表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/176

96話 一難去ってまた一難、もしくは踏んだり蹴ったり


「あー、くそ。あのオッサン次に会ったらただじゃおかねー」


 俺はブツクサ言いながら、スリでも近づいてきたらぶっ殺してやるくらいの勢いで目つき悪く街中を闊歩した。


 幸い、柄の悪い連中が多く歩いているお陰で、俺の負のオーラもあまり目立っていないようだったが……って、マジでこの町、柄悪いな。


 見回せば、町のあちこちの店で昼間っから酒を飲んでる冒険者風の奴らがたむろして、大声で何やら話しては、下品な笑い声をあげていた。こいつらが魔石ハンターって奴らか?


「ほら見ろよ! さっき俺が倒した魔物から出てきた魔石だ!! これなら10,000ルリはいくだろうな」


「おお! 本当だ!! かなり良い魔石だな!? どの辺りで仕留めたんだ?」


「そいつは教えられんな。ただし情報料を払うのなら考えてやってもいいが」


 酒場にたむろする男たちの話が不意に聞こえてくる。まさかと思い、男の持つ魔石に視線を走らす。


 ――エメラルドでもトパーズでもない。


 男が持っていたのは、茶色っぽい魔石だった。魔石がやられたのは癪だが、少し胸を撫で下ろす。


「あ? 何見てんだよ?」


 俺が魔石を見つめているのを目敏く見つけた男が、俺を睨みつけてくる。


「いや……別に」


 めんどくせーな、と思いながら俺はフードを深く被り直し、男の魔石から視線を外して短く答えた。


「おいおい、なんだよ。その態度はよぉ。人を不快にさせたんだから謝ってから行けよ、なぁ? あんちゃん?」


 魔石の自慢をしていた男が立ち上がり、ニヤニヤしながら俺の前に歩いてくる。強烈な酒の匂いが漂ってくるところからして、ずいぶんと酔っぱらっているようだ。


 ぼったくりの次は酔っ払いに絡まれる……か。マジで泣きたい。なんだよここ。歌舞〇町かよ。ああ、そんなこと言ったら歌舞〇町に悪いか。最近は眠らない街も随分クリーンになったって聞いたような聞いていないような……。


 なんて考えている間に、酒臭い男は俺の前に立ちはだかった。


「さ、謝ってもらおうか。この俺様の気分を害したんだからな」


 その後ろには一緒に酒を飲んでいた男たち数人もやってきてヘラヘラ笑っている。


 俺は男達を無視して、さっさとすぐ横にあった路地に走り込んだ。


「おい! テメー! 逃げる気か!?」


 当然のように男たちは、俺を追いかけて路地に入り込んでくる。少し走ると、路地は行き止まりになっていた。


「へへ、残念だったなぁ。もう逃げ道は無いぜ。さぁ、素直に謝るか、ボコボコになるか、どっちがいいんだ?」


 追いついてきた男が嬉しそうに俺の前にナイフをちらつかせ、後ろから他の男たちも追いついてきた。


「どっちもお断りだ」


 俺はそう答えて大きくジャンプをし、男たちの背後に着地した。一転して、男たちが路地に追い詰められる形になり、男たちに動揺が走る。


「ふ、ふざけた真似しやがって!」


 激昂した男たちが一気に掛かってくるのを見て、久しぶりに破壊衝動が湧きたった……。




 ――5分後。俺はボコボコにした男たちを正座させ、ぼったくり被害にあったことを愚痴りまくっていた。


「っつー訳でさ。かなり今イライラしてるんだよ。町の入り口でボッタクリに遭うわ、街に入ればすぐに酔っ払いに絡まれるわ、探しモンは見つからねーわ……」


「そ、それは災難でしたね。アニキ! ああー、ちょうどいい感じにココに上質の魔石があるんで、これを詫び賃代わりに貰っていただけねーでしょうか?」


 男がさっきの茶色い魔石を取り出して俺の前に差し出す。


「え? いいの?」


「ええー! もちろんですとも。せっかくアニキにこの町に来ていただいたのに、嫌な思いをしたままお帰り頂くのは忍びないですから!」


「そう? じゃあ、有難くもらっておくわ」


 俺がニコニコと魔石を受け取ったので、男たちはあからさまにホッとした表情になる。


「ところでさ……」


「は、はい!!」


 俺がまた言葉を掛けると、男たちはピシッと背筋を伸ばして返事をする。


「人探しをしてるんだけど、どこを探せばいい?」


「ひ、人探しですか? えーっと、どんなお方をお探しですか?」


「こども2人だ。迷子になったんだ」


「こどもっすか……。この町にはあまりこどもなんて居ねえから、迷子なんて居たらすぐに騒ぎになると思いますがねぇ……。なんか知ってるか? お前達?」


「い、いえ。特には……」


「あ、もしかして、領事館に保護されているとかじゃないですかね?」


「ああ、それはあるかもな」


「領事館?」


 男たちの言葉を切って、質問をする。


「へ、へい。この辺りを治める領主の代理が派遣されてきている役所でして、この町の管理をしているんです」


「へぇ」


 なんだ、そんなお役所があったのか。確かにそこなら迷子の保護とかもしてくれるのかもな。俺は思いも寄らず有益な情報を聞けたので、気分も良くなりさっそく領事館に向かうことにした。


「わかった。じゃあ、その領事館に行ってみるわ」


 俺は男達をそのまま放置し、颯爽と路地から出て行った。その為、最後の男たちの言葉を聞き逃してしまったのだった。


「ア、アニキ! けど、直接行っても領事館には入れてもらえませんぜ!!」












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ