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90話 魔石達の生活


「アダマント様。キュ-チャン様がS級魔石を発見されたということで、先ほど戻られました」


 ルビーが俺の政務室へ報告に来た。


「そうか。今回は結構時間がかかったな……。これで108個目か?」


 俺は読んでいた書類から目を上げて、ルビーの報告に返事をする。


「はい。……さっそく人化の儀を行いますか?」


 ルビーの提案に俺は頷く。


「そうだな。丁度報告書も読み終えたところだ。すぐに執り行おう」




 ――帝国学院で『神』と戦ってから、十数年の時が流れていた。


 あれから、俺達はヤジリカヤ山を越えて帝国を脱出し、人間の居ない土地で新しい生活を始めていた。


 人間がヤジリカヤ山を越えてこちら側へ来ることはこれまでに一度もなく、ここ十数年の間、俺達は穏やかな生活を送り続けていた。


 もちろん穏やかな生活を送りつつも、今後も人間が来ない保証はどこにも無いので、俺達は少しづつ魔石を集めて仲間を増やしていた。


 これまでの経験でやはり完全な人型になれるのはS級魔石だけだということが明らかになっていた。そしてA級はその魔石が有する魔力量によってさまざまな姿になる、ということも。


 A級でも比較的高い魔力を持つものは人型に近い姿になる傾向があったので、人型になるのは魔力量が関係していると俺は考えていた。


「キューちゃんが今回見つけたS級はどういう魔石だ?」


「黄色の魔石だと聞いております。魔力量もエメラルドに匹敵するほどだと聞いております」


「へぇ。それは楽しみだ――」


 俺達の会話の最中に突然俺の政務室の扉がバタンと乱暴に開かれた。


「アダマント様ぁ! また人間が魔石を攻撃してたよぉ!! 可哀想にあの魔石達、石に戻っちゃってたよぉ。絶対に許せない!! やっぱり私が直々に人間の町を攻めてきてもいい!?」


 叫びながら入ってきたのは、緑色の髪の毛をツーサイドアップにした少女だった。


「エメラルド!! アダマント様の政務室に入室する際は必ずノックをしなさいとあれほど……!!」


 ルビーが飛び込んできた少女を叱りつける。しかし、少女は最後までルビーの言葉を聞かずに言い返す。


「だって、緊急事態なんだってばぁ!! ねぇ!? アダマント様!! ヤジリカヤ山の麓に出来たあの新しい町の奴らだよ!! 何もしてないのにあの近くに住んでた魔石達に攻撃するなんて!! 酷くない?? 私、あの子たちの仇を討って来るからぁ!!」


 俺はため息をついて、緑の髪の少女―エメラルド―に返事をする。


「……駄目だ。人間には近づくな」


「ええー!! やられっぱなし? アダマント様は悔しくないのぉ!?」


 エメラルドは地団駄を踏んだ。見た目は可憐な少女なのに、行動はまるで幼稚園児だ……。俺はまた溜息をついた。


 やっぱこいつ、あのまま『神』にくれてやれば良かったかな……、なんて遠い目をしながら考える。


 ――そう、こいつはあの日『神』から奪い取った『樹海の夢』が人化した姿だった。


 俺達はこの地へやってきて、すぐに『樹海の夢』を人化させた。すると御覧の通りのおガキ様の姿で登場したのだ。いや、幼女先輩というべきか。


 「ねぇ! 悔しくないの!?」


 ――うーむ。しつこいな。


「それよりもお前。また、帝国側に下りたのか? 人間の土地に近づいてはいけないと言ったはずだがな」


 俺が静かにそう言ってエメラルドを覗き込むと、エメラルドは少しビクッとして身を縮めた。


「えっと……それは、その……」


 俺が少し怒っているのを敏感に察知したエメラルドは、それまでの勢いはどこへやら、急にキョロキョロしながら言葉を濁す。


「エメラルド……」


 俺がエメラルドを叱ろうとしたとき、また突然扉が開いた。


「ち、父上!! 申し訳ございません!! エメラルドを人間に近づけてしまったのは私のせいなのです!!」


 キューちゃんが小さなドラコーヌの姿で飛び込んできた。


「キューちゃん……。どういうことだ?」


 俺はエメラルドから視線を外し、飛び込んできたキューちゃんに問う。


「そ、その。魔石を見つけた帰りにうっかりヤジリカヤ山を通り過ぎてしまいまして……。慌てて戻ろうとしたら、人間に襲われている魔石を見つけてしまって」


「は?」


 うっかりヤジリカヤ山を通り過ぎる? んなことあるか!!!  ――と思わずキューちゃんに突っ込みそうになったが、グッと我慢する。


 あからさまな嘘をついてまでキューちゃんがエメラルドの事を庇っているのを見ていたらなんだか怒る気も失せた。


「……ま、今回は大目に見るが、今後は絶対に近づいちゃ駄目だぞ」


「はい。申し訳ございません」「はぁい」


 俺がそう言うと、二人とも神妙な顔で返事をした。


「よし!」


 俺は二人がちゃんと反省している様子を見て頷くと、雰囲気を変えるように明るく続けた。


「さてと。それじゃあ、さっそく人化の儀を行おう」











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