強い魔物が居るとも話しておりまして……」


 !?!?!?


 アホか!! アホの子なのか!? あの二人は!!! いや、バカなのか!? 完全に、喋っちゃいけないこと人間にペラペラしゃべっちゃってるよね!? ってか、やっぱり領事館のどこかに居るってことか。


「しかし、そんなに多くの強力な魔物がいるなどとても信じられず……。教皇猊下のご判断を仰ぎたいと……」


 ……教皇ってことはなんかの宗教の偉い人なのか? あの馬車に乗ってた女の人だよな。


そして副領事の言葉に、その女教皇が硬い声音で呟いた。


「ふむ、なるほど。……やはり、シャルマーニの見た夢の啓示と一致していますね。ヤジリカヤ山脈の先に我々を害する魔物達が住んでいること、そしてその最奥に魔物達の王が居ると……」


「はい」


 教皇の言葉をシャルマーニという少女ははっきりと肯定した。


 うぉう。夢の啓示って……絶対またあの『神』のヤローが裏で糸を引いているヨカンしかしない件。


「それで……肝心の総領事はまだいらっしゃらないのかしら?」


 猊下と呼ばれた女が不意に副領事に尋ねた。


「それが……あの二人の子供が総領事にしか懐いておらず……総領事はさらなる情報を取得しているところでして……」


 副領事が恐縮したように、歯切れ悪く答える。


「わざわざ猊下にお出で頂いたにも関わらず、挨拶にも来ないとは無礼千万! バンドルベル家の長男と言っても、程度が知れますわね」


 少女騎士がとげとげしい口調で副領事に突っかかる声が聞こえる。


 ――ん? おい、ちょっとまてよ。バンドルベルっつった? 今? 


 その瞬間、俺の脳裏をヤツが横切る。ああ、そう言えばヤジリカヤ山周辺はトルティッサんちの領地だったっけ……。束の間、学園に居た頃の懐かしい思い出が蘇ってきた。


「おやめなさい、シャルマーニ」


 教皇猊下が少女騎士を厳しい声で窘める声がして、ハッと現実に戻る。うぉっと、感傷に浸ってる場合じゃなかった。


 今の話の流れからすると、総領事ってのはトルティッサってことか? 


「……しかし、猊下!」


 少女騎士ことシャルマーニはなおも不満そうな声を上げるが、教皇は彼女を制止して言葉を続ける。


「いいのよ、シャルマーニ。さて、副領事殿。チルサム総領事がいらっしゃらないのであれば、取り急ぎ貴方とお話をしたいのですが」


 おお、また新情報。総領事の名前はチルサムってのか。トルティッサでは無い、か。――俺は更に室内の会話に耳を澄ます。


「まずは総領事が直接教団に連絡したのは英断であった、とお伝えしましょう。御当主のトルティッサ殿は教団とは一線を引いていらっしゃいますからね。……今回の件を受けて、教団は今後チルサム総領事を後押しすることを約束いたしましょう」


「は。ありがたいお言葉です」


 女教皇の言葉を受けて、副領事のオッサンが神妙に答える。


 ――ふむ。トルティッサが今のバンドルベル家の当主なのか。まあ、冷静に考えてみればあれから17~18年経ってるしな。トルティッサも30は越えているはずだし、家を継いでてもおかしくはないか。


 んで、チルサム総領事って奴が、トルティッサの長男ってこと? そして父親に報告しないで、教団?ってヤツにエメラルドとトパーズのことを報告したってことか? つまりトルティッサとの親子仲は良くないって感じか……。


 うーん。トルティッサが親父だなんて想像つかないが、話の流れからするに多分そうだよな。


 俺がそんなことを考えていると『バン!』と扉を勢いよく開く、大きな音とともに気取ったような少年の声が部屋に入ってきた。


「やあ! 待たせて申し訳ない、教皇殿! 私がチルサムだ!」



「……な、なんて無礼な……」



 同時にシャルマーニの氷の様な呟きをシフが拾う。その瞬間、それまで周囲を警戒していた少女騎士の意識がチルサムという人物に向かったのを感じて、俺は素早く部屋を覗き込む。




 ――あー。うん。トルティッサの息子に間違いないわ。コイツ。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ