94話 トンネルを抜けるとそこは
「すぐに二人を連れ戻す!! 行くぞ、ルビー」
俺がソファーから立ち上がると、ルビーも慌てて立ち上がった。
「は、はい! ご案内いたします!」
俺達は地上にある政務室から、急いで地下宮殿に下りていく。
「アダマント様!? ルビー様!? 一体どうされたのですか?」
地下宮殿の出入り口を守る衛兵の魔石が、俺とルビーの勢いを見て驚いた様に声を掛けてきた。
――おっと、まずい。今はまだ騒ぎを大きくしたくないな。
「ああ、騒がせてしまってすまないな。少し急いでいただけだ。気にせず警備を続けてくれ」
俺はその魔石の肩にポンと手を置いて言葉を掛けた。
「は、はい!」
その魔石の衛兵は感激したように目をキラキラさせて、大きな返事をした。俺はその返事に頷き返して、できるだけ落ち着いた様子でその場を立ち去った。
宮殿を出るとそこは大きい広場になっており、S級魔石の中でも比較的魔力の高い者達が戦闘訓練を行っていた。
「ルビー将軍!」
訓練の指揮をしていた隊長らしき筋肉隆々でゴツくて体のデカい渋いおっさんが、俺達の、いやルビーの姿を見て走り寄ってくる。
「なにか訓練に不備がありましたでしょうか? !? ……ア、アダマント様!!」
駆け寄ってきた魔石はルビーの後ろに立っていた俺の姿に気付いて、慌てて敬礼をする。
ルビーはゴツ渋隊長に言葉を掛ける。
「いや、不備はない。これからアダマント様と居住区の視察に向かう。気にせず訓練を続けろ」
「はっ」
ゴツ渋隊長はそのまま俺達が立ち去るまで敬礼をしていた。
しばらく居住区を東進し人気の無い外れの方まで来た時に、ふいに壁面に不自然に穿たれた横穴が現れた。子供が通れるくらいのサイズだ。
「ここが例の道です」
「ち、父上!! ルビー殿!!」
横穴から小さなドラコーヌ姿のキューちゃんがパタパタと飛んできた。
「キューチャン様には他の魔石達が道に入りこまぬよう見張っていただいておりました。異常はございませんでしたか?」
「ええ。今の所誰も通ってはおりません」
キューちゃんの返事を聞いて俺は頷き、確認する。
「この道は一本道なんだよな?」
「はい。サファイア殿と人間側の出口まで行ってみましたが、特に分岐するような場所はありませんでした」
キューちゃんの答えを聞いて俺はもう一度頷き、二人に今後の指示を出す。
「よし、じゃあキューちゃんは引き続きここで他の魔石がこの道に入らない様に見張っていてくれ。ルビーは宮殿に戻り、いつも通りにしていてくれ。もし俺が戻るのに時間がかかったときはその間の政務を頼む」
「は。承知いたしました」
「はい! 父上」
そして俺はその場で二人と別れて、小さな横穴に身を屈めて入り込んだ。……ずっと中腰で進まないといけないので、中々早く進めない。
途中までエッチラオッチラ進んでからふと気が付く。あれ? 穴のサイズを広げればいいんじゃね?
俺は土の精霊を呼び出した。あっという間に俺の前方に広がる横穴が削り取られるように拡張されていく。拡張された分の土砂がどこに消えたのかちょっぴり気になるが、まあいいや。
横穴が広がり、俺の身長でも全然余裕で頭がぶつからないサイズになったので、俺は歩を早める。一刻も早くあの二人を連れ戻さなくては……。トラブルを起こす前に。
しばらく歩くと、前方に光りが見えてきた。どうやら出口についたらしい。
「サファイア!」
出口付近に見慣れた人影を発見し呼び掛けると、サファイアが振り返った。
「ここが出口だな?」
俺の質問にサファイアが頷き、顎をしゃくって出口付近のぬかるみを示して俺に説明する。
「そこに二人の足跡があるんだ。人間の町の方へ進んで行った足跡が途中まで残っている。途中から足跡は消えてしまっているが、戻ってきた足跡は無いから、そのまま町へ行ったんだと思う」
「はー。ま、想像通りだ。仕方ねー。俺は町に行ってあいつらを探してくる。……サファイアは引き続きここを見張っていてくれ。もし三日経っても俺が戻ってこなかったら、この穴を塞いで地下宮殿に戻っていてくれ」
俺がそう伝えるとサファイアは頷いて答えた。
「了解。三日経ったら容赦なくこの横穴埋めちゃうからね。遅れないで帰ってきなよ」
「ま、そのつもりだがな。アイツら連れて徒歩でヤジリカヤ越えはさすがに面倒くせーし」
サファイアは俺の答えを聞いて、ふっと軽く笑う。
「僕としてはそっちの方がしばらくあの二人のお守りを離れられてありがたいけどね」
「勘弁してくれ……」
俺は洞窟から外へ出た。太陽が高い位置で輝いている。爽やかな風が俺の髪をなびかせた。こちら側に来たのは本当に久しぶりだ。空気の匂いまでもが懐かしい気がした。
「ここの出口は魔法で水の膜を張って人間に見つからない様にカモフラージュしておくよ」
サファイアが俺を見ながらそう言った。
「おう、頼んだぞ」
サファイアに片手を上げて答えると、さっそく俺は人間の町へ向かって出発したのだった。




