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91話 人化の儀

 

「私、サファイアを呼んでくる!!」


 俺の言葉を聞くと、エメラルドははりきってそう言い放ち政務室を弾丸のように飛び出していった。


「……申し訳ございません、アダマント様。エメラルドの不作法は、わたくしの教育の不備でございます」


 ルビーが痛恨の極みのような顔をして、俺に頭を下げる。


「いや、まぁ。教育係はサファイアだろ? ルビーが謝る必要は……」


「いえ、サファイアがエメラルドの教育を放棄してからは、わたくしが預からせて頂いておりますゆえ」


「……あ、そう」


 サファイアのヤロウ。いつのまに職務放棄しやがったのか……。


 この地に来てから、俺はそれぞれに仕事を割り振っていた。


 ルビーは魔石達の戦闘訓練、キューちゃんは新しい魔石の探索、サファイアは人化したばかりの魔石への教育、ヴァナルカンドは警備、と言った具合に。


 ちなみにエメラルドはあんな感じなので、一応、皆の手伝い係としているが全然役に立っていない。とはいえ、エメラルドは困ったことに魔法力だけは非常に高く、下手するとルビーをも超える力を保持しているかもしれないので、放置する訳にもいかない。


 まあ、サファイアがさじを投げるのも分からなくも無いとは言えるが……。


「連れてきたよー!!」


 バターンとまた乱暴に扉を開けて、エメラルドが飛び込んできた。強引に連れてこられたのであろうサファイアは憮然とした顔で、エメラルドに掴まれた手首を振りほどいた。


「なんなの、一体?」


 相変わらずの仏頂面で俺とエメラルドを睨む。なんで俺まで睨むわけ!?


「これから人化の儀を行います。あなたも立ち会いなさい、サファイア」


 ルビーにそう言われて、サファイアはハァと溜息をつきつつ答える。


「分かったよ。けど、またコイツみたいなのが出てくるんなら、教育係なんて勘弁してよね」


 エメラルドは自分のことを言われているとも思わず、ニコニコしながらサファイアを見上げている。


「サファイア。小さい子には優しくしないとダメだよ!」


 キューちゃんがパタパタとサファイアの近くまで飛んで注意する。


「小さい子? よく言うよ。こいつ、絶対俺よりも年上でしょ?」


 フン、と鼻で笑いながら、サファイアが言う。


 そう、魔石の年齢は見た目では分からないのだ。はっきりとは分からないが、恐らく魔力量が年齢の指標になっていそうだと、以前サファイアは魔石が発掘された地層と魔力量の相関関係を研究していたことがあった。


「さあ、アダマント様。参りましょう。地下宮殿の準備は整っております」


 キューちゃんとサファイアの会話をぶった切って、ルビーが俺を誘導した。魔石を人間の姿に変える『人化の儀』は、地下に作った宮殿で実施することにしていた。


 どうやら俺達の力は地下に居る時の方が強くなるらしく、人化の儀も地下で行った方が成功率は高かった。S級魔石でも魔力量によって人化するのに難易度があるのだ。魔力量が低い魔石は人化するのにも時間がかかった。


 ルビーやサファイア、エメラルドがあっさり人化できたのは、単に魔力量が高かったからだと言える。


 また、一度も地上に出たことの無い魔石だと、地上で人化させるとパニックに陥るものが一定数居たことも地下で人化を行うようになった理由だ。


 俺達の様に地上の生活に順応できている魔石の方がむしろ少ないくらいだった。まあ、地中で生まれたんだから当たり前といえば当たり前のことかもしれないが。


 そんな訳で、俺達の生活場所は仲間が増えるにつれて、段々と地下スペースが広くなっている現状だ。土の魔法で地下空間を作るのは簡単なので、今や地下宮殿を中心に魔石達の生活スペースが網の目状に広がり、いつの間にやら複雑なダンジョンの様なものが出来上がっていた。



「じゃ、始めるぞー」


 地下宮殿に入り、キューちゃんが新しく見つけてきた魔石を前に俺は言った。


 S級魔石は人化できる、とさっき言ったが、それでも自力で人化できた者は俺と、恐らくジェム以外は今の所いない。


 きっかけを与えられなければ如何に大きな魔力を持っていても人化は出来ないようだった。そしてその『きっかけを与えられる者』『魔石を人化させられる者』は俺だけだった。


 俺は透明な黄色の魔石にそっと手を乗せる。なるほど、こいつはかなりの魔力量を持っているようだ。俺は心の中で黄色の魔石に話し掛けた。


 『お前を今から俺達と同じような姿に変えようと思うが、いいか?』


 サファイアの一件以来、俺はどの魔石にも人化に際しては、一応意思確認をしていた。石だけに……うぉ、この言い回し久しぶり!!


 もちろん意思確認をしたところで、ほとんどの魔石は『動けるようになる』ということについて考えたことも無いので、大抵『よく分からんけどそう言うなら人化してみるわ』というスタンスが多かった。そう言った意味では前向きの性格の魔石が多いのかもしれない。


 『へぇ。俺もお前達みたいに自由に動けるようになるのか? だったらすぐに変えてくれよ。ずっと退屈してたんだ』


 黄色の魔石は超前向きだった。これならすぐに人化の儀を行っても問題なさそうだ。そう思いつつ、俺は念のためにもう一つ質問をする。


 『お前はこれまで人間という俺達の様な姿をした生物に会ったことがあるか?』


 これまで人間に出会ったことのある魔石は人化した時にその出会った人間の姿をトレースする。俺とかルビーみたいに。


 逆に人間に一度も会ったことの無い魔石は、たぶん俺がその石のイメージから連想する、いや、連想してしまった姿になるようだった。


 例えば、乳白色の魔石を人化させたときは、色白で巨乳のお姉さんが出てきたし、ゴツゴツした見た目の大きな魔石からは筋肉隆々でゴツくて体のデカい渋いおっさんが出てきた。


 ――乳白色の魔石の時は、ルビーの冷ややかな目が怖かったです。ハイ。


 だからある時から必ずこの質問はすることにしていた。


 まあ、人間に会ってないことが分かったからと言って俺のイメージする姿は変わらないから、結局魔石の姿を意図的に変えるなんてことはできないのだが、まあ心の準備をしたいという訳で。


『人間? 無いな。動くものに出会ったのもお前たちが初めてだし』


『そっか』


 コイツの姿は確定してしまった。今、俺の脳裏に浮かんでいるのは、黄色い短髪の元気な少年の姿だった。


 俺はそのまま黄色い魔石に人化のイメージを注ぎ込む。魔力量が大きいだけあってすぐに魔石はぐにゃりと姿を変化させ始めた。


 宮殿の大広間が眩い光に包まれる――。


 そして光がスゥっと弱まると、果たしてそこには黄色の短髪をなびかせた少年が、好奇心に溢れた目をキラキラさせて、周囲を見回していた。全裸で。


 うーん。イメージ通りだったわ……。








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