偶然の顛末
蒼葉さんには「それは偶然だった」で始まり、「秘密を分け合った」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以上でお願いします。
#書き出しと終わり
shindanmaker.com/801664
(Twitterより)
それは偶然だった。
だから、僕らは悪くない。
そう思うことでしか、僕らは逃げられなかった。
僕は不安で不安で仕方がない。そっと、君の横顔を盗み見る。君の疲れた瞳は、真っ赤な影を映しながら、ゆらゆらと揺れていた。けれど、僕には君の瞳が不安や恐怖と同じくらいに、興奮の感情を孕んでいるように見えた。
僕らが立っているのは、僕達の小さな街にある土手の上。土手からは、小さな街全体が見渡せる。夜八時の闇に包まれながら、僕らの街は赤く照らされていた。暗闇の中で、炎を上げて、燃え上がるのは、紛れもなく、君の家だ。
「助けて」
そう言って君が僕のところへ逃げ込んできたのは、半年前。
君は怯え、震えていた。
君は新しく来た父が憎いと言った。身体中の痣は、全て父につけられたもので。再婚した後の母は君に興味を失くした。君の居場所は何処にも無い。帰る場所なんて無いのだと。
「もう限界。」
数時間前、君はそう言葉を残し、電話を切った。僕は嫌な予感がして、君の家を見に行った。電話を切られた後も、何度か電話をかけたけれど、君は一度も出なかった。それがまた僕を不安にさせた。
君の家の前に着いた時までは、特に変化らしい変化は無かった。けれど、家の中から、何か食器が割れるような音が響いてきたから、心配になって僕は中へ足を踏み入れた。
家の中で繰り広げられていたのは、君が父親に殴られている光景だった。床には透明な液体が大量にこぼれていた。近くには倒れたプラスチック製のタンク。それを見て僕は君が何をしようとしていたのか、すぐに理解した。
抵抗できずに力無く倒れ込んでいる君を、何度も何度も殴る父親に、僕は怒りが止まらなかった。転がり落ちていたライターを拾ったのは、僕だ。その液体に、火をつけたのも。
僕は父親を力いっぱいに殴りつけ、君を抱えて外へ出た。一瞬で、君の小さな家は、真っ赤な炎に包まれた。
僕は土手から、君の家が燃え堕ちるのを君と見ていた。
大変なことをした。それは分かる。
でも、君は何も悪くない。僕も君を助けただけだ。僕らは静かに秘密を分け合った。