5話カーペ・商業区
今回2話投稿
5〜カーペ・商業区〜
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商業区に辿り着く頃には時刻は太陽が頂点に達する昼頃になっていた。
思ったより長い間、傭兵組合所に居たんだなと思いながら近くの食堂に入り昼食を取る事にした。
頼んだのは牛のステーキに野菜が盛り沢山のスープにパンだ。
値段はこのボリュームで驚きの大銅貨6枚と安い値段だ。
腹も膨れた事だし早速給仕の女性にオススメの武器防具店を教えて貰い向かう事にした。
給仕の女性はこちらが騎士と思い偉く恐縮した態度であった。
正確にはアレスは騎士と言うよりもグレイスの私兵扱いになるだろう。
まあ、グレイスは領都に帰ったら正式にアレスを騎士に任命すると言って居たがグレイスの父親のグラーツィア公爵が認めるかは甚だ疑問だ。
今は先の心配よりも目の前の武器防具だ。と思考を切り替え教えて貰った場所へと向かう。
教えて貰った店は量産品を作る所では無くオーダーメイド専門店だ。
店には最小限の見本しか置いて居ない。
その中の手前に置いてあるロングソードを手に取り出来栄えを確かめる。
様々な角度から見た後、剣を一振りして感触を確かめる。
そうしていると奥から一人の店員が出て来た。
身長は140cm程しか無いが横にでかく筋肉隆々で立派な髭を携えたドワーフと呼ばれる種族だ。
|【Wirklichkeit】は一応ファンタジーゲームでもある為に他にも定番の獣人やエルフなども存在する。
「どうだ?」と言葉少なに尋ねて来たので正直に「少しばかり重心が前に傾いているな。これなら確かに遠心力を利用する時には良いが小回りが利きにくくなり俺には合わないな」と応える。
「ほぉ、そうか。だが見た所あんたは剣よりも槍の方が得意じゃねえか?」と言われたので「ああ、そうだが…何故わかった?」
「そりゃ長年の経験としか言えないな。何人もの武芸者を見て来たから何と無くそうじゃ無いかと思ってな」と立派な髭をさすりながら応える。
「そうか……それと一つ気になって居たんだが何故武器屋に皮の袋が置いてあるんだ?」と気になっていた疑問を口にする。
「ああ、あれは魔術袋だ。中には投げナイフに矢弾などの消耗品が入れてある。流石に並べるとスペースを取るからな。注文された時にあそこから取るんだよ。勿論防犯の魔術も施してあるから大丈夫だ」と応える。
だが魔術袋なんて|【Wirklichkeit】には存在して居なかった。
もしかしたらイベントリに該当する物だろうか?
「すまないが魔術袋とはどんな物だ?」と聞くと意外そうな顔をされたが答えてくれた。
「まあ、物によって容量は違うが最低でも金貨一枚の値段がする。一番下の魔術袋で確か容量が100kgだった筈だ。俺ん所のは300kgだな。あれを作る職人は数少ない魔術士の中でも一握りの人間らしいが会得すればそれ程作るのは難しく無いから市場に行けば手に入るぞ」
「なら何で金貨一枚もするのかと言うと材料費だ。作るのは簡単でもその元となる素材が高いから最低でも金貨一枚もかかるんだとさ。それと中の時はゆっくりとした時間の流れになるから日持ちしない物も数日なら魔術袋の中に入れとけば大丈夫だ」と教えてくれた。
詳しい事は専門じゃないからこれ以上の事が知りたければ他の奴に当たれと言われたがそれだけで十分だ。
まあイベントリの簡易劣化版と言ったところか。
イベントリは無限に物を収納できるし大きさも際限がなく中の時は止まって居るからな。
だが一つは買っといた方が良いな。
今まで皮袋などを持ち歩いて居ないのを不思議に思われなかったのもこの魔術袋を持っているからだと思われて居た可能性が高い。
その為に一つは持って居た方が良いだろう。
「ああ、ありがとう。そうだな……矢を20本、投げナイフを20本ばかり頂戴しよう」と礼の代わりに矢と投げナイフを購入する事にした。
この二つはまだイベントリに沢山あるが礼がわりに購入する。
多くても困る物でも無いしな。
全部で小銀貨20枚だった。
金貨しか持って居ない事に気付き「すまないがこれで」と金貨一枚を出したが普通に受け取り奥に戻り戻って来て「釣りの大銀貨9枚と銀貨8枚だ」と渡されたのでそれを懐にしまう振りをしてイベントリに収納する。
そして武器屋を後にしたアレスは早速道具屋に向かう。
道具屋の中には多種多様な魔道具や日用雑貨の類も置いて居た。
そして魔術袋が陳列されて居る棚に行きどれを購入するか考える。
置いてある魔術袋の値段は金貨1枚が一番安く金貨12枚が一番高い。
選んだのは一番安い金貨1枚のだ。
さて、残りの時間をどうするか。と思案して居ると通りの向こうから怒号と悲鳴が聞こえたので物見遊山気分で行ってみる事にした。
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向かう毎に人は増えて来て奥からは剣戟の音が聞こえる。
人混みを掻き分けて進むとそこには貴族と思わしき仕立ての良い服に身を包んだでっぷりと肥えた男とその取り巻きの人相の悪い数人の騎士の男たちがロングソードを抜き放ち二人の人物を囲んでいる。
そしてその二人の周りには既に3人の騎士が倒れ伏している。
どうやら囲まれている内の一人は相当な腕の様だ。
囲まれている二人の内片方はこの町の町娘だろう。
服装はそこらの者と変わらない麻で出来た上着にスカートを履いて手には籠を持っている。
そしてその町娘は豊満な胸を持ち顔もそこらの人々よりも頭一つ分美しかった。
そして豚貴族が「ブヒィ!邪魔をするな!その娘をこちらに渡せ!私は男爵だぞ!」と喚き散らしている事から、町娘の前に立ちはだかる茶色のローブで全身を覆いフードを目深く被っている人物が豚貴族の横暴を邪魔したのだろう。
その茶色のローブの人物がフードを下ろし豚貴族に「下衆が。貴族だからと何でも許されると思うなよ!」と憤怒の形相をしているがその人物は澄んだ水色の髪をポニーテールにして、つり上がった勝気そうな紫色の瞳。日焼けした健康的な瑞々しい褐色の肌をした長身の美女であった。
「ほう!主も美しいな。良かろう先程までの無礼を水に流してやろう。そしてその町娘ももう良いり変わりにお主が私のものになれ!ブヒィ」と顔を気持ち悪いぐらいニタニタとさせて傭兵と思わしき褐色の女の全身を舐め回すように見た後そう告げた。
褐色の女は抜き放ったバスタードソードを豚貴族に向けて「ふざけるな!誰が貴様のものになどなるか!」と反論する。
「ふん!なら力づくで分からせてやるだけだ!行け!お前ら!ただしできるだけ傷付けるなよ!ブヒィ〜!」と配下の騎士達13名に命令する。
3人は豚貴族の周りに残り残りの10人がジリジリと褐色の女を包囲して徐々にその包囲網を狭めて行く。
あの中で手練れは豚貴族の近くにいる3人のうち隊長格と思われる一番体格が言い男だろう。
その様子を20メートル離れた位置から群衆がただ見つめるだけで何もしようとはしない。
それもそうだろう。この世界には貴族が居り平民は決して逆らえないのだから。この世界の情報を集める中で貴族についても少しばかり聞いた。
この世界のカーストは王を頂点に貴族、大商人、平民、奴隷となって居り平民が貴族に逆らえば逆らった本人以外にも累が及ぶ為に逆らえない。
はぁ、と溜息を一つしてアレスは路地裏に行き服装を鎧甲冑に変え徽章の位置をちゃんと確認する。
そうしている間に騒ぎを聞きつけた衛兵がやって来て割って入って居た。
出るのを待ち様子を見る事にする。
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カーペの南通りに位置する衛兵詰所で俺ことカーペ治安部隊二番隊副隊長のシバン・タナールは今日も平和な日常を堪能して居た。
俺が暇な事は良い事だ。
何せ俺は治安部隊員なのだから。その俺がこうしてゆっくりとサティを飲みながらボーっとしてられるのも平和な証だ。
そんな詰所に慌ただしく町人の一人が駆け込んで来た。
それに入り口付近に居た部下が応対する。
「どうした?落ち着いてほら水だ。ゆっくり飲め」と水の入ったコップを渡す。
ぜぇぜぇと息を切らした町人はそれを受け取りグビグビと一気に飲み干した。
「み、南通りの八百屋の前で剣を抜いて争っている!」と町人は叫んだ。
それを聞いた俺はすぐ様に立ち上がり部下に身支度させ自分も手早く兜を被り支給されている剣を腰に挿し二人の部下だけを置いて他の手の空いている人員を全て騒ぎの場所まで引き連れて行く。
知らせに来た町人の誘導に従って向かった先には沢山の人々が集まって居たのでそれを掻き分けて進むと傭兵と思わしき女が一人の町娘を庇いながら数人の騎士と切り結んで居た。
それに腰の剣を抜き放ち「双方剣を収めよう!さもなくば問答無用で捕縛する!」と言い部下達も剣を抜き威圧する。
「おい、お前とお前は町人をもう少し下がらせろ」と近くの部下二人に指示して町人の安全確保に掛からせる。
二人は了承し町人達を下がらせて行く。
そして視線を再び戻すと騎士達と傭兵は剣をまだ抜いたままだが切り結ぶのをやめて距離を置いて居た。
そして騎士達の所属を問おうと口を開こうとする前に遮られた「おい!お前ら邪魔をするな!」と言われムッとしてそちらを向くとタチの悪い事に馬鹿貴族で有名な男爵が居た。
この町の管轄はログワーズ士爵で男爵よりも爵位は下の為にその部下である自分達はどうすれば良いか思案する。
確かに爵位はログワーズ士爵の方が下だがこの町をログワーズ士爵はグラーツィア公爵から貸し与えられている為に実質の支配者は公爵だ。
だが確かこの男爵の寄親はこともあろうにあのアバリシア侯爵家だった筈だ。
どの様に対応すれば良いか悩んでいると豚男爵が「わかったなら失せろ。ブヒィ」と鼻で笑おうとして豚みたいな音が鳴ったが本人は気づいてないみたいだがその周りの町人や豚男爵の配下の騎士達は笑いを堪えるのに必死だ。
そうだ!確か今この町にはグラーツィア公爵令嬢のグレイス様が居られる。ログワーズ士爵にこの事を伝えれば必ずやグレイス様の耳に入りこの事態を収拾して下さるに違いない。
と思い部下に耳打ちして館まで走らせる。
さて、部下が館に着きログワーズ士爵にこの事を伝えてそれがグレイス様の耳に入るまで結構な時間がかかるがそれまでどうするか?やはりここは拘束するのが一番だろうか?
覚悟を決めて俺は豚男爵に「貴方方を拘束させて頂く。事情は後程聞くので大人しくして居てもらおう!」と決断を下した。
「なんだと!?貴様私は旦那だぞ!……ええい!お前達奴らも切り捨ててしまえ!」と豚男爵が配下の騎士達に命じる。
馬鹿か!?俺たちはログワーズ士爵の部下だぞ!?他領で無法を働いた其方に非があるのにそれを咎めた俺たちを正当な理由も無しに切り捨てたらただじゃすまなくなるぞ!?
配下の騎士達は流石に戸惑った表情を浮かべるが豚男爵は憤怒の表情を向け「貴様ら!今更怖気付いたのか!?安心しろ!いざとなればあの方が助けてくれる!」と叫ぶと騎士達の顔からは迷いが消え寧ろこちらを嘲笑する様に口元を歪ませながら「お前ら運が無かったな」と言い切り掛かってきた。
「っクソ!応戦を許可する!」と部下に言い自身も目の前の騎士と相対する。
そうして数合打ち合ったが流石に騎士だけはあり徐々に衛兵側が押される。
数では衛兵の方に分があるが地力や技術などは及ばず何人かは劣勢に陥っている。
周りの事を気にし過ぎたシバンは相手の攻撃を往なすのに失敗して剣が弾き飛ばされる。
そして相手の騎士が剣を振り被る動作を見てシバンは(クソッ!此処までかよ!)と思い目を閉じたが一向に衝撃は襲っては来なかった。
目を開けると目の前には白銀の鎧を纏い闇をそのまま切り取ったかのような漆黒のマントを風になびかせ手には同じ様な見事な意匠が施された白銀の槍を手にした白銀の騎士が居た。
直前まで俺の目の前に居た騎士は左手で右手を抑えて蹲っている。
どうやら目の前の白銀の騎士がその槍で振りかぶった騎士の小手の部分を殴り俺への攻撃を防いでくれた様だ。
To be continued......




