1-7
腹ごしらえを終えた私は受付に来ていた。
受付にはタイミングを図って出てきたっぽいディーンさんが受付に立っていた。
私に結構、構ってるけど、もしかして、結構面倒見良くて子供好き?プラス心配性なのか?
これは
ギャップだな。
「ディーンさん、資料を見せてください。」
「案内致します。こちらからお入りください。」
どうやって入るんだよ。
すると、ディーンさんは受付カウンターの横にある板を引っこ抜いた。
あぁ、そういう事。
「失礼します。」
「こちらです。」
私は淡々とするディーンさんの後ろをついて行った。なんだか、ギルド職員の方らの視線が痛いが、無視だ無視。
中に入ると案外スッキリしていた。紙の技術は質が悪いけど発達しているし、字も自分の名前くらい読めたり日常で使う数字は読めたりする人がいるからかな?ギルドの中に入ると奥に続く廊下に出た。廊下歩くと資料室と書かれた部屋で止まった。って、多分、これ普通の冒険者が入れないやつだよな?情報を教える時に使うやつじゃあないのかい?
ディーンさんは私がそんなことを考えているのもわかっているのかいないのかよくわからない顔をしてジャラジャラと鍵が沢山ついているものを取り出した。え、そんなのどこに持ってたの?ってか、音鳴ってなかったよな?
ディーンは迷わず一つの鍵を探し当て資料室のドアを開けた。開けると少し中は真っ暗で埃っぽかったこれはかなりの間誰も入ってないな。もしかして、私って体のいい片付けがかりじゃあ?
「ここです。少し埃っぽいですが、資料は沢山ありますので、明かりは窓がありますから開けると良いですね。では、これで何かあったらすぐに呼んで下さい。では、これで。」
ディーンさんは問答無用とばかりに突っ立っている私に向かって言って、さっさと立ち去った。
そして、残された私はなかなか広い資料室なので結構良い物があるかもと思いフラフラと資料室に入って行った。
資料室は暗かったが夜目が効く私は昼間の様に歩ける。それにまだ明るい暗さだ。私は窓を開けるために奥に入って行った。かなりの量があるらしく、この世界独特の劣化した紙の匂いと本に使われている革の劣化した匂いが充満していた。あと、埃の匂い。窓は何年も開いていない様な感じのする奴だけど、まぁ、大丈夫だろう。私は近くにあった埃の被った案外丈夫そうな脚立を使い窓を開けた。
全ての窓を開けるとどれだけこの部屋が使われていなかったかわかる。広さはかなりあり、隣までの扉が遠かったのも頷ける
広さだ。高校の図書室くらい広さがあり、そこに沢山本棚があるような感じだ。しかし、この埃っぽい中読むのは私は気が引けるので掃除道具を借りるために入り口に向かって歩いた。
********
資料室の入り口のところには偶然、掃除道具があった。確信犯だな、こりゃ。
桶には水が張っており、お願いする気満々だという事がわかる。というか、強制だ。
まぁ、いっか。掃除は嫌いじゃないし、私がこの部屋を好きにしても良いと受け取ろう。情報も色々得られそうだしな。
気合を入れなおすと、ローブとリュックを入り口に置き、腕まくりをした。髪の毛は埃を被る可能性大なのでリュックから出したお手製のバンダナを三角巾にして頭に付けた。埃も吸い込みそうなので、バンダナを三角巾にしてマスクをした。
私は、はたきを取って部屋に入った。
そうだ。今度マスクを作ろう。
と思いながら。
********
桶の中の水はすっかり黒くなっておりまた入り口に行くと新たな桶が置かれていた。先程からこれの繰り返しだ。汚くなった桶を入り口に置いて、新しい水が入っている桶の水で雑巾を洗う。すると瞬く間に水が汚くなった。が、気にせず汚れを落とす。雑巾を固く絞り、また拭き掃除を始めた。
足元にまで本があるので資料室は土足厳禁にした方がいいかもしれない。それをするためにはスリッパやら何やらを用意しなければならないな。あぁ、掃除と言えばヒノを連れてこれば良かった。といっても想定外の事だからなぁ。
「はぁ~。」
身体はこれでも馬鹿程丈夫なので疲れていないけど、精神的に参ったな。本棚の上は今度をヒノ連れてきたら良いとして、
「ふぅ。大体終わったかな?次に本を戻していかないといけないな。」
外は既に夕暮れに染まっており、資料室もオレンジ色に染まっている。だが、私は作業を続ける。宿は取っていないし、作業途中でディーンさんに寝泊まりしてもいいと許可を取ってあるしな。ゴブリン達にも暫く帰ってこないって伝えているしな。
廊下の壁に沿って布を敷いた上に本が綺麗に積んであるが、それは私がやったことだ。邪魔だったからな。隣の扉に届きそうなくらい並んでいるのでちょっと壮観だ。廊下を通る職員さん達が憐れんだ目でこちらを見る。そして、偶に積んである資料を何冊か抜いて立ち去る。やっぱりいるんだな。
本の整理もしなければならないな。
********
~♪
鼻歌を歌って機嫌よく見えるだろうが、機嫌が言い訳ではないし、悪い訳でもない。
そして、曲はカー○○○ーズの曲だ。偶に、A○○Aとか挟むけど。古いと言われたって仕方がないだろうが、昔からこうなんだよ!おばさんでわるぅございました。
誰に言うでもなく、脳内で寂しい一人ツッコミ?を繰り返す。
「tambourine~」
今はA○○Aのあれだ。めっちゃ有名なやつ。ノリノリで腰を前に向かって突き出しパンパン叩く。前世でも何か作業をするとき歌いまくっていたから、英語の発音も完璧で歌詞も完璧に暗記した。何十年も続けていればそうなるわな。
っていうか、もう鼻歌じゃあなくなってるわ。めっちゃ歌ってる。
カー○○〇ーズはあれだな、青春の○○とかRainy ○○〇〇 Mondaysとか好きだなぁ。
別に誰に聞かれても問題はないので廊下でもお構いなしに歌う。
あー、楽しいー。
「ヨーコさん。」
あ゛?歌の邪魔すんなよ。
っていうか、この声はディーンさんだな。
「はい。」
「そろそろ、晩ご飯の時間ですが。」
「あー、持参しているので、大丈夫です。」
「それでもいいので一緒に食べませんか?私だけでなくギルドの職員も何名かいるので。どうですか?」
「わかりました。じゃあ、抱えている奴を片付けたら行きましょう。直ぐに済むのでそこで待ってて下さい。」
「わかりました。」
私はトテトテと本を本棚に仕舞うと入り口に置いた荷物を背負いローブを着る。
「行きましょうか。」
「はい。」
ディーンさんは昼に来た道を歩く。
出るときは裏口を使い外に出るとディーンさんはギルドの職員の証であるベストを着たままもう既に真っ暗な王都のよくわからん道を歩く。大通りに出ると、夜の明かりと喧騒が私に襲ってくる。夜でも熱気があり、酒を飲んで機嫌の良い人が沢山歩いている。暫く歩くとがやがやと五月蝿い声のする食堂の中に入って行った。
中は天井に吊るされたLED並みに光る橙色の光源が食堂を照らしていた。
案外、明るいものだなと思った。多分あれは魔道具だろう。高価なものを無防備に置いていると思われるが、窃盗に合わない理由が多分この店の従業員の誰かが引退した元冒険者なのだろう。その為滅多なことであの魔道具を盗まないし、大体、この世界でどうやって吊るしたのかもわからない程の高さのところにあるもんな。
「おーい!ディーン!」
野太い誰かの声がディーンさんを呼ぶ。
ディーンさんはその声の元に歩いていく。酒を飲んでいるくっさい酔っ払いどもの間を通るのはある意味苦行だな。
そう思いながら私も能面でディーンさんの後をついて行く。
「お待たせしました。」
ディーンさんがテーブルの人達にそう言った。
「おっ、嬢ちゃんも来たな。俺たちゃあ既に飲んじまっているが、嬢ちゃんのも頼んでるからよ好きなとこに座りな!」
焼けた肌にスキンヘッドの巨体のおっさんが私を見てそう言った。顔が赤らんでいるので飲んだのは間違いない。
「もー、アーロンさん!女の子にそんな酒くっさい息を吐きかけないでください!今度から腐敗の息って言いますよ!」
「ひでぇ!」
プンプンってな感じで怒っているクルクルカールの可愛い毒舌な女の子はそう言った。
まじでひでぇ。確かにくさかったけども。
「いや、どっちもある意味ひでぇわ。」
冷静にそう言うのは眼帯をした隻眼の男。眼光が鋭くどこか侮れない空気を纏っている。ガタイが良く、強そうでもある。
「ヨーコです。私にはお構いなく。」
しかし、私はどうでも良かったのでそう言って席に着いた。リュックから取り出したのはホカホカの南瓜サラダとバゲット2本、凶暴な兎魔物の串焼きだ。タレと塩両方ある。
それをリュックから取り出したのを見た面々は目を見開いてこちらを見ている。
あのディーンさんもかなり吃驚しているようだ。
「「「「ええ~~~!!!・はぁぁぁあああああああああ!!!!」」」」
ったく、五月蝿いなぁ。
「どうしたんですか?」
私は訳が分からずそう聞いた。
「お、おまっ!そ、そそそそれはぁっ!」
「ちょ、ちょちょちょちょちょぉ~~~~っと、待って!」
「……ヨーコさん。あなたは」
「おいおいおい。」
スキンヘッドと毒舌女子が五月蝿く喋る。ディーンさんも未だに動揺から抜け出せない様だ。隻眼の男はまずいなぁと言っている。
「ヨーコさん。」
「ふぁい。」
私は南瓜サラダをパンにつけて頬張っている。
「後で沢山聞きたいことがあります。ここでは追及しませんが、あまりそれを人前で使わないでください。」
「あ、ふぁすれふぇふぁ。」
マジで忘れてたわ。この鞄は私が持つには高価すぎる。例え手作りだとしてもだ。
「ゴクン。すみません。忘れてました。以後気を付けます。」
「はい。幸い見られていませんでしたが、勘づいたものは何名かいる筈です。」
小声で忠告してくれるディーンさんやさしー。
「まぁ、後で、説明するのは構いませんけど、資料室の片づけをしながらでも良いですか?」
「いえ、別室でお願いします。誰に聞かれているかもわからないので。あそこは決して防音に優れている訳ではないので、それと、ユーコさんの持っているものは国か高位ランク冒険者が扱うような物ですから、ゆめゆめお忘れなきよう。」
「あぁ、そうですね。」
私は思案顔で頷いた。
さて、何処まで話そうか。