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あの王様……
ハンサムだった!!!!!
ハンサム!ハンサム!ハンサム万歳!
え、ハンサムは古い?
まぁ、確かに古いけど。いいじゃない?あ、でも、あの王様はハンサム顔っていうよりもイケメン顔だな。うん、イケメンってことにしておいてやろう。寝台に寝ているのを覗き込んだとき息をのむ美しさだったよ。若々しいピチピチの綺麗なきめ細かな滑らか肌。綺麗なブロンドの髪は柔らかそうな髪質で、素晴らしい光沢だったよ。目を開けると血色の良い薄い唇とスッと通った鼻筋、からの、金髪まつ毛から覗く青い綺麗な切れ長の目!これぞ異世界のイケメンって感じだった。ありゃあモテるんじゃない?即位したのは先代が病気を患って退位した1年前。その時既に政務をやっていた王太子が即位って、揉め事起こったんじゃ……。まぁ、今更聞いても詮無いこと。
久々に普通に喋ったから、いまいち口調みたいなのが決まらんな。こう、尊大な口調じゃなくて、……あぁぁ、日本語で会話したい。これは、あまり人と会わずに一人で何かをしていた僻害か。まじったな。
まぁ、直ぐにあの王様があのバカ共を裁いてくれるのかは知らんが、取り敢えず、作戦は成功したな。作戦とは王様の目の前で美味しい食い物をわざと食べた事と関係している。私がただ言っただけでは実行するとは限らない。何しろ即位してまだ一年前だ。王城内でのごたごたも鎮火したばっかか、まだ燻っていると思う。なので、ここで私は餌付け作戦を決行したのだ。以前説明したと思うがこの世界の食文化は最悪だ。王城内もそこまで美味しい物を食べているとは思えない。なので、おにぎりで十分釣れると自負していたのだ。(おにぎりで釣れる王って、安いな)まだ若い王なので好奇心も旺盛だ。幼い私が美味しい物と最下級貴族の不正の証拠を持ってきたのだ。そして、最後に捲し立てるように言った言葉で私の正体が俄然気になる筈だ。毒の入っていない美味しい料理で少しは警戒も取れているだろう。敵でないとも言っているしな。聡明だが、寝起きだったのが良かったかな。ちょっと、ボケーってしてたから。
さて、私は今、王都を散策している。現在時刻は分からないが、もう昼だろう。王の前で朝食を食べたのでお腹がいっぱいになったし、朝に私は王都外の森の中を調査していたのだ。勿論私のテリトリーにするためである。あの王は愚王でも、傀儡になる王でもない。が、王城の守りが甘すぎるのだ。この8歳児に出し抜かれる王城とはこれ如何に。私の伝手には死んでほしくない。いつか最大限に使ってやるんだ。その為にはあの甘い守りをどうにかしなければならない。王城の守護魔法に私が干渉すると王城の魔術師どもにバレるだろう。なので、誰も干渉していない森に干渉することにした。特別な施設を作るわけではないが、監視を置いておけば怪しいものが来たとき役立つだろう。そんなわけで適当に監視してくれる丸い水晶の様なものをいくつか適当に投げておいた。そのあとは時間つぶしに魔物を狩って植物を見て昼になったら王都に正式に入った。身分証はないので、仮身分証を発行してもらい、冒険者ギルドに登録してから返すということになった。最初は怪しまれたが、親戚に追い出されたと言えば憐れんだ目をしてこちらを見てきた。多分、不憫に思ってくれているんだろう。
「はぁ~、兎に角散策やめてギルドに行くか。飯は~っと、後でいっか。」
私は、王都を満喫してから冒険者ギルドに向かった。
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やっぱり王都のは大きいな。
デリック領にはギルドがなかった。隣接する未開地に大した魔物がいなかった為と、デリック領が、領と言えない程の小ささからであったと思う。土地は広大だが9割以上が未開地で、1割未満がデリック領と言ってもほぼ村の様なものだ。当然村に冒険者ギルドをいちいち建てていては手間だ。それに、利用者も少ないだろう。つまり、そういう訳である。冒険者は来なかったし、デリック領というのは大袈裟か、村から離れた隣街に冒険者ギルドがあったのでそれで事足りるのだ。父は冒険者に自分の領を我が物顔で歩きまわられるのが嫌だったようで、ほくほく顔でそれを言うたびに喜んでいたが。
まぁ、なんにせよ。私が冒険者になることには変わりはないが。
私は王様の時とは別の薄茶色のローブのフードを取った状態で冒険者ギルドに入っていった。
ドアを開けると入り口付近に受付カウンターが奥に行くと酒場があるらしい。更に奥に見えるのが階段で二階があるようだった。吹き抜けになっており、二階に意外に人が少ないことからどうやら高ランク冒険者用のカウンターらしい。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドにようこそ。何か御用ですか?」
私が入り口でぼーっとしていたので痺れをきらした受付嬢が話しかけてきた。耳の先が尖っており、髪の毛は鮮やかな黄緑色で、目は茶色だ。どうやらハーフエルフとやらだ。有能そうな見た目ではあるが、中身はポンコツそうだな。ラノベではよくあることだ。
「こんにちは。冒険者登録をしに来ました。」
「えっ。」
素が出ているぞ。
「何か問題でも?早く仮身分証を返したいのですが?」
「え、えぇっと。」
おや、予想通りかな?
「ちょ、ちょっと待っててね~。」
やはり、ポンコツか。どうやら、先輩か、仕事の出来る人間を連れてくるようだ。
「お待たせしました。」
藍色の長い髪を涼やかに後ろで縛っている細身の仕事の出来そうな男がやってきた。
「冒険者登録をしたいそうですが。」
「はい。」
「おいくつですか?」
「8歳です。」
「……わかりました。では、こちらの冒険者登録用紙にご記入願います。代筆は?」
「お願いします。」
余裕で書けるが、最下級でも貴族の娘と疑われたら嫌だからね。
「わかりました。では、お名前から。」
「名前はヨーコ。年齢は8歳。一応女です。武器は~」
「言わなくても大丈夫です。では、犯罪歴がないかを調べさせてもらいます。」
そう言って用紙に書き終わったものを、後の先程の受付嬢に渡すと水晶に台を着けただけのぼったくりの占い師が持っていそうなものを取り出した。見た目はアレだが、魔力の干渉の跡が沢山見えるので魔道具だろう。
「こちらに触ってください。」
「わかりました。」
私は、何もやましいことなどないので素直にそれを触った。
「ありがとうございます。」
何も起きなかっていう事はそういうことらしい。
「次に、冒険者カードの発行料として銀貨1枚を取らせていただきます。」
「どうぞ。」
右手にずっと持っていたんでな。
「ありがとうございます。すぐに済みますので少々お待ちください。」
「はい。」
私はさっさと奥に引っ込んでいった人を見送ってカウンターで待つ。後ろに誰も並んでいないんでな。
暫くすると金属プレートに革ひもを着けただけのものを持ってきた。
「お待たせしました。こちらが冒険者カードになります。失くしてしまいますと再発行に金貨1枚いりますので、お気を付けください。払えない場合は冒険者資格剥奪になりますので。」
「わかりました。」
高いな。まぁ、身分証にもなる冒険者カードを失くしたらそうなるわな。ってか、見た限り革紐なんだが、燃えないのだろうか?
「冒険者ギルドとかの説明はないんですか?」
「あります。」
「じゃあ、お願いします。」
「はい。では、まず冒険者ランクからご説明致します。ランク下から順にはG、F、E、D、C、B、A、Sと7段階あります。ヨーコさんはなり立ての為、Gランクです。冒険者カードにもそう表記していますので後程ご確認を。ランクが上がるごとにカードは更新の為一時預からせていただきます。次に依頼ですね。一般依頼、討伐依頼、採取依頼、護衛依頼、指名依頼等ですね。依頼はランクによって受けられるものが限られます。そして、特に多く依頼される依頼を説明します。一般依頼は街の住人の方が出されることが多いです。安価で重労働な依頼内容が多いですが、得られるものは多いです。討伐依頼は街の外の魔物を狩ってもらいます。狩った魔物は討伐証明というギルドで指定されている魔物の一部を提出していただければ依頼完了となります。狩った魔物の素材はギルドで一定の価格で買い取りもさせていただいております。採取依頼は薬草等の回復薬の材料になるものがギルドから常時依頼として出されています。良い状態で持ってきてくだされば少し色を着けさせていただきます。他にも薬草ではなく、魔石等の採取の場合もありますので、薬草だけとは限りません。護衛依頼等の説明はヨーコさんが高ランク冒険者になった時に説明致します。尚、依頼料の一割をギルドは仲介料としていただいておりますので、ご了承ください。そして、リューン王国王都のギルドの二階はBランクからの方しかご利用いただけません。行ってはいけないわけではないのですが、面倒ごとになりますので。お気を付けください。以上になります。何かご質問は?」
「ご説明ありがとうございます。とても分かり易かったです。では、早速質問をしてもいいでしょうか?」
「はい。」
「薬草、魔物の種類、魔物の主な分布図が書いてある資料ってありませんか?」
あ、文字が書けないのに読めるって可笑しいかな?
案の定、男性受付員能面の様な顔の眉がピクリと反応した。
「…、資料は……そうですね、受付の奥にありますので、言っていただければご案内致します。」
「わかりました。奥で食事は取っても構いませんか?」
「資料を汚してしまう可能性があるので、受付に近いカウンター席で食べて下さい。持ち込みに関しては問題ありません。」
「わかりました。では、そこで食事をとってきますので後でまた案内していただけますか?………すみません。お名前を伺っても宜しいですか?」
「こちらこそ、名乗り遅れました、私の名前はディーンと申します。今後とも宜しくお願い致します。」
「こちらこそ、今後ともお世話になります。では、また後で。ディーンさん。」
私が立ち去ると能面の様な表情に乏しい顔のままこちらに頭を下げてきたディーンさん。私は言いつけ通り受付に一番近いカウンター席に座り、手製のリュックサックの中からサンドイッチとコップを取り出した。周りの冒険者がこちらをじろじろ見るが気にしない。
「すみません。」
「何だい。」
私はカウンター席にいる酒場のおやじに声をかけた。
「水をくれませんか?無ければお酒以外の何かで。」
「酒以外はオランジュースしかねぇよ。」
「じゃあ、それで。あ、コップはこれで。」
「あいよ。」
不愛想なおやじは私の手から木の軽いコップを受け取ると奥に引っ込んでいった。
暫くして戻ってきたおやじの手には先程渡した木のコップだ。中身はオレンジジュースの様な柑橘系の匂いと見た目もオレンジジュースだな。
「ありがとうございます。代金はいくらですか?」
「サービスだ。いらねぇよ。冒険者になったばかりの奴の金なんか受け取れねぇよ。」
「ありがとうございます。」
「簡単にありがとうございます。頭なんか下げるな下に見られるぞ。それと、俺にそんな堅っ苦しい喋り方はやめろ。体が痒くなる。」
「ありがとう。」
私は代わりに笑顔をお見舞いしてやった。幼児の百点スマイルだ。そして、切り替えの早い私はさっさと食事に目を向ける。おやじの事なんぞ既にどうでも良くなっているのだ。
「いただきまーす。」
手を合わせて言うと隣の奴が不思議そうな顔をしてるが、無視だ無視。
早速サンドイッチを頬張っていく。サンドイッチと言っても食パンはまだ出来ていない。型が出来ていないからだ。なので、バゲットサンドに近いものになっている。この身体の燃費は頗る悪いので実は朝食があまり足りていなかったのだ。バゲットサンドは長さで言うと40センチくらいだ。これでちょっと満たされるくらいだな。挟まっているのは塩もみした千切りキャベツにちょっとピリ辛な魔物猪肉の挽肉炒めだ。濃い目の味付けなので甘いバゲットと合う合う。途中から飽きないようにマヨネーズをかけているのでこれまたピリ辛なのがマイルドになって冷えても美味い。途中でオランジュースを飲んでと。隣からの視線が痛いが、このパンと味付けで目立つのは嫌なのであげるもんか。最後の部分をもきゅもきゅと小さな口でよく噛んで食べる。傍から見るともうすぐで吐き出しそうな奴だろう。(そこはハムスターというべきか?)最後にオランジュースで流し込む。
「あ゛ぁ゛~。」
おっさんみたいな事をって思われるかもしれないが、癖は仕方がないだろう。
パンッ
「ごちそうさまでした。」
手を合わせてそう言うと私はバゲットを包んでいた布で手を拭く。湿らせているので手も拭けるのだ。そして、コップをその布で包みリュックに仕舞い。私は席を立った。
後ろで物珍しそうに見ている冒険者が沢山いることをわかっているが、もう既に目立っていることをあまり認めたくない。
私は腹ごしらえを終え。受付カウンターに向かった。
後ろで
「あの幼女は何者だ。」
「我らの会長に伝えねば、幼女を見守る会の会長に守護する者が増えたと。」
「めっちゃ食ったな。」
「いや、食い過ぎだろう。」
「しかも、めっちゃ美味そうだったぞ。」
「あの最後の声が良かったな。会長に新たな幼女の種類が増えたと伝えねば。」
と、不穏な発言がはっきりと聞こえていたりした。