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とある男の転換点


平城山誠治はY県出身で、誰に誇るような学歴も芸もなく平凡な青年期を過ごしていた。

彼は高校卒業後は土建屋に就職し、食うには困らなかったが二十九を迎えた年に奇病を患う事となる。


二〇三六年の四月の下旬、誠治は妙な気だるさを覚え、体の節々が酷く痛み、耐えがたくなってきたので休みを取り病院へと赴いた。


「ラインフェルス病です。残念ながら現在は治療法が確立されていない難病です。現在の我々の持つ技術では貴方の症状を和らげることもできないのです」


 医者は渋面を浮かべて告げた。

 ラインフェルス病。

世界でも十数件のみ報告される奇病で、症状は発熱、全身の痛みをもたらす。初期症状では筋肉痛に似た痛みだが、徐々に痛みは酷くなり、末期になるとそよ風が吹くだけでも気が狂いそうになる程の痛みを発すると言う。大抵この病気に罹った患者は全身の耐えがたい苦痛によってショック死してしまう。

 更に恐ろしいのは、この奇病を発症した患者は麻酔は愚か、様々な薬物が効かなくなる事だ。最初にこの難病に侵された患者は、痛みを和らげるために大量の麻酔を投与されるも効かず、最終的にはありとあらゆる薬物を試したが、結局治療半ばに命を落とした。


「先生、どうにかならんのですか」


 誠治はじっと医師の顔を見た。

 医師は暫くの沈黙の後、重苦しく唸る。


「先延ばしをする事なら、何とか」


 彼が提案したのはコールドスリープだった。

 ほんの数年前に「ライノチル・システム」を元に確立された技術で、多くの難病患者がコールドスリープによって保護され未来へ希望を託した。

 だが、当然その顧客は金持ちばかり。コールドスリープというサービスに対して払える程の蓄えは無かった。


「安心して下さい。実はラインフェルス病の患者は少なく、国と医療団体からの補助によって優先的にコールドスリープを受けられる対象になっているのです」


 もちろん医療研究の為、コールドスリープ中にも何度か目覚めさせ、その都度経過の観察と多少の検査を受けることを条件に、と言う事だった。

 誠治は一も二もなく、医師の提案を受けることにした。




 「平城山さーん、お加減どうですか」


 ありとあらゆるものが白で統一されたクリーンルームの中、全身をすっぽり覆う保護衣を着た看護師が誠治の顔を覗き込む。

 

「痛みが酷い。が、それ以外なら平気です」


 誠治はまるで痛みを感じさせないような声で答えた。

 病院側の持つ記録によれば、この時点で誠治の全身はプレス機で押しつぶされるような痛みに晒されているようなもので、末期の一歩手前まで来ているはずだった。


「それでは、徐々に意識が遠のいて行きますが、次に目が覚める時は未来の世界ですよ」


 マスクの奥で看護師が微笑む。


「ええ、それでは始めて下さい」


 誠治は瞑目し、装置が作動するのを待った。


 誠治が紹介されたのは、グッドスリープカンパニーと言うコールドスリープを用いた難病患者を保護するサービスを行っているアメリカの会社だった。支部は世界中にあり、日本では比較的地震や自然災害の被害の少ない東日本のH県に支部を置いていた。

 彼らの扱う睡眠誘発技術は催眠を導入に利用したもので患者への負担が非常に空くない。誠治の症状にも非常に相性が良かったのもある。

 このようなサービスを提供している会社は幾つかあるが、グッドスリープカンパニー以外の会社では投薬から患者を眠らせ、そこからコールドスリープが始まる。どちらにせよ誠治の選べる会社はこの一社しかなかった。

 この会社を紹介して貰えて幸運だった、誠治はそんな事を考えつつ、耳元のスピーカーから放たれる心地よい音波に意識を傾けるのだった。


「良い夢を」


 看護師の言葉と共に誠治の意識は深い闇に落ちて行った。





 深い闇があり、薄らと瞼を押し上げると白一色の世界。

 誠治は微睡の中、その白の中に動く人らしいシルエットを捉えた。

 体は鉛が絡みついたように重たく、意識もはっきりしなかった。

 誠治は普段よりも長く眠っていた程度にしか感じなかったが、眠りに落ちる前、検査の為に何度か意識を覚醒させると説明されていた事を思い出した。だが、判然としない微睡の中、誠治は再び眠りに落ちて行った。


 誠治が次に目覚めたときは、最初の時よりも意識がはっきりしており、視界も同様にはっきりしていた。

 病室らしき個室の中、視界を巡らせるとベッドわきに二人の人間が立っている事に気が付き、視線を向ける。

 一人は二十代半ばに見える青年で、もう一人は十七、八くらいの少女だった。


「お目覚めですね」


 青年は微笑むと、手元の機械を操作しベッドの背を上げた。

 静かな駆動音と共に誠治は半身を起こされた状態になり、個室の中を見回す。

 見慣れない機器が幾つか置かれている以外は殺風景な部屋だった。

 青年は森山と名乗り、自分が医師であることを説明した。


「どこかすぐれないところはありますか?」


 森山は尋ねる。


「いいえ、特には。……早速検査を始めるのですか?」


「検査? ああ、……いえ、もうその必要は無いのです」


 森山は頭を振ってこたえた。

 誠治が疑問に思っていると、ふと痛みが無い事に気が付いた。全身を苛む激痛はまるで嘘であったかのように消え去っていた。


「気が付かれたようですね」


 森山は大きく頷くと、誠治にラインフェルス病の治療方法について説明し始めた。

 ラインフェルス病は、あらゆる薬が効果を示さない事が知られていてその症例の少なさから効果的な治療法は中々発見されないだろうと言われていた。

 だが、ある時、コールドスリープを行う事で根治することが発見された。

 経緯としては、検査の為に覚醒させた別の患者が健康体に戻っていた事で明らかになった。ただ、依然として病気の原因は分からず解法のみが分っている状態らしい。


「発見されたのは二〇四八年の事です」


 誠治が装置に入ってから十年も経たずに発見されたと言う事になる。

 何十年もの時の経過を覚悟していた誠治にとっては嬉しい話だった。


「と言う事は、元の職場にも戻れるんですね」


 職人としての腕も確かだった誠治はコールドスリープを受ける事を告げた際、当時の社長から「何時でも戻って来い」と背中を押されていた。

 気の合う同僚たちも居た。

 そんな職場に戻れるのだ。

 だが、そんな誠治の胸に沸き上がった淡い希望は森山の言葉で打ち消される。


「非常に伝え辛いのですが、現在は二一八五年。つまり貴方がコールドスリープを処置されてから百五十年近くが経っているのです」


 森山は申し訳なさそうに言い、続けた。

 

「幾つか問題があったのです」


 グッドスリープカンパニーは当時、二〇三六年に不良機材の使用による大規模な事故を起こしていた。記録に照らし合わせた所、ちょうど誠治が装置に入った直後の事だったという。

 その事故によってH県に置かれていた支部から別の支部へと搬送される事になったのだが、その際手違いが起り、誠治の入った装置が別の会社へと送られてしまった。そして、折悪く当時では珍しかった睡眠導入を行う機器の問題点が浮上してしまう。装置の催眠誘導プログラムは不具合だらけで、利用者が精神疾患を引き起こす事が分ったのだ。

 森山は手にした薄型の電子端末に納められたファイルを誠治に見せる。

 見覚えのあるグッドスマイルカンパニーのロゴと、当時纏められた事故報告等が記載されていた。二枚目には当時の新聞の写しだろう、「死者三〇〇名超、高圧ガス管に亀裂、初期不良か」という見出しの切り抜きと、もう一枚、「グッドスマイル日本支社長を聴取」の見出しが大きく書かれ、その下には見覚えのある建物の写真が添えられていた。


「先ほど述べた事故では大量の死者を出し、しかも不良機材に関連する裁判によってグッドスマイルカンパニーは倒産。後始末の際に、搬送された利用者の記録が一部紛失してしまったのです。その中には貴方も含まれていました」


 青年は丁寧に事情を説明するが、既に誠治の耳には届いていなかった。

 結局の所、誠治は元の職場に戻れることを少し期待していたのだ。働く伝手もない、学もない、漠然とした楽観的な期待も崩れ去った。

 病は治ったが、結果、暗澹たる海原に一人放りだされたような不安が沸き起こる。

 

「……さん、平城山さん。聞いてらっしゃいますか?」


 誠治が視線を上げれば、森山が不安そうに見ていた。


「ええ、少し動揺していました」


 誠治は持ち前の胆力で持ち直すと、ここからの話は聞き逃すまいと森山医師を見据えた。


 そこからの話は、事故とは関係なく、今後の誠治の身の振り方についてだった。

 百年以上も経っていると社会の仕組みも大きく変わっているだろうと想像して、とてもではないが誠治は一人でやっていける気がしなかった。


「そこで彼女が貴方の保護役となります」


 森山が言うのに合わせて、一歩後ろで控えていた女性が進み出た。


「市川ローズマリーです。宜しくお願いします」


 そう言って市川は頭を下げた。

 誠治はローズマリーと言う名前に何とも言えない違和感を覚えたが、未来なのだ、そういう事もあるだろうと納得することにした。

 未来では様々な事が変化していた。

 先ほどの市川の名前もそうだ。誠治の過ごしていた時代と、百年以上未来の日本では命名のルールが大きく異なっており、漢字に英語の読みを当てるのが普通になっていた。

彼からすれば父親たちの世代でキラキラネームと言われていた類のもので、誠治の世代であってもそれは非常に稀な名付け方だった。どうも、何十年か昔に世界的な学者がキラキラネームだったらしく、その彼にあやかったのが始まりとの事だった。

 他にも日常会話では妙な言葉が残っていたりして、何か嬉しい事があったりすると「しゅごぉ~い」と言ったりする。

 誠治は出先で「しゅごいの~」と叫んでいた家族連れの中年男を見たときは思わず吹き出してしまった。

他にも「即ハボ」という言葉が残っていて、どうも男性が女性に告白するときに使われるようになっているらしい。誠治としてはそんな意味だったかと首をひねるようなものが非常に多い。そもそも誠治からするとほぼ死語にも近い感覚である言葉が多い。

 ともかくとして日常的に人と会話をしていると吹き出しそうになったり、意味が通じない言葉が非常に多いのだ。

 そういう点に置いて、誠治が未来世界に持った印象は悪かった。

 だが、そう悪い事ばかりではない。

 この時代において科学分野では目覚ましい発展があり、人類は月、火星に進出し、電脳化による人類の進化、不老化治療によって人は若さを保ち、長命化により平均寿命は倍以上となり、高性能生体義肢によって健常者と障碌者の境は消えた。

 特に不老化は最早世間常識となっており、成人を認められる年齢、つまり十八を超えると、本人の望んだ年齢で不老化措置が施される。

 誠治の保護役となった市川は、見た目に反して誠治よりも二つ年上だった。


 市川は誠治の為にその時代における社会の仕組みや、暮していく方法を細かに教えていった。誠治も市川を頼り、様々な事を相談し、時に頼られ、気が付けば二人は恋人となっていた。


 誠治が目覚めてから丁度一年。

 つまり二人の出会いも一周年を迎えた訳だ。

 市川は特別な日のために、世界的なリゾート地となったニューアオシマのホテルを予約して、二人きりで楽しむ事を計画したのだ。

 薄暗い照明の中、二人はベッドの上でじゃれ合っていた。

 誠治が市川へキスして耳元へ囁こうとした時、市川は誠治の腕をするりと抜けだす。

 

「今日は特別なのを用意したのよ。きっと気に入るわ」


 市川はそう言ってガウンの帯を解き、前を開いて見せる。

 誠治はその体に視線が釘付けになった。

 そこには、彼女の肉体には見慣れない、あってはならないモノが存在していたのだ。

 誠治とて市川と肌を重ねるのは初めてではない。

 だが、それは己の存在を見せつけるように屹立するそれは、まさにはちきれんばかりだった。


「マリー、これは?」


 誠治の声が震える。


「驚いたでしょ。今日の為に生体義肢を用意したのよ」


 市川は妖艶な笑みを浮かべると素早い動きで誠治の身体をひっくり返し、四つん這いにさせる。誠治は激しく動揺していたことに加え、思いの外強い力に成すすべなく抑え込まれてしまう。

 誠治の臀部に冷たい粘性の液体が垂れてくる。


「ま、待ってくれ、俺はその……」


「大丈夫よ、私もこういうの使うのは初めてだけど……痛くしたらごめんね」


 先端が押し当てられる。


「そういう問題じゃない!」


 声を荒げる。

 話には聞いていた。この未来では肉体の改造は日常茶飯事だ。男が女になり、女が男になる。ベースはそのままだが、様々なオプションを付ける事で様々な快楽に興じる。

それらに抵抗のあった誠治は自分をそういった事柄から遠ざけていた。

 まさか、止めてくれ……。

 誠治は堅く目を瞑る。

 そして……


「ッア――!」


 絶叫が迸る。

 抵抗を試みて体を激しく捩る。

 瞬間、側頭部に硬質の何かがぶつかったように酷く痛む。


「な、何が……」


 誠治が薄らと目を開くと、そこは薄暗いホテルの一室ではない。

 明るい場所。白く高い天井が見えた。


「マリー? どこだ?」


 体を起こして辺りを見回そうとした時、再び額を何かにぶつける。

 目を凝らせば透明度の高いガラスに覆われているのが分った。

 誠治は自分の置かれた状況が理解できなかった。

 余りの出来事に動揺して意識を失い病院かどこかに担ぎ込まれたのだろうか、そう思案して見回すと、ガラス張りの向こう側では病院関係者と、スーツ姿の人々が走り回っている。

 そのうちの一人が駆け寄ってくる。

 その人物は中年の女性看護師で、どこかで見覚えのある人物だった。

 看護師が手元の装置を操作すると、誠治の目の前にあったガラスの覆いが空気の漏れるような音と共に持ち上げられていく。


「先生、大変です。こちらの患者さんのコールドスリープが解けています」


 声を張り上げる。


「コールド? どういう事です。私はもう既に治療を受けて……」


「落ち着いてください」女性看護師は誠治の手首に付けられたタグを見てから「平城山さん、とにかく落ち着いてください」


「え、ええ……。ところでマリーは、何処です? 私を連れてきたと思うんですけど」


 辺りを見回すが、慌ただしく行きかう関係者の中に市川の姿は見えない。


「彼は、大丈夫そうですか?」


 行きかう人の中から白衣を纏った中年の男が現れる。


「バイタルには異常が見られません、ですが精神に影響を受けてしまったらしく……」


 女性看護師は渋面を浮かべる。


「そうですか……」


 医師は残念そうに頭を振り、誠治の傍に膝を着く。


「とにかく、ここを出ましょう」


 医師は誠治を助け起こすと、看護師に連れて行くように促す。

 誠治が寝かされていた巨大な部屋には幾つものポッドが並べられていて、それは誠治がコールドスリープを施された際に入れられたものと同じものだった。

 壁にはグッドスリープカンパニーのロゴが見える。

 たしかあの会社は倒産しているはず。

 誠治は自身の置かれた状況が理解できずに混乱が深まっていくばかりだった。

 大扉を潜ろうとした際、背後で爆発音が響き、幾つもの悲鳴が上がる。

 振り返れば、大量のポッドが破片をまき散らし、白い床が赤に染まっていくところだった。


「と、とにかくあなたはこちらに」


 女性看護師は誠治の手を引いて部屋を後にした。


 気が付けば誠治は、グッドスリープカンパニービルを、多くの避難した人々と共に見上げていた。

 

 結局、誠治は未来で目覚めさせられたわけではなかった。


 世間は誠治が眠る前のままで、市川も居ない。あれは夢だったのだ、とそう納得するしかなかった。

 だが、今回の事故が切欠となり、ラインフェルス病の治療方法が発見されることとなった。つまりはコールドスリープそれ自体が治療方法だったのだが、これは誠治が夢の中の未来で聞いた話と同じだった。

 誠治は病気が治ったと診断された後、仕事に戻ろうかと迷っていたが、やはり市川の事が忘れられず無気力な日々を送っていた。グッドスマイルカンパニーが起こした事件の補償金で暫くは生活できる。


 事件の収束後から一週間、誠治はポストに溜まった新聞を取ろうと家の表に出た。

無理やり突っ込まれた新聞が崩れ落ち地面に散らばる。


「これ、は……」


 誠治は膝を折り、散らばった新聞を拾い上げる。

一面には大きく「死者三〇〇名超、高圧ガス管に亀裂初期不良か」の見出し。

 まさか、と思いつつ、もう一つを拾い上げる。

「グッドスマイル日本支社長を聴取」の見出しが大きく書かれ、その下には見覚えのある建物の写真が添えられていた。

 夢の中の未来で見せられた新聞の切り抜きと寸分たがわぬ記事と内容。


 誠治は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

 あれは、どう考えても夢、だがそれだけでは説明しきれない。

 もしかすると本当にあれは未来だったのかもしれない。

 誠治は空を見上げ思いをはせる。

 覚醒させられてからの日々、市川とのかけがえのない日常、未来で出来た親しい友人達。


「あれは幻なんかじゃない」


 誰にともなく呟いて、それから部屋の中に戻ろうとして足を止めた。

 誠治は最後の夜の事を思い出していた。

 あの尻にあてがわれた生々しい感触。

 いくら愛おしい人物からだからと言って、流石にあれは受け入れられない。

 苦々しい顔になるのだった。



 その日を境に平城山誠治は、勉学に励んだ。

 十数年ぶりに本気で勉強し、某T大学へと入学。

 その後政治や法律を学び、四十を目前に官僚となる。

 五十半ばにして民自党の推薦を受けて選挙へ出馬、類稀なる弁舌と熱意で彼は一度の選挙で国会議員の席を手に入れることになる。

 平城山はその後、何度も再選を果たし、五年後、つまり六十にして第一六七代総理大臣となった。


 彼は経済政策等は凡人のそれだと揶揄されたが、こと教育分野、日本語の教育と科学分野へと力を注いだ。彼の政策のお蔭で日本の教育レベル、技術レベルは五十年早まったという。

 それと同時に、平城山誠治は法律の整備を並行して進めさせた。新技術を見越したかのような的確な法律は、様々な有用技術の悪用を防いだ。


 とある評論家は、「あたかもこれから登場する技術を知っているかのような。見事な洞察力を持っている」と評価した。


 平城山の没後、歴代の総理大臣の中でも非常に高い評価を受け続けるようになる。

 無学からの再出発でのし上がった人物。

 稀代の名総理。

 慧眼の持ち主。

 未来を知る男。

 様々な言葉で飾り立てられた。

 

 ただ、残念な事に平城山は生涯を通して独身であり続け、日常生活における平城山の事を知る人物は少なかった。彼の没後、資産は様々な研究機関へと寄付されたという。

 ある時、平城山の伝記を製作、出版する話が持ち上がり、とある研究所に保管されていた彼の遺品や資料を整理していた際に彼の日記が見つかった。


 これまで女性関係の噂の無かった平城山に「マリー」という愛人がいた事を示す文章が発見されたのだ。ただ、彼女がどういった人物なのか等は一切不明で、縁者と思しき人物も見つけることはできなかった。

 そしてもう一つ。

 日記の冒頭に彼の決意を示す文章があった。


「世の男達が彼女に掘られない未来を作るために」




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