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10話 石による人間観察

 

 ――村だ! 村! 人間の村だ!! ひゃっほーい!!


 俺が運び込まれた先は、小さな村だった。 


 若者達が村に帰った途端、大勢の村人が二人を取り囲み、口々に何かを言っている。


 俺は久しぶりに見た大勢の人間の姿に感動を覚える。この世界にもこんなに人間が居たんだ! 


 俺が周りの人間の様子をつぶさに観察している間に、人間達も俺のことを触ったり、覗き込んだりしてくる。


 しばらくして、急に人の囲みが割れた。その隙間から歩を進めてきたのは、よぼよぼの爺さんだった。


 俺を運んできた若者二人が急に姿勢を正して、爺さんに何かを話している。俺のことを説明しているのかな? この爺さんは恐らく村長とか長老とか、そんな感じなんだろう。


 爺さんは若者たちの話を頷きながら聞いていたが、一通り若者たちの話が終わった後、俺をしばらく観察し、なにやらおもむろに若者達へ言葉を掛けるとまた元来た方向へ戻っていった。


 若者たちは爺さんが去った後、俺を持ち上げてある建物の中へ運び込んだ。


 他の若者がその建物の中にテーブルの様な台や布、木の枝を持ち込み、広い部屋の中央に祭壇の様なものを作る。


 ほうほう。もしかして……。


 祭壇が出来上がると、その中央の布のようなものの上に俺は設置された。おお、思った通りだ。どうやら俺はここにお祀りされるらしい。


 よっしゃー。これでしばらくは人間達の観察で暇を潰せそうだ! 俺は嬉しくなって、つい興奮してしまい少し光を発した。


 すると、部屋に居た若者たちが “ザワッ……” としたかと思うと、俺に向かって慌てて平伏する。


 おお、なんだコレ。拝まれてんのか?


 なんか、変なカンジだ。……みんなのことを観察していたいから、普通にしてて欲しいんだけどなぁ。


 一々驚かれたり拝まれたりするのも面倒だから、これからはあんまり光らないようにしよっかな……。


 俺はそんなことを考えながら、引き続き人間観察に勤しむのだった。



 ・・・


 ・・・


 ・・・



 俺が村に運び込まれてから、結構経った。


 俺のいる場所は村の集会所みたいな感じの場所らしく、よく色々な会合が開かれていた。俺はそこで開催される会合の様子を見ながら、なんとかこの人たちの話す言葉を理解しようと頑張っていた。


 ラッキーなことに、日によっては子供たちの学校みたいな使われ方をするときもあり、その時に俺も一緒に授業を聞いて少しづつ言葉を習得していった。


 まだまだ完全に彼らの言語を理解するまでには至ってないが、いくつかの単語と彼らの動きを観察することで、なんとなーくの村の様子は分かってきた。


 最初に俺を見つけた若者二人については特に入念に観察をしたので、詳しく分かってきた。


 体格の良い青年はデュオルと言う名前で、村の有力者の息子らしい。それに加えて腕っぷしの強さや、頼りがいのある性格も相まって、若者達の中でも何となくいつもリーダー的な立ち位置にいるようだ。


 細身の青年はリムシュという名前で、デュオルと仲が良い。またリムシュは頭が良いらしく、子供たちに勉強を教えているのは大抵リムシュだったし、時には大人たちにも何やら教えていることがあった。


 二人の青年はいつも若者たちの輪の中心にいた。俺の安置されている集会場にはよく若者たちが集まって楽しそうに話をしていた。


 いいなぁ……俺はいつも羨ましくそれを眺めていた。


 時々、リムシュがあのヨボヨボの爺さん(おそらく村長的な)の許しを得て、俺の体を丹念に調べることがあった。


 緊張した面持ちでまずはなにやら祈祷みたいなのをしてから、おもむろに俺の体を触り、色々な角度からのぞき込んだりする。


 俺は、キューちゃんの時のように光で意思疎通できるようにならないだろうか? と期待して、リムシュに触られているときに光を発してみるのだが、今の所あまり芳しい結果は得られていない。


 俺が光を発すると、リムシュは嬉しそうな顔をしてデュオルに報告をするのだが、それだけだ。何かをすると俺が光るとは考えているらしいが、それが単純に自分の行動の結果起きている事象だとしか思っていない。


 俺が光ろうと思って、自らの意思で光っているとはこれっぽっちも考えていないようだ。例えば、一言でも「光ってくれ」と俺に話し掛けてくれれば、その通りに光るのに! 

 

 そのチャンスをずっと待っているのだが、リムシュが俺に触るときはいつも無言。だから気付いてもらえるように光るきっかけが無い。うああ、やきもきする!!


 やっぱ固定観念みたいなのがあるとダメなのかな。……キューちゃんは生まれて初めて会ったのが俺だったから、自然に俺を受け入れてくれたんだろうな、きっと。


 まあ、知識があり過ぎると逆に思いもしない本質にはなかなか気が付けないものなのかもしれない。


 俺は焦らずゆっくりやっていく覚悟を決めつつ、村での平穏な生活を続けたのだった。
















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