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1-5

私は高速で空を飛んでいる。

多分マッハいくつかぐらいは出ている。もう速度は分からん。

身体がぐちゃりと潰れないように風が身体の横を滑るようにする。ド〇ゴン〇ールの様に手を真っ直ぐにはしないが、身体は空気の抵抗を少なくするように水平に傾けている。

この速度ならば王城までもうすぐだ。

私はこれからのことを考えながら王城を目指す。




そして、この後の出会いがリューン王国を変えていく出来事になる。


********



リュート王国の王城


王の寝室では王がゆったりと寝返りをうっていた。

王城の使用人は既に起きており朝食の準備や政務の準備をせかせかと始めている。兵士たちは朝早くから起き、訓練場を走っている。騎士も別の訓練場で訓練を始めており、あともうすぐで朝食の時間になる頃だろう。高度な魔法結界があちこちに張り巡らされており、この王城の堅固さは世界有数だろう。しかし、それでも警備の人は歩き回っており、魔法的にも物理的にも誰もこの王城に侵入できない。








筈だった。



王の寝室にある窓から入ってきた風が自分の頬を撫でる感触で王は目を覚ます。

王の名はアルデウス・イヌス・リューン。イヌスは王という証明の名だ。それぞれ爵位の名があるが、騎士爵だけ爵位名がなく、貴族でないと見下す貴族もいる。まぁ、そんな詮無いことなどどうでも良かろう。


アルデウスは寝起きの働かない脳みそを回転させて考えを巡らす。


はて、窓を開けっぱなしにしながら寝た記憶はないぞ。と


そこから頭が急速に冷えて目が嫌でも覚めてきた。

完全に覚醒したアルデウスはガバリと起き上がって部屋の中をキョロキョロと見渡した。

しかし、何もない。まず、この堅固な王城に侵入できる者がいるのだろうか?いや、何事にも最悪というものを想定しておいた方がいいだろう。過信は禁物だ。











「おはようございます。」

幼い声が横からした。


横を見ると黒いローブを着て、フードを深く被った身長の低い者がいた。

暗殺者だろうか?いや、それではアルデウスを起こさないだろうし、まず、夜に来るはずだ。

「……何者だ。」

寝起きの掠れた声で聞く。

「暗殺者ではありませんし、私に敵対しないのならば敵ではありません。まぁ、貴方が私の琴線に触れる様な事をしたら殺す、まではしませんが、監視はつけます。でないと、この国が混乱するでしょうしね。では、本題に移りましょうか。」

声からして幼子のようだ。いや、身長も低い。大人と言われれば違和感がありまくりだが、どうも大人と話している気分にさせる幼子だ。

「あ、不敬とか言わないください。よく知らない人間の事を尊敬なんぞできんから。」

「本題はなんだ。」

早く言ってくれ。しかも、最後の方、素に戻っているぞ。

「大した用事ではない。」

あ、諦めたな。

「まず、これを。」

そう渡してきたのは何かの書類の束だ。

私は未だに警戒が解くことができないでいる。この怪しげな幼子が王の寝室に急にくるなんぞ。怪しさ満載だ。私は大人の凄腕暗殺者が来た方が現実味があると思えて仕方がない。

「攻撃するわけがないだろうがよ。」

幼子はそう言って寝台で起き上がっているだけの私に歩み寄り私の手をとって書類の束を押し付けた。その時に幼子からは何の匂いもしなかった。ローブに使われている革製品の独特の香りや、何かしらの匂いもしない。どういうことだ?

私の手を掴んだ時の手はやはり幼子特有の柔らかい手だ。が、どこか違うような気もする。

「何自分の手を見つめてんだ。気持ちが悪いから早くそれに目を通せよ。」

「わ、わかったから、急かすな。それと、普通ならば気持ちが悪いなどというと不敬だぞ。ここには私しかいないが。」

「はいはい。あー、お腹減ったな。じゃあ、ご飯を食べてるからそれ読んで。」

「は?」

そう言って、幼子は私の寝台に腰かけ、ローブの中でごそごそと何かを取り出す仕草をしてから見たこともないようなものを取り出した。それは黒い三角の何かで湯気を出している。「あちち」と幼子が声を出すくらいなのだから本当に熱いのだろう。しかし、今幼子が調理したわけでもないのに熱いとは、まさか!時間停止のアイテムボックスを持っているのか!あの、伝説の!

「ん?さっさと読んだら?」

「あ、あぁ。」

「ふー、いただきまーす!」

と言って幼子は何かにかぶりつく。はふはふと熱そうに食べているが美味そうだ。そして、何かからは良い匂いが漂ってきた。私は急かされている書類を放ってその黒い何かを凝視していた。

「はぁ~、……食べる?」

心底呆れた風に幼子は溜息をはいてこちらに黒い何かを差し出した。私はいつの間にか幼子の手元を覗き込むように近付いていたようだ。

しかし、誰が作ったかもわからないものを食べることなんぞ出来ない。毒が、というのは今更だな。

「いいのか?それはそなたの朝食だろう?」

「多めに持ってるから大丈夫。お茶も上げるから。はい。」

「か、感謝する。」

私は幼子の隣に腰かけそれを受け取った。三角の形の黒い何かは手のひらの上でホカホカとしている。私は恐る恐るそれを食べた。

「……美味い。」

これは、美味い!口の中で甘いもちもちとした何かが絶妙な塩加減で味付けされており美味い。時折感じる何かが引きちぎれる磯の香りのするものは黒いものだろう。

「おにぎりって言う米という穀物で作ったものだよ。それの具は一応なしね。塩のみ。周りの黒いのは海で獲れる海苔っていう海藻を加工して乾燥させたもの。美味しい?」

「美味い。美味いぞ!しかし、これでは足りない。」

「はいはい。じゃあ、梅干しおにぎりもあげちゃうよ。」

「梅干し?」

「うん。酸っぱくて、おにぎりの具の定番ね。美味しいから食べ。まぁ、好みも別れるけど、それは甘めの奴だから美味しいよ。」

「う、うむ。よくわからないが、まぁ、頂こう。」

先程と見た目は変わらないが梅干しという具が入っているという。匂いも変わらないが何が違うのだろうか。私は新しい味にワクワクしながらそれを口に運ぶ。

噛むと酸っぱいものが口に溢れる。

酸っぱい!

酸っぱいぞ!

しかし、………美味い。涎が溢れてくる。この米とやらの甘みと梅干しの酸っぱさが絶妙に合う。

「美味い。」

「はい。お茶。はぁ、お椀を持ってて正解だよ。」

「む?」

差し出されたのは不思議な形をしたオワンというものだった。中に入っているのは色は分からないが、良い匂いのする紅茶だ。しかし、匂ったことはない。それでも、香ばしい匂いのする紅茶だ。

「紅茶じゃないから。あと、お茶ね。これは、ほうじ茶。」

心を読んだのか?

「心は読んでいないから。これを見ると、紅茶だって勘違いするのは目に見えてたから。」

「う、うむ、頂こう。」

私はもうなんとも思わずにそれを口に入れていた。


ほう。


身体のしんからじんわりと温かくなる。そして、先程のおにぎりの後味を綺麗さっぱり流してくれる。鼻に抜ける香ばしい香りがとても落ち着く。確かに紅茶とは少し違うようだ。

「美味いな。」

「はは。お前はそれしか言わないな。」

からからと幼子の声で笑う人物。不思議なものよ。

「手がちょっとべたつくでしょ?はい、おしぼり。」

「む?これは?」

「おしぼりだって。これで、手を拭きなよ。」

「ありがたい。」

私はオワンを返して、湯気のたつ温かそうなおしぼりとやらを受け取った。確かに熱いが冷え込む朝にとても温かいのは気持ちがいい。私はおしぼりで手を拭うとそのおしぼりが濡れていることに気が付いた。そして、布の白いこと。しかし、肌触りは悪くない。何処の土地に行ってもこのように白い素材はないだろう。あるとすれば、Bランク魔物のレッサータランチュラだろう。糸が白く滑らかだと評判で、私もそれを使った服を持っているが、こんな肌触りではない。これは、何と言ったらいいのだ?

「どうした?」

「いや、お前は不思議な奴だなと。」

「まぁ、それはおいおい。はい。手は拭けた。書類を読んで。」

「わかった。」

私はお腹が満たされたことによって、頭が冴えていた。普段通りの判断も出来るだろう。私は放りだした書類を掴んで読み始めた。




閑話休題





うむ、これは、やっていることは把握していたが、あまり、注目していなかった。が、増長している貴族の典型的な問題だな。そう、それだけなのだ。我が国に謀反を起こしているわけではない。他国と繋がって我が国を潰そうとしている訳ではない。ただ、税が吊り上がって領民が苦しんでいる。言い方は悪いがそれだけなのだ。税が上がっている領は他に幾つかあるのは知っている。まぁ、報告書に素直に書かれてはいないが。これも、それと同じだ。しかし、規模が小さい。この幼子はどうしたいのだ?

「うむ、わかったが。お主は何がしたいのだ?」

「領主を変えてほしい。その後釜はどうでもいいけど。私じゃあ、どうにもならないからお願いしに来た。それと、不正をしている証拠を持ってきた。それだけ。」

「どうしてだ?」

「私の正体は薄々わかってくると思う。けど、言わない。それと、私はもともと違う。」

「どういうことだ?」

「その領主をクビにしたらわかるよ。まぁ、今はそれしか言わない。また近いうちに早朝か真夜中に来るよ。その時には名前も教えるし、顔も見せる。まぁ、その領主を裁いたらの話だよ。あ、行方不明の人がいても大丈夫だから。それと、私を詮索しても意味がないと思うよ。私の名前を知っても監視をしないで。詮索とかしたらその人ここに連れてくるから。誰にも言わないでね。じゃあ、またね。」

「おい!」

幼子は一気に捲し立てるように話すと窓に向かって走って、それから、信じられないことに窓から飛び降りた。私は室内履きも履かずにみっともなく裸足で窓に走っていった。下を見たが誰もいない。これは、夢だったのか?いや、後ろにある書類とこの口の中に残る後味と胃の重さが現実だと主張している。

どうも現実味がない。

「……また、美味い物を持ってきてくれないものだろうか。」



漸く口をついて出たのはそんなことだった。

しかし、あの幼子の事を知りたい欲求と面白いと思う自分がいた。今まで大した刺激がなく、忙しい政務が続いており、灰色の世界だった。が、あのおにぎりを食べてからどうも自分の世界が色づき始めた。あの幼子は王をもある意味魅了する不思議な力があるようだ。

「また、会おう。楽しみしておる。」





若干20歳のリューン王国の王はそう漏らした。




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