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純粋で無垢なお姫様

アイネクラリス・ド・ランディスト嬢。ランディスト公爵の愛娘にして、社会デビューする前から"月の雫"または"月の聖霊"といった神秘的な二つ名を持つお姫様は、現在ランディストのすぐそばで満面の笑みを浮かべていた。


彼女の精巧に整いすぎた容貌が、出来の良い人形めいた印象を与える為、先程までは容易には近寄り難い印象を受けていたのだが、今ラティアスの隣で機嫌良く笑顔を浮かべるアイネクラリスは愛しいくも可愛らしい天使と化している。


表情ひとつでこんなにも印象が変わるのかと驚きつつも、それが自分の言動に左右されたものであれば、悪い気はしなかった。


ただ何故、歳の離れたしかも女癖に難有りと噂される自分に興味を寄せる事になっているのかは全くもって検討もつかない。


平静を装った裏では今だ迷走中であるラティアスだったが、無邪気に笑うアイネクラリスを視界に留めれば、そんな事どうでも良いような気になってくるのだから、単純に自分も気に入ったのだと納得できた。


しかし、今の現状は良くない。


宮廷魔法署の廊下で立ち止まった際に、早々に空間を切り離すシールドをかけ、回りを遮断したまでは良かったものの、シールドを解いたタイミングが最悪としか言いようがなかった。


魔法を解いた際に放たれた金の粉は、月の聖霊と二つ名を持つ、美しくも可憐なアイネクラリスへと降り注ぎ、誰も目にした事が無かっただろう無邪気な姿を惜しげもなく披露している。


その神秘的な情景を突如目にすることとなった、者達の羨望にも似た眼差しも気分の良いものではなかったが、無邪気なアイネクラリスへと熱の籠った視線を向ける男共には、軽く殺意が芽生えた。


「ハンドレット侯爵様?」


ラティアスの機嫌の悪さを察知したのか、窺うように見上げられれば、ごまかすしかない。


純粋で無垢なアイネクラリスは、以外にも人の機敏には聡いらしいと、これまでのやり取りで感じ取れたからだ。


「ラティアスで良い。余り畏まられても疲れるしな」


そう告げれば、輝くような笑みを浮かべるアイネクラリスは、正しく可愛らしかった。


純粋で無垢で、決して自分を傷付ける者などいない世界で生きてきたのだと思わせる"月の聖霊"アイネクラリス。


そんな彼女に、ラティアスという現実は、とても優しいものにはなり得ないと分かっていて、伸ばされた掌を掴んだ傲慢な自分はこれから何をすべきかを考えるしかないのだろう。


止まる事のない思考を巡らせながらも、アイネクラリスへと掌を伸ばせば、躊躇う事なく握り返される小さな掌に、自分でも思わず笑みが漏れた。


「もう、泣かないで下さいね」


突然掛けられた言葉に、驚きのまま見つめ返せば、大丈夫と言わんばかりに頷かれる。


「私はずっと側にいますから」


鈴の音のような軽やかな声で、それでもしっかりと伝えられた言葉に、ラティアスは脱力感を感じなくもないが、悪い気も起こらなかった。


「宜しくお願いします?」


疑問系で返したのがお気にめさなかったのか、滑らかな頬が軽く膨らんでいるのが見える。


そんな表情の方が、人間らしくて好感が持てると思った事は、ラティアスの心の内にだけ留めた。

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