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グレイ、王城に行く

 

 【フランツ王国】の国王カーディナル・フォン・フランツは有能な国王である。


 そのことは彼の側近が総じて有能な人物であることから考えて疑いの余地はないだろう。


 能力があれば一般国民でも積極的に登用し、どんな者の意見でも無下にすることなく耳を傾ける。それでありながら特権階級である貴族や聖職者にも配慮した施政は階級問わず彼の人気を高めるのに一役買っている。


 国の膿と化していた既得権益にしがみつく貴族は粛清され、今の王国は歴代で一番クリーンな政治を行なっている、と専らの評判だ。


 今年在位30年を迎える彼が打ち立てた数々の革新的な功績は多くの人々に讃えられ、彼が「賢王」と呼ばれる所以となっている。


 さて、そのように有能且つ人気の国王だが、そんな彼は今グレイの前のソファーに座っいる。


 何故このような状況になったのか?それは今から1時間前に遡る。


 ♦︎♦︎♦︎


 決勝戦にてカイゼルとの激闘を制し、優勝したグレイは閉会式を終えた後、カイゼル、アーサー、レイラの4人とともに招待選手用の控え室にいた。


「それにしてもグレイさんはお強いですね。私はエルフなので、長い時を生きていますがグレイさんより強い方は見たことがありません」


「そうだな。私も魔法騎士団に所属しているので、強者と戦う機会はそれなりにあるが、グレイ殿はその誰よりも強いようだ」


「フハハハ!当たり前じゃ!なにせ儂に勝ったのじゃからな」


「まあー、これでもそれなりの数の修羅場は経験してますから。強くあらねばならなかったんですよ」


 グレイは思い出す。Magick and Sword Onlineでの日々を。凶悪な魔物との一騎打ち、PKギルドとの戦い、そして過酷なLevel上げ……。今思えば、かなり無茶なプレイをしていたものだ。まあ、そのおかげで今のグレイがあるわけなのだが……。


 そんなこんなで談笑していると、やがて数人の騎士、身なりから察するに近衛騎士だろうか?その者たちが控え室に入ってきた。


 そして、その近衛騎士に続く形で高価そうな服をきた覇気溢れる人物が入ってきた。


(……なんかオーラが見える)


 グレイはその人物の周囲に漂うオーラを幻視していた。


 レイラを見ると、彼女は一瞬慌てた様子だったが、すぐさま臣下の礼をとっていた。


 臣下の礼をとるということは間違いなく高貴な身分にある人物だろう。護衛の物々しさから言うと国王だろうか?


「楽にしていい。ここには作法にうるさい宰相はいないからな」


 その人物はニカッと人好きのする笑顔を浮かべ告げた。


「はっ!国王陛下!」


 レイラは臣下の礼を解いた。彼女の言から案の定国王だったことが判明した。グレイは初めて見る王様というものに何か感慨深いものを感じていた。


 しかし、何故国王がここにいるのか?その疑問は後に解消されることとなる。


「カイゼル。久しいな。半年ぶりくらいか?」


「そうじゃな。半年前に騎士団の指南役を引き受けて以来じゃからな」


「それにしても、何故今更武闘大会に出たんだ?」


「今回参加した理由はじゃな、此奴と決着をつけるためじゃ。名をグレイという」


 カイゼルはグレイを親指を立てて示す。


「ほう?で、お前は負けた、と?」


「ワハハハ!そうじゃ!儂もまさか剣技でも負けるとは思わなんだ」


「ふっ。確かにな。お前は魔法騎士団だと言うのに剣技では騎士団長より上だったからな」


「全くじゃ。……で?何しにきたんじゃ?」


「お前を敗った優勝者を実際に見たかったのと盗賊団の件だな……危なかったと聞いたが?」


「ほう。知っておったか。あの盗賊団について何か知っておるか?頭がやけに強かったんじゃが……」


「実はな、そのことを含めて話があるんだが、今から城に来てもらえるか?ああ、もちろん実際に頭を討ち取ったグレイ殿もな。俺は先に戻っている」


 国王ことカーディナルは近衛騎士を引き連れて控え室を後にした。


 先ほどまで国王に対して不敬と言える言葉使いであったカイゼルだが、それを咎める者はいない。それは彼とカーディナルが親友同士であるからだ。同年代、且つ将来国を治める次期国王と、最大都市の1つを治める次期公爵。身分は違うが、そんな共通点から仲良くなるのは必然と言えたかもしれない。


 彼らは12歳から18歳までの子供が通う王都内の【コンノーブル王立学院】にて出会った。貴族らしくないカイゼルと常に王族であろうとするカーディナルは当初反目していたが、互いの悩みや不安を知るにつれ、次第に仲良くなり卒業する頃には大親友と呼べる存在へと昇華されていた。


 卒業後は道を違え、カイゼルは魔法と剣技の才能を生かし魔法騎士団へ、カーディナルは次期国王として政務に関わるようになった。


 しかし、2人の友情は途切れることがなく、暇を見つけては友情を育み、学院を卒業して40年以上経った今でも未だに仲が良い。


 カーディナルが退室したのを見届けると、レイラはグレイに向き直った。


「グレイ殿は盗賊団を倒してくれたのか。王国を守る責務を担う一員として礼を言う。ありがとう」


 レイラはグレイに礼を言うと頭を下げた。


 カイゼルとグレイはアーサーとレイラに別れを告げると王城へと向かう。王城は王都の中心部、つまり【コンノーブル闘技場】のすぐ近くにある。


 2人は闘技場を出ると、待っていたエリザベートとセバスチャンに王城まで行くことを伝え、先に宿に行くように言う。


 王城に着くと、すでに話が通じていたらしく、特に引き止められることなく進入することができた。


 そしてメイドの案内でとある一室へと向かった。


 ♦︎♦︎♦︎


 視点は過去から王城内の一室に舞い戻る。


「グレイ殿、私の親友を助けてくれたそうじゃないか。礼を言うぞ」


「いえ、大したことは。それよりも俺に敬称はつけなくて構いません」


「そうか。ならそうしよう」


 ソファーに座るグレイにカーディナルが言った。


「それで早速だが、カイゼルとグレイに合わせたい人物がいるのだが、いいか?」


「ええ、もちろんです」


「うむ。構わんぞ」


「そうか。……ランドルフ、呼んできてくれ」


「はっ!承知致しました」


 ランドルフと呼ばれた人物は要人警護を目的として創設された近衛騎士団の団長だ。近衛騎士は乱戦、混戦は不得手だが、対人戦闘においては騎士団、魔法騎士団よりも卓越した技量を持つ。


 ランドルフの実力も当然高く、魔法なしの純粋な剣技ならカイゼルとも互角の勝負ができるほどだ。


 ランドルフに連れられて応接室に入ってきたのは長身のエルフだった。ピシッとした服を着、メガネをかけたその姿は仕事ができる男という印象を受ける。


「初めまして。私は冒険者ギルド コンノーブル支部の支部長を務めておりますアレイスラーと申します。以後お見知り置きを」


 アレイスラーは片手を差し出してきた。カイゼルとグレイは順にその手を取り握手をする。


 アレイスラーはソファーに腰掛けると話を始めた。


「カイゼル様とグレイ様が遭遇し、そして戦った盗賊団の頭は『悪神』の二つ名を持つ現Sランク冒険者で名前をシュラと言います。実力はあったのですが、素行が非常に悪くて……。最近姿を消したと聞いていましたが、まさか盗賊団の頭をしていたとは。それも王国中で指名手配されていた【ドラゴンヘッド】の。……はあ〜。頭痛い。後で本部長に絶対文句言われるな……。」


 アレイスラーは心労が溜まっているようである。


「コホンッ。……失礼致しました。つきましては冒険者ギルドから特例ですが報奨金を出させていただきます」


「「報奨金?」」


「はい。本来ならこのようなことはしないのですが、今回に関しましては特例です。ただ、代わりに1つお願いしたいことが御座います」


「「なん(でしょう)(じゃ)?」」


「非常に言いにくいのですが、今回の盗賊団討伐は冒険者ギルドからの依頼だったという形にして欲しいのです」


「「??」」


「冒険者ギルドの面子の問題です。冒険者ギルドの顔であるSランク冒険者が盗賊行為を働いていた、というのが些か問題でして。ギルドが制裁を加えたとすれば体裁は保てますので」


 つまり、冒険者ギルドはカイゼルとグレイにシュラ率いる盗賊団の討伐依頼をした、という形にしたいらしい。


 カイゼルはだんまりだ。盗賊団を壊滅させたのは実質的にはグレイなので、対応はグレイに任せるつもりらしい。


「構いませんよ」


「ありがとうございます」


「ただ、ギルドへの登録時期と盗賊団の討伐時期が違いますが大丈夫なんですか?」


「はい。冒険者ギルドで手に負えない案件を冒険者ギルドに登録していない実力者に依頼することは稀に御座いますので」


「そうなんですか」


「では報奨金をお渡しします」


 アレイスラーはインベントリから皮袋を取り出し、グレイとカイゼルに手渡した。たが、カイゼルは「実際に討伐したのはグレイだから」とその報奨金をグレイに渡した。


「あとグレイ様のランクを私の権限でBランクまで上げることもできますが、いかがいたしますか?」


 この話はグレイにとって渡りに船の話であった。Bランク以上となれば、依頼を受けなくてもギルドカードが失効しなくなるからだ。Cランク以下は1ヶ月依頼を受けないとギルドカードが失効し、向こう1年間は登録できなくなる。


「そうですね……お願いします」


「承知いたしました。それで、申し訳御座いませんが、後ほど冒険者ギルドまでご足労願えますか?明日でも構いませんので」


「ええ。分かりました」


「ありがとうございます。それでは私はこれから色々と処理が御座いますので、ここらで失礼致します。国王様、並びにカイゼル様。お時間頂きまして誠にありがとうございます。それでは失礼致します」


 アレイスラーは応接間から去っていった。


「カイゼル、それにグレイ。実は国からも報奨金が出ることになった。あの盗賊団には頭を悩ませていたからな。だが、なかなか尻尾を掴めず歯痒い思いをしていたのだ。よって国を治める王として礼を言うとともに、報奨金を与える」


「いや、儂はいらんから此奴に全部くれてやるがいい。盗賊団を壊滅させたのは此奴じゃ」


「そうか?お前がいいならそれで構わんが……。では、報奨金は全てグレイに与えよう」


「ありがとうございます」


「とまあ、話は以上だ。私はまだ仕事があるので失礼する」


「うむ。またのう」


 国王は近衛騎士を引き連れ応接間を出ていった。グレイは報奨金を貰った後、カイゼルとともに王城を出、大通りに出た。大通りにはセバスチャンが馬車を止めて待っていた。


「儂は宿に戻るとするか。お主はどうする?冒険者ギルドへ行くのかのう?」


「いえ、ギルドへは明日朝一で行くことにします」


「そうか。なら宿に行くぞい」


 カイゼルとグレイは馬車に乗り込んだ。セバスチャンは行者席に座り馬を操って大通りを進んで行く。


 10分ほど走るとやがて馬車は1軒の宿の前で停止した。貴族や裕福な商人が利用する高級宿だ。


「グレイ様の部屋は205号室です」


「ありがとうございます」


 グレイはセバスチャンから205号室の鍵を受け取ると部屋へと向かう。宿の部屋は15畳ほどの広さで豪華な装飾が所々に施されていた。


 グレイは精神的な疲れからかベッドに横になるとすぐに寝た。


 こうして色々あった、いや色々ありすぎたグレイの1日は終了した。


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