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「いんや、違う。」

全然ちゃう。

「私は逃がさないよ。後々面倒だし、君の組織のボスのところに案内してもらっただけだ。」

「なっ!」

暗殺者の男が驚いているが、大したことはない。

雑魚だ。

まぁ、真面目で腕はいいので、引き込めば信用できるかな。

「さぁて、幹部の方達には黙ってもらって、ボスさんはちょいとばかし私とお話をしようか。」

ボスっぽい人は椅子に座って向こう側を向いている。

決して寝ているとかというオチはない。

起きているのは把握済みだ。

幹部達が騒がないのは私の魔法で抑えているからだ。

勿論ボスも拘束済みだ。


ボスの正面に周り、顔を合わせる。

ボスの顔は如何にも裏社会のボスって感じだ。

右耳は何かに千切られたように欠けていて、鼻に真一文字に切り傷の痕が大きく残っている。

ワルだなぁ。

「喋れるでしょう?まず、どうして、貴方はジャミを狙ったんだい?」

ぎろりとこちらを睨んでくるばかりで全く喋る気配がない。

「はぁ、危害を加えないつもりだったけど、仕方ないかぁ。私はこう見えて時間がないんだよ。」

それでも揺るがないボスの目。

「………何の用だ。」

ドスのきいた低い男の声で子供達が聞いたらチびるだろう。

「やっと喋ってくれたね。よかったよ。私はサディストでもマッドサイエンティストでもないから誰かを痛めつける趣味はないんだよ。それに今後にも影響するからやりたくなくったしね。」

「何だと聞いている。」

「あぁ、ごめんごめん。それで、用件なんだけど、その前に君はどうして、この組織を立ち上げたのかい?」

「てめぇには関係ねぇだろう。」

「貴方の人柄を知るために聞いてるんだよ。関係はないだろうが。」

「…俺達の何が知りてぇ?」

「性格かな。これも用件に関することだから、なるべく答えてほしいんだよ。それと、別に貴方達の秘密を探ろうとかじゃあない。」

「意味が解らねぇな。」

確かに私も初対面の奴に、しかも、急襲かけてきたやつに聞かれたらこいつ頭いかれてんじゃねぇの?って思うわな。

「さっきスラムの浅層にデッカイ建物を勝手に建てちゃったんだよね。まぁ、貴族達がギャーギャー騒がしくなるだろうけど、そこは、伝手で黙らすけど。それで、貴方達にその建物で働いてほしいんだ。性格の把握は採用試験の一環だね。」

「は?」

ボスの口から間抜けな声が出た。それでもドスはきいているが。

しかし、嫌いじゃないよその声。

「今王都中の身寄りのない子供達がその建物に集まっている。その子供達の教育を貴方達に頼みたいんだ。衣食住完璧に保障して、給料も出す。どう?結構いい働き場所じゃない?」

「断ったら?」

「そこの暗殺者くんがうちの子供を殺しかけたから、君達には拒否権はないよ。まぁ、依頼主は殺すけど。」

「はっ!俺たちゃあやべぇ奴に目ぇつけられたって事か?」

「やべぇ奴って……、まぁ、いいや。で、どうする?子供達には周りから身を守る術を身に着けてほしいし、生きてもらいたい。結局貴方達の様な後ろ暗い人達に頼むべきではないのだろうけど、私には力があっても、財力と人脈が壊滅的にないんだよね。それを貴方達に補強してもらいたいんだ。」

ボスの目にはやはり私の得体のしれなさに少し警戒を抱いているが、あまり、悪い人ではなさそうなんだよね。

「俺の仲間に異論がなかったら雇われてやるよ。」

「お、それは良かったよ。」

「異論がなかったらの話だぜ?」

「そうだねぇ、幹部さん達はどう?」

今幹部達は首から上だけ自由にした。

五月蝿そうだったんでな。

「わしは、異論はないの。」

「「「っ!」」」

幹部達が自分たちの筆頭でもある老人に向けた縋る様な視線は、老人の一言によって驚きに見開かれた。

「ふむ。貴方の名前は?あ、紹介が遅れましたね。私の名前はヨータと申します。」

「儂の名はウノじゃ。」

カードゲームかよ。

「じゃあ、ウノさんと呼ばせていただきます。それで、ウノさんはどうして賛成してくれたんですか?」

「言わなければいけないのか?」

「勿論。」

「そうじゃのぅ、強いていうのならば、儂の後継を育てることに集中したいのじゃ。生物を殺める術じゃが、子供達の護身術としては大丈夫なはずじゃ。今まで幾人か育ててみたが、全員が暗殺者になりおった。まぁ、その為に育てたんじゃが、つまらんでのぉ。大して強くもない相手を殺すために技を磨かせても何の感慨も湧かん。決して魔物を相手取る訳じゃのうて、だぁれも強くなろうとせん。そこでお前さんが丁度都合の良い事を言ってくれたもんでな。助かったわい。して、儂の未来の教え子たちは幾人おる?」

「数百人かな?まだ、数は把握できてない…っと、これが名簿だね。でも、まだ契約はしていないから個人情報は教えれないけれど。ざっと400人余りかな?けれど、まだまだ増えそうだ。まぁ、出て行く子もいるから当たり前なんだろうけど。」

それを聞いてウノは喉を震わせてクツクツと笑う。

何が面白いのだろうか?

まぁ、王都でこれくらいの人数なので、意外に人数が少ないな。

もっと1000人とかいるとか思ってたわ。

「まぁ、慈善事業みたいなもんだと思ってくれればいいですよ。防衛もこれから完璧にしていきますしね。まぁ、400人もいると流石に数人では面倒見きれませんし、私もこう見えて忙しいんでね。職員を雇おうと思ったんですよ。私を見て胡散臭く思えますが、まぁ、子供達の事は信じてやってください。敵対行為をした場合は即座に排除させていただきますが。」

「そうじゃな。信頼は出来んがちぃとばかし、信用してみようかの。」

「ところで、ウノさんの流派って何ですか?」

修験道忍術しゅげんどうにんじゅつじゃよ。」

それって、流派っていうより、カテゴリじゃね?

甲賀なのか伊賀なのかどっちやねん。って感じだな。

まぁ、諸説はあったけど、その中の一つに修験者の派生したものが忍びと言われるようになったと聞くが、もしや、地球出身者かな?ウノさんはそうでもなさそうだから、ウノさんの師匠かそれかもっと昔の開祖した人か。

「そうですか。」

まぁ、修験道はかなり厳しいが、強くなるに越したことはない。これを乗り越えれば大抵のことは乗り越えられる筈だ。

スラムは王都内だが、王都の外に出るにはいちいち門を通らなくてもいいのだ。まぁ、ちょっとした犯罪になるが、そこはアルベルトに許可をしてもらえればいいだろう。あいつも見るからに人手不足の役人達をここから引き抜けばいいんだからな。


話を戻して、そこから森に入ってウノに鍛えてもらったらいいだろう。そこからすぐの森にはゴブリン等の雑魚しかいないからな。山じゃないけど。まぁ、そこは妥協してもらおう。

「さて、ウノさんは賛同してくれましたが、貴方達はどうしますか?」

私は他の幹部連中に目を向ける。



*******





他の幹部連中からも賛同を得られ、ほくほく顔の私は雇用契約書を一人一人と交わした。

数枚書いたものを私はバッグにしまう。

「ではでは、組織の人達もなるべく全員雇わせていただきますので、収集して置いて下さい。で、ちょっとお金を借りてもいいですか?」

「何に使うんだ?」

「奴隷を買ってこようかと思っていまして。あ、お金は後で返しますんで安心してください。その代わりご飯美味しくしますんで、利子なしでお願いしますね。書類仕事はしたくないでしょう?」

「得意じゃないな。」

カクがうちにはいるが、コンピューターにも限度がある。私はホムンクルスを創れる訳ではないので、書類関係の人は奴隷で補おうかと思っている。

「わかった。」

「それと、組織は解散してください。そして、新たに警備会社として立ち上げてください。これも、貴方達の収入源となるでしょう。今までは殺し等の依頼を請け負っていたのでしょうけれど、これからは守る仕事をしてください。私の数少ない貴重な伝手でそこに頼んで最初はリピーターを増やしていただきましょう。社員の方たちは全員制服を着て身だしなみを整えてください。最低限ですよ?備品もこちらで用意します。」

「ちょっと待て、カイシャってのは何だ?」

「うーん。意味は組織とあまり変わりませんが、まっとうな商会といったところでしょう。」

「じゃあ、ケイビってのもなんだ?」

ボスさんや質問攻めかい。あんなに喋らなかったのに。

「一言で言えば護衛です。そうですね。例えばある商会が店が荒らされない様に専属護衛を雇おうと考えます。しかし、簡単に見つかる筈がありません。そこで、貴方達の出番です。従来の荒事が得意な危ない人よりも、弱くとも礼儀正しく身綺麗な人がいいんです。そこにいるだけで牽制にもなるので雇おうと思う人はいる筈です。専属護衛が見つかるまでの間、貴方達の社員を貸し出すという事です。それと、いくらお金を積まれても悪事には加担しないでくださいね。一定の料金で一定の人数を貸し出してください。まぁ、その為には全員ある程度腕を上げなければいけないんですけど。なので、今後の事も兼ねて貴方達には私の直属の配下から子供達に混ざって最低限の教養を身に着けていただきます。ここまでいいですか?」

「あ、あぁ。」

ボスがヨータの真剣な顔で言う途方もない話におされる。

幹部達の目も白黒している。

「会社を立ち上げるのは一年後です。それまでは準備期間です。いいですか?準備期間は1年です。この間に皆さんには頑張っていただきます。一軒家に住みたい人は自分の給料で頑張ってください。」

「……本当に出来るのか?」

「出来る出来ないではなく、やるんです。人に得意不得意はあると思うので、必ずしも警備員として働けという訳ではないです。事務仕事もありますので、そこにも人は入れてもらいます。もっと細かい話は後でにしましょう。まずは貴方達の組織の解散と説明をしてください。組織に所属する人は何人いますか?」

「200人弱だ。」

「え。」

「ん?どうした?」

え、待って。

「……すみません。もう一度言ってください。今なんて言いました?」

嘘だろ?

「だから、200弱だって言ってんだろ?」

「……もしかして、正確な人数は把握できてないんですか?」

「そうだが、何か問題でもあるのか?」






「問題大ありだ。」

私は片手で顔を覆い溜息をついた。



———前途多難だ。







*******




その後私は如何に情報が大事か懇々と説き、念を押しまくった。

今まで良く生きてこれたなと思う。

一応情報屋等から情報を定期的に仕入れていたりするらしいが、あまり意識していなかったらしい。どういうこった?頭どうなってんだよ。

寮に帰るまでの間暗殺者くんは一言も喋っていない。

しっかし、若いわ。いや、私も大概若いけど。

暗殺者くんの顔は13歳くらいのあどけなさが残る顔で鼻頭にそばかすが散る大変可愛いショ…ゴホンゴホン!前世の一部のお姉さま方にウケること間違いなしの顔で身体つきもガリガリだ。

「しっかし、ガリガリだなぁ。うちに来たら毎日朝昼晩と三食食べてもらうから後々肉はついてくると思うけど。」

「…」

三食というところにピクリと身体が反応していたが、未だ警戒は解かれていないのでだんまりだ。

ていうか、私伝手伝手って言ってたけど、アルベルトしかないんだよなぁ。これに便乗してアルベルトもこの慈善事業に協力してくれるかな?っていう希望的観測も入ってるけど、協力するしかなくなると私は思うね。国としてもスラムの存在はどうにかしたいところだと思うし、私がこれからどんどん悪組織を精査していって仲間を増やしていく予定なので国にはあまりコストはかからないし、確実だ。それに、別に子供達もタダで住ませる訳じゃなく、お金がある程度集まったらボスさん達が立ち上げた商会で働かせるつもりだ。

「……んで」

へ?

「なんで、そんなにするんだ。」

ようやっと喋ったかと思えば暗殺者くんは疑問を口にした。

ちょっと顔色が悪いのはボスさん達をあっさりと制圧した私に喋りかけたからか?

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ?なんでスラムの子達を養ったりしているのかと言うと、正直言って目の前で子供がひもじい思いをしているのが見ていられないから。子供は食べて、寝て、遊んで、転んで、怪我して、喧嘩して、食べて、風呂入って、寝るのが仕事なんだよ。だから、本当は自分がお腹を痛めて産んだ子供を育ててほしいけど、人にはそれぞれ理由があって出来ない。だから、私が親になってその仕事を与える。その力がある。けれども、何事も一人ではできないから、」

「から?」

私は暗殺者くんの目を真っ直ぐ見返した。

「貴方達に頼む。スラムで育った貴方達ならばみんなの面倒を見れる筈。そう思って声をかけた。」

「でも、俺は」

暗殺者くんは立ち止まって俯く。

私は暗殺者くんを抱きしめた。

ビクリと身を強張らせたのが腕越しに伝わる。

「大丈夫。殺していない。今まで誰を殺してきたかは問わない。けれど、やり直せる。貴方はまだ若い。これから一杯経験できる。怖い時は一緒にいてあげる。」

「俺、は」

「後悔している貴方は偉い。世の中には後悔できない人も沢山いる。後悔して自分を許せるまで一緒にいてあげる。」

「っ」

懐から鼻を啜る音が聞こえる。

私はそのまま強く抱きしめて背中をさすりながら頭を撫で続けた。




*******





「も、う、いい。」

私は腰のポシェット型アイテムボックスからタオルを取り出した。

「これで拭きな。」

一緒にほっかほかのお絞りを渡すのも忘れない。

「?」

しかし、何故お絞りを渡されたのかわからないらしい。

「これを目に当てて、こっちのタオルは鼻水とか拭いたらいいよ。」

成程と頷いた暗殺者くんはほっかほかのタオルが急に出てきたことに驚いていないというか、気付いていない様だ。

「そういえば、貴方の名前を聞いてない。教えてくれるかい?」

「……リュー」

そうか、リューか。

「私はユータって言うんだ。宜しく。」

偽名だけど、本名洋子だけど。まぁ、いいか。洋子verの時に会ったら洋子って名乗ろうかな。

「…宜しく。」

ちょっと恥じらう感じお姉さん的に100点です!

あかん、可愛い。

「取り敢えず、太平寮に行こうか。」

「ターヘイ寮?」

あー、太平は日本語だもんな。

「タ、イ、へ、イ」

「ター、へ、イ」

ちょっと可愛いと思ってしまったのはおばさんの心が穢れているせいでしょうか。

「ま、いいや。それよりもリューは食べられないものとかある?」

「ない。」

「そっか。」

聞いた限りではアレルギーはないようだが、今後出てくるかもしれないので覚悟しておいた方が良いだろう。


そうして、私達は太平寮までの道をのんびり進んでいった。



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