2話出会い
2 〜出会い〜
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アレスは光点が光る場所の近くまでやって来て様子を伺う。
現在光点は止まっておりその周りを追跡して来た者達が囲んでいる状態だ。
アレスは紋章門を開放して目に集め視力を強化する。
この紋章門は各地の秘境と言われる場所にある祠に刻まれている文字を読み解く事で会得できる神秘の力である。
紋章により得られる力は千差万別で紋章を使用すると気力と言われる生命エレルギーが消費される為に普段は門と呼ばれる封印術式により閉じている。
開放するのは自分の意思1つで可能だ。
そうして紋章の力を使い視力を強化して状況を推移を観察する。
どうやら追われていたのは何処かの偉い人物、それも多分貴族とか言う身分の人物だろう。
止まった理由は馬車の車輪が壊れたからだ。
その豪華な馬車の周りには同じ装備を身に纏った騎士達8名が周りを固めて警戒して居る。
そしてそれらの集団を追いかけていたのはどうやら盗賊では無く刺客達の様だ。
刺客達は全員が黒いローブに、フードを目深く被り更には仮面をつけて顔を隠して居る。
アレスは案の定面倒ごとか……と溜息を吐き気を引き締める。
イベントリから弓を出し狙いを刺客の一人に定めて矢を当て弓の弦を引き絞る。
そしていざ襲いかからんとした刺客にアレスの魔弾と呼ぶべき強烈な威力の矢が頭に突き刺さり頭をその威力を持って爆散させた。
これにはアレスも驚いた。
【|Wirklichkeit】ではこの威力の矢が頭に当たったとしても爆散では無く首が引きちぎれるぐらいだった(まあこれでも十分に異常だが)ので一瞬ポカンとしてしまったが気を引き締め直して次の矢をつがえる。
刺客達はいきなり仲間の一人の頭が吹き飛んだ事により動揺している間に馬車の護衛の騎士達により近くに居た数人が斬り伏せられた。
騎士達が動いた事により正気を取り戻した刺客達も応戦するが次々と仲間が魔弾により討たれて行く。
アレスは次々と矢を撃ち込み刺客達を倒して行くが角度により木が邪魔をして思う様に狙えないのでイベントリに弓矢を仕舞い槍を手にパールに合図を送り刺客達に向かって駆け出して行く。
アレスの見た目は見たまんま何処かの騎士の様な出で立ちをしている為に刺客達はアレスの登場に援軍が来たのかと勘違いをして素早く撤退して行った。
その時には人数を大幅に減らして僅か五人だけが逃げて行った。
追撃しようかとアレスは考えたが騎士達は疲労困憊の様子でとても彼らを置いて追撃は出来そうに無いと、判断してこの場に留まる事にした。
騎士達はアレスが助けてくれた事は理解しているがそれでも警戒を崩さずアレスの一挙手一投足を観察する。
そんな騎士達の中の他より多少豪華な鎧に身を包んだ(多分彼らの隊長格だろうと当たりをつける)壮年の騎士が一歩前に出て例を述べる。
「助太刀感謝する。して貴殿は何処の騎士の者だろうか?寡聞にして貴殿の鎧を見るに所属が分からぬ故に勘弁召されよ」と丁寧に挨拶をしてくるがその瞳は鋭くこちらを観察している。
それにアレスが答える前に馬車の扉が開く。
中からは「姫様危のうございます」とその行動を戒める女の声が聞こえる。
壮年の騎士もそれに気付いたのかこちらから瞬時に視線を外して自身の背後の馬車を振り返る。
馬車の扉を開けて中から出て来たのは、腰まで届こうかと言う長さの白銀の髪が太陽の光に反射してキラキラと眩いぐらいに輝き、陶器の様な白く滑らかな肌を持ち、胸元が露出したそのドレスから覗くほっそりとした首筋と豊満な胸元が危うい魅力を醸し出している。
彼女の碧眼には明るさと凛々しさ双方を合わせた輝きが放たれその立ち振る舞いの一つ一つから隙はなく見る人全てを魅了するかの如くその顔には微笑みを携えた少女が現れた。
歳の頃は15、6歳ぐらいだろう。
「姫様危のうございます。どうぞ馬車中へお戻りを」と隊長の騎士が姫様と呼ばれた少女を嗜める。
「心配ありがとうヨルゲ。でも私達を助けてくれた御仁にちゃんと私からもお礼を申し上げたいのよ。それに頼りになる貴方達がいるではありませんか?」とその口から放たれる声はとても澄んでいて相手に安心感を与える。
ヨルゲと呼ばれた壮年の騎士や他の騎士達に微笑みこちらに視線を向ける。
微笑みかけられた騎士達は若干頰を紅く染めつつ更に気合を入れて周辺の警戒に当たる。
その碧眼はまるで全てを見通すかの様に水晶の様な輝きを含んだ澄んだ綺麗な瞳だ。
「ご紹介が遅れまして御免なさい騎士様」とドレスの端を雪の様に白い指で摘み優雅にお辞儀をしてくる。
アレスは気付けば自然と傅き頭を垂れて居た。
「私の名はミルハイム王国グラーツィア公爵家息女 グレイス・エアリアル・フォン・グラーツィアと申します。そしてここにいるヨルゲは──はっ!グラーツィア騎士団所属第一部隊隊長ヨルゲ・ド・テナークスと申す以後お見知り置きを」と眼光鋭くアレスを睨む。
「ご紹介ありがとうございます。私は流浪の旅に出ているアレス・ヘルトと申す者です。今回は微力ながらお力添えをさせて頂いた次第です」
どうやら言葉は通じるし相手の言葉も理解出来る。
これで意思疎通が問題なく出来る事にアレスは安堵した。
この未知の世界で言葉も通じなければ途方に暮れていただろう。
まあ、その場合もどうにかしてこちらの世界の言語を学ぼうとしただろうが。
それよりも一番良かったのが人間が居た事だ。
これが昔の地球の様に恐竜などの生物しか居なければその時点で詰んでいた可能性もある。
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異なる世界から来たと言えば信用され無いだろうから流浪の旅の道中だという事にした。
それにしてもミルハイム王国とグラーツィア公爵家は聞いた事が無いな?此処は【|Wirklichkeit】では無いのか?
疑問は尽きる事が無いが今はこの事は置いておこう。
「そうですか。助かりましたヘルト殿」とグレイスはアレスに軽くだが頭を下げて礼をを述べた。
これには護衛の騎士達やヨルゲに馬車の中の侍女達も驚いている。
アレスは今一その驚きの理由がわからないが現代で例えると会社の社長が一社員に頭を下げる様なものか?と解釈した。
それもただの会社では無く公爵家なので大企業中の大企業の会社の社長辺りだろうかと思い逆にこちらが凝縮する想いだ。
「いえ、当然の事をしたまでです。それに私が助太刀に入らずとも御身を護衛する騎士団の皆様方が不埒な曲者どもを撃退した事でしょう」と謙遜する。
その後他愛ない会話をしていると騎士の一人がやって来て「姫様、隊長。車輪の修理が終わりました。ですが何分応急修理ですので次の街で取り替える必要があります」と報告して来た。
それにヨルゲが「御苦労」と応えると騎士は敬礼して周辺の警戒に戻る。
「姫様出立の準備が完了致しました」とヨルゲは恭しくグレイスに礼をする。
「そうですか……。わかりました。ヘルト殿良ければ私の護衛に加わっては下さりませんか?」とグレイスは提案して来た。
これにヨルゲは「姫様確かにヘルト殿には助けて頂きましたが彼の素性は不明で御座います。ですので護衛は我らだけで「ヨルゲ。彼は私達を助けてくれました。それで十分では無いですか?」とグレイスに此処まで言われてはヨルゲは反論せず「わかりました」とだけ答えて従う。
「グラーツィア様よろしいので?」アレスは問い掛けると「ええ、では道中宜しくお願いしますね」と応える。
「はっ!畏まりました」
どうやらこのお嬢様は自分が想像する貴族とは一味も二味も違う様だ。
「あっ!」とグレイスは急に声をあげた。
何事かとグレイスに視線が集まるとその顔はさも良い事を思い付いたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべて居た。
これに対して周りはまた何か思いついたなと呆れ顔だった。
アレスは一人首を傾げているとグレイスはアレスに近寄り「ヨルゲが素性がわからなくて疑うならいっその事ヘルト殿グラーツィア公爵家の騎士になりませんか?それか私の親衛隊にどうでしょうか?」と爆弾発言をした。
これにはヨルゲは慌ててグレイスに駆け寄り「姫様!お屋形様の許可なく勝手にグラーツィア公爵家の騎士団には入る事は例え姫様と言えどまかり通りませんよ!?」と大声をあげる。
「そうね。では、私個人の私兵である親衛隊に入ると言うのはどうでしょうか?良い考えだと私は思いますが?」と提案と言う名の命令をして来た。
「それも駄目です!」とヨルゲは強く否定するが「大丈夫です!腕は確かな様ですし、お父様には私が説明しますから。それに頼めばお父様は優しいから許してくれますわ!」と少し砕けた感じの口調で反論する。
多分こちらが素なのであろう。
周りは優しいのは奥様と姫様だけで若様や部下達には厳しいとは口が裂けても言えないが目線でその事を訴えるが通じなかった。
「ですが……」と尚も言い募ろうとするが「ヨルゲ!これは決定事項です!」と言われて肩を落として「……わかりました」と返事をする。
「ヘルト殿……いえこれからはアレスと呼ぶわね?」といきなり砕けた口調で言われてアレスは頷くしか出来なかった。
「それでアレスには私の親衛隊に入って欲しいんだけど宜しいかしら?」と聞かれたので答えは1つだ。
「はっ!有難き幸せ。謹んでお受けします」と答えた。
「そう♪ありがとう♪」とグレイスは満面の笑みを浮かべて馬車へと入って行く。
そして馬車の中から一枚の徽章を持って来てそれをアレスに下賜する。
アレスは恭しくそれを受け取ると広げて見る。
そこにはグラーツィア公爵家の紋章である紅い獅子に銀の薔薇が刺繍された見事な徽章であった。
「これは?」と思わず声を漏らすとグレイスは「それは我が公爵家の紋章に私の銀の髪をイメージして合わせた物です。それは私の親衛隊の紋章であり私を象徴する者です。それを見に纏えば後見人は私となり汝アレスの身分は保証されるでしょう」と説明してくれた。
「有難き幸せ」とグレイスに深々と頭を下げる。
そして今度こそグレイスは馬車の中に乗り込んだ。
パールを呼び寄せ騎乗して護衛の列に加わる。
道中アレスは護衛の騎士に襲って来た者達は何者か聞くと多分政敵であるアバリシア侯爵家からの刺客だろうとの事だ。
だがアバリシア侯爵家の手の者と言う証拠は無くそれ以外も考えられるとの事だ。
何故アバリシア侯爵家が容疑の筆頭かと言うとグラーツィア公爵家とアバリシア侯爵家は政敵もあるがそれ以上にお互いの家の事を不倶戴天の敵と認める程に毛嫌いしている。
グラーツィア公爵家は清廉潔白を絵に描いたような一族で反対にアバリシア侯爵家は汚職や不正を行う悪しき家だ。
だがアバリシア侯爵家に辿り着く前にトカゲの尻尾切りの如く部下達を犠牲にして決して本体(アバリシア侯爵家)まで辿り着かせない様に巧妙に細工を施す。
その能力を領民達の為に少しでも使えば良いのにと日々グラーツィア公爵家当主様は愚痴っているそうだ。
今回グレイスはお忍びで友好貴族家と向かい今度の法案についての手回しをしに行きその帰りの道中だった様だ。
その法案が可決するとアバリシア侯爵家にとって少なく無い損害を与える事が出来る。
それは犯罪奴隷以外の奴隷の保護案だ。
アバリシア侯爵家は奴隷に厳しく毎月死者を何人も出すほど扱き使っている。
それは特に己の所有する鉱山からである。
犯罪奴隷以外は借金などの理由で一時的に奴隷の身分に落ちた者達だが売られた金額により期間が設けられその期間を過ぎると(ちゃんと働いた場合。怠けたりすると期間が延びる)解放される手筈になっている。
奴隷達に危害を加える行為などは禁止されている。
アバリシア侯爵家の奴隷達の死因は落盤事故や過労死が殆どの割合を占めている。
鉱山は危険が付き物だが死傷者数が他の領と比べて多いのだ。
その為に今回の保護案はそんな奴隷達を助ける為にグラーツィア公爵家が提案した者だ。
その為に一番刺客を送る可能性が高いのがアバリシア侯爵家と言うわけだ。
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その後何事も無く一行はグラーツィア公爵領最東部の街へと辿り着いた。
先触れを出して居たので街からは完全武装した200名程の騎士達が迎え兼護衛の為にやって来た。
彼らと合流し街へと入って行く。
To be continued......




