手紙(アイネクラリス)
宮廷魔法署に行ったその日の夜から、ラティアスからの贈り物がアイネクラリスの元に届けられている。
それは色とりどりの花束であったり、最近人気のお菓子だったり、その全てに直筆の手紙が添えられていた。
魔法署長官という立場上仕事が忙しく、中々思うように休暇が取れない為、会えないなら会えないなりに少しづつでもお互いを知って行こうという事らしい。
アイネクラリスにとってもラティアスの事を知りたいという思いは同じな為、返事の手紙を書いてはその日のうちに届けてもらっていた。
改めて思い返せば前世でラティアスの事をよく知っていたか訳でもなく、何度か言葉を交わし事があったくらいで、せいぜい顔見知り程度の距離感だと、今ならわかる。
祈りの乙女として世間とは隔離して過ごしていた為に、アイネクラリスだけがラティアスの事を特別だと思い込んでいたのだ。
きっとラティアスからすれば、前世のアイネクラリスなどその他大勢の中の一人に過ぎない。
もしその大勢の中で多少付加価値がつくとしたら、祈りの乙女というくらいだろう。
それでもアイネクラリスは最後の瞬間、ただ自分の為に泣いてくれたラティアスが特別になった。
好きという感情ははっきりとは理解出来ないが、会えて会話を交わして側にいるだけで、嬉しく幸せを感じられるのだから、やはり今も特別なのだ。
アイネクラリスは、そっと机の上の可愛らしい細工の施された箱を開く。
この中には、ラティアスから送られてくる手紙が大切に保管されていた。
ラティアスから送られてくる手紙には、彼の日常が記されている。
視察に出た町の事だったり、仕事仲間とのやり取りであったり、その時の思いであったり。
多少気が短いのでは?と思わなくもないが、それはラティアスなのだろうと思えば、良い意味で楽しい。
きっとこんな思いを重ねた先に、恋があるのだろう。
アイネクラリスは本日届いたラティアスの手紙をその箱の中にしまうと、そっと蓋を閉じた。