人間になりたい。
僕は人間になりたかった。人間の体をしているけど人間ではない。僕は空っぽだったからだ。これはそんな僕が人間になっていく物語だ。
僕は道を歩いていた。どこまでも続く広大な道をひたすら歩いていると、とある村にたどり着いた。村に入ると大きな声が聞こえてきた。僕は声が聞こえる方へ歩いていくと、いろんな場所で村人たちが顔を真っ赤にしながら言い争っていた。あぜ争っているのかみんなに尋ねてみると、「こいつらが俺の言うことを聞かないから怒ってるんだよ!」、「この人が私を蹴ったから怒ってるのよ!」、「あいつがダラダラ働いているから怒ってるんだよ!」と言っていた。僕はなぜか怒ってる人達の顔の赤さに怒りが湧いてきた。そして村人たち全員に聞こえるように大声で、「なんでお前らの顔は全員赤いんだよっ!、見ていて腹が立つんだよっ!」と言った。すると僕と村人全員で言い合いになった。僕は怒りと言う感情を覚えた。ずっと言い争っているうちに僕は疲れてきて、「こんな村二度度来るかっ!」っと言って怒りながらこの村を出て行った。僕はこの村を怒りの村と名付けた。村からでてしばらく歩いていくうちにだんだん怒りの感情が消えていった。なぜそうなったのか分からず、僕はひたすら道を歩いた。するとまた知らない村にたどり着いた。村に入るとそこには、泣いている人や落ち込んでいる人、疲れてヘトヘトな人達がたくさんいた。それぞれが他人と関わらずに一人でいた。僕は一人一人に話を聞いてみると、「僕の好きな人がいなくなってしまって泣いているんだ」、「私の大切なものが壊れてしまって落ち込んでいるのよ」、「自分は仕事が大変でずっと疲れているんだ」と言っていた。僕は話を聞いているうちに、なぜだか悲しい気持ちになっていった。体に力が入らず、歩くことさえ辛くなり、涙がこぼれていた。僕は悲しみという感情を覚えた。しばらくの間一人で悲しんでいたのだが、僕はこの悲しみを誰かにわかってもらいたいと思った。そして僕は悲しみながらこの村を出ていった。僕はこの村を悲しみの村と名付けた。村から離れると少しずつ悲しみの感情がなくなっていった。これは怒りの感情の時と同じだと思った。なぜだろうと考えても答えは出てこなかった。歩き続けていると今度は大きな町見えた。行ってみるとそこには、大きな家や、公園、お店などがたくさんあった。町の人達を見るとみんな笑顔でとても楽しそうだった。なぜみんな笑顔なのか町の人達に聞いてみると、「仲間と遊んでいてすごい楽しいんだ」、「ほしい物が手に入って嬉しいからよ」、「好きな人と一緒にいれて幸せなんだ」、「他の人達が楽しそうだから僕も笑顔で楽しく暮らしているんだ」とみんな嬉しそうに答えてくれた。楽しそうな人達を見ているうちに僕も段々笑顔になっていき、楽しい気持ちになってきた。僕はみんなとおしゃべりして笑ったり、楽しく遊んだりした。僕は楽しさや、喜びの感情を知った。僕はこの感情をたくさんの人に分けてあげたいと思い、村を笑顔で出ていった。町から出てしばらく歩いていると楽しさや喜びの感情が徐々に薄れていき、消えていった。僕はなぜ村や町から離れるとその時に感じていた感情がなくなってしまうのか不思議だった。なぜなのかと考えているうちに次の村が見えてきた。村を覗くと、みんながそれぞれ誰かと話をしていた。どんなことを言っているんだろうと近づいてみると、「あんたの顔嫌いなんだよね」、「お前のその性格むかつくんだよ」、「あの人の態度すごい嫌だよねー」、「君のその言い方大っ嫌い」、「あの人の動き気持ち悪いよね」と言っていた。しばらく様子を見ていると、二人で話し合っていた村人が僕に近寄ってきて、「ねえねえ、あの家の前にいる人の着てる服、ダサいよね」と言ってきた。そう言わて見ると、ダサいなと感じるようになっていき、「確かにダサいよね」っと口にした。すると段々僕も一緒になって村人たちに、「あの人のしゃべり方うざいよね」、「きみのそういう性格が嫌い」、「あの人のあの言い方むかつくよね」と口にするようになった。僕は嫌悪という感情を覚えた。そして僕はこの村で言いたいことを言い尽くしてしまい、他の村に住んでいる人達のところに行って沢山の人に悪口を言いに行こうと思った。村を出るとき僕はこの村を嫌悪の村と名付けて去ることにした。そしてまた歩き続けているうちに、嫌悪の感情がなくなっていった。なぜそうなったのか考える間もなく村が見えてきた。その村はとても暗く、周りを見回しても人が見つからなかった。家を訪ねてみると、隅っこにしゃがみこんでいる人がいた。どうしたのか尋ねてみると、「生きることが不安で怖いんだ」と言った。他の家々に行ってみると村人たちは、ベッドに横になっていたり、机に突っ伏していたり、窓の外をじっと見ていたりしていた。なぜ外に出ないのか尋ねてみると、「人に会うと何か嫌なことを言われるんじゃないかと思うとすごく怖いんだ」、「失敗してみんなに怒られるのが怖いんだ」、「みんなから仲間外れにされるのが怖いんだ」、「人に嫌われるのが怖いんだ」、「いじめられるのが怖いんだ」と言っていた。次第に僕の中にも何かわからない見えない怖さが渦巻いていった。僕はその怖さのせいで常にビクビクするようになり、誰もいない家に入り、一人で部屋の中に閉じこもっていった。僕は恐怖という感情を覚えた。長い間閉じこもっていた僕は、この恐怖心から早く逃げ出したいと思い、恐怖心に怯えながら全速力で村を出ていった。そしてこの村を恐怖の村と名付けた。しばらく道を歩いていると、だんだん恐怖心がなくなり、怖くなくなっていった。なぜ一人で歩いていると感情を忘れるのか考えていくうちに、あることに気づいた。僕は村々で出会った、怒った人々や、悲しい人々、喜びや楽しみでいっぱいの人々、嫌悪な人々、恐怖心を持った人々の感情に影響されていたんだと思った。だから僕は一人になると周りから影響される感情がないからその感情を忘れてしまうんだということに気づいた。その時、目の前に大きな扉が現れた。扉が開くと中は光り輝いていた。僕はあまりの眩しさに目を瞑ってしまったが、ゆっくり目を開けると扉の前に人が立っていた。「あなたは誰ですか」と尋ねると、「私はあなたのお母さんです」と言った。お母さんは僕に近づき、僕を抱きしめた。僕はなぜか体が暖かくなっていくのを感じた。僕はそれがすごく嬉しくて嬉しくて、僕もお母さんをギュッと抱きしめた。僕はこの暖かさが愛情だということを知った。僕はこの暖かいお母さんの中に入りたいと思った。やがて僕は目を瞑り、ゆっくりとお母さんの中に入っていった。そして僕は人間になった。